第二十五話 涙
終わりの時は…
やってこない。
うっすら目を開けると人の足が見えた。
目の前に立っていたのは姉崎とあの『悪魔』だった。
「……なんのつもりだ? そこを退け」しばらく黙っていた女王が口を開く。
「いや! ノアはそんなことしないもん!」
「ほう、私の名前を知っているのか。そこの男にきいたのか?」『悪魔』を指さし、少し驚いた様子で女王が言う。
「違う! 名前はノアが教えてくれたの」
「よく分からないな。退け、退かねば殺す」女王はつれなく答えた。
「しないよ。そんなこと、ノアは優しくて強い私の大事な友達だもん」
「お前など知らぬ」そう言った女吸血鬼はその目から片方だけ涙を流していた。右目に手をやったヘゲモネは、小さな子供のように戸惑った顔をした。
「なんだこれは」
「人間は悲しいとき、うれしいとき、心が強く動かされたとき目から透明な血を流すそうです。涙というらしいですよ」それまで黙っていた『悪魔』が静かに言う。
「これが……涙」再び目に吸い込まれていく涙を見ながらヘゲモネが呟いた。
「わからぬ。我はお前ら人間二人を知らぬのだ。何故かお前たちを見ると苦しくてたまらないと思う。何故」答えを探すように吸血鬼の女王は人間の少女の目を覗き込む。
「分からなくてもいいよ。ゆっくり分かってくれれば」そう言って姉崎は女吸血鬼を抱きしめた。抱きしめられたヘゲモネはぽろぽろと涙を流し、その腕を彼女に回そうとして、
止めた。




