第二十四話 責務
お互いに攻撃をするが、両者とも大きなダメージは与えられない。
ふと、女が動きを止めたので、俺も動きを止めた。
十秒ほどして音が聞こえる。ばたばたと走るような足音。タタタン、タタタンと馬のひづめが土を叩くような音。バサバサと鳥が羽をばたつかせるような音。ヘビのように地面を這う音。他にも様々な音がする。
俺と女吸血鬼は音のするほうを眺めていたが、音の主たちを見て言葉を失った。
吐き気がする。
この世の地獄というのはこういうものを言うのだろう。人間の姿の二本足で立ちながらその顔や腕などに、犬や猫、魚の特徴を持つもの。ケンタウロス、ハーピー、キマイラ、セイレーン、そういった神話にでてくる姿を保ったものや、それらを混ぜたような姿をしたもの。そこには、地球上のあらゆる生物の特徴が見て取れた。
そこにいるのは研究所に、人間によってその姿をゆがめられたキメラ体の大群だった。どれくらいいるのだろう。そいつらは俺らに襲いかかってきた。毒を吐くもの。プラナリアのように切っても切っても分裂するもの。デンキウナギのように電気を扱うもの。戦いにくいことこの上ない。何より、自分と同じように他者に人生をもてあそばれた者と戦うのは忍びなかった。
「やはり、人間というものは卑しいな」ぽつりと女が言った。
「え?」
「自らを世界の頂点に据えておきたいという傲慢さから、同じ種族の者にこのような仕打ちをするのだからな。大人しく自らが全てを管理していると自惚れることのできる場所におればよかったものを」その声は凍り付くような冷たさをはらんでいた。女王の姿が光に包まれ、暗い茶色の髪は薄く鈍色に光り、目は赤茶色になっている。半人半吸といった様子の女王が空気を薙ぐように斜め上に振り上げると俺とキメラが一斉に吹き飛ばされる。前回とは違う凄まじい力だ。腹が重しを載せられたように鈍く痛み、立ち上がれない。
「残念だが、お前の遊びに付き合うことはできなくなった。我だけならば許してやろうと思うていたが、この国ハイマを脅かそうとするのならば話は別だ。我には国を守る責任がある。まずはお前だ」近づいてくる声の主が言う。淡々と向かってくる女王の姿に死を覚悟する。死ぬのか。次の一撃は間違いなく俺をこの世から退場させるだろう。
「ごめん、朔」俺は目を瞑り、呟いた。




