第二十二話 片鱗
「朔、お前何があったんだ?」
「見ての通り体をいじられたんだ。あいつらにね。僕はますます人間からかけ離れていく」朔はあきらめたような顔をした。
「あいつら?」
「研究所の人間だよ。了、僕を起こしてくれてありがとう。僕は薬漬けにされてるんだ。最近はこうやって僕でいられるのも少なくなってきた。了、君は僕らの希望だ。絶対に研究所のやつを信用したら駄目だ」
「でも」
「アミさん、か?」
「あの女の漢字、どうやって書くか知ってる?」
「……いや」俺はラボの入り口で見た畢という字を思い出しながら答えた。
「畢竟の畢っていう字だよ。終わるっていう意味だ。」
「それが?」
「僕の名前は朔、担当員の名前は一色とかいてヒイロという名前だった。気付かない?あいつらは僕らをナンバリングしてる。担当員の名前とリンクさせてね。それだけじゃない、君の左手首にはマイクロチップが埋まってる。了、君はやつらに常に監視されてるんだ。奴らは僕らを単なるモルモットとしか思ってない」
「そんな、ことが」
「僕を信じて、きっとわかる。僕を一番理解できるのは君で、君を一番理解できるのは僕なんだ」苦しそうに朔が言う。
「……わかった。でも、ここで外したらお前に言われたってバレるんじゃないか?」
「それなら大丈夫、ここはGPSが機能しない。さあ、早く」朔は銃口からナイフをひっこぬいて俺に手渡した。
俺は黙ってうなずくと左の手首の朔が言われた場所を薄くスライスするようにナイフを動かした。四角くて黒いものを見つけ、肉に癒着したそれをむしり取る。
「ここにいてはいけないよ。さっきの女吸血鬼を倒したいなら、追いかけて倒してもいい。とにかくここにいてはダメだ。やつらに追いつかれる」朔は諭すように言う。そういう朔の言葉に反応して辺りを見回すと、いつの間にか女王は姿を消していた。
「お前は?」
「僕は行けない。いつ理性を失って君を襲うかわからない」
「それでもっ」俺は冷たい金属をきつくつかんだ。
「いい? さっきも言ったように、君は僕の希望なんだ。僕はどうなろうとかまわない。それに、これでも僕は『最高傑作』なんだ。君を間違って殺したりしたら僕は死んでも死にきれない」朔は祈るように言った後、少しふざけたように言った。
「さあ、行くんだ」強い口調で言われ、俺はうなずいた。




