第十三話 吸血鬼
「おい。起きろ」俺はこんな状況で平気で寝ていられる神経極太の姉崎を起こそうと声をかける。
「移動、してる?」ガラスの箱は何か布のようなものをかぶせられているようだった。
「ああ、さっきからな。こんながたがた揺れててよく眠れるな」
いきなり揺れが収まるなり、布が剥ぎ取られる。
そこは、王城の廊下といった具合で、長い廊下のつきあたりに一つ両開きの金属製と思しき扉がついている。
パリン、という音がしてガラスが崩壊し、みるみるうちにきらきらした砂粒くらいの大きさになって空に溶けて消える。
また、あの『悪魔』の仕業か?
「ね、どうする?」素早くライターで草に火をつけながら姉崎が聞いてくる。
「ここまで来たんだ。行く以外ない」同じく火をつけ、答える。
「だよね。行こ」俺らは扉に向かって歩いていった。
幸い最初の時のようなトラップもなく、無事に扉の前にたどり着く。
俺たちは無言でうなずきあうと、扉を押し開けた。
そこにあったのは、よくファンタジーなんかで見る「玉座の間」と呼ばれる空間に似ていた。まっすぐに伸びる大理石の通路のその先の数段高くなった場所には、銀細工らしい玉座があり、その後ろには国章のようなものが掲げられている。
玉座に座っているのは、銀髪に赤い目の少女だった。間違いない、女王だ。ずっと憎んでいた相手を見つけられたことに狂気にも近い喜びを感じる。
「何用だ、人間。ここは我ら吸血鬼が住まう国ハイマ。ここに貴様ら人間の居場所などない」口を開いた女王はそう言った。
「ノア!ノアだよね?」姉崎が興奮した様子で尋ねる。
「は。我を人間だと称すか、小娘」
「え?」聞いたこともないような冷たい声色に姉崎が傷ついたような様子を見せた。今すぐ殺してやりたい、そう思うが相手に有利な状況でお荷物を抱えたまま仕掛けるほど、俺は愚かではない。
「まあ良い。目的を聞いてやる。何を成しに来た?」女王は二人の人間に尋ねた。
「ノアを、ノアを探しに来たの! お願い、あなたがノアなんでしょ?」
「二度同じことを言うとはつまらんな、小娘。ならば、教えてやろう。我は、ハイマを統べる女王だ」
「ヘゲモネ?」
「ああ。女王ということだ。本来男系種族である吸血鬼の王家に数千年に一度ほど生まれる強大な力を持つ女吸血鬼のことだ」
「吸血鬼の、女王」
「そうだ、これで貴様も我が探し人でないことを理解したか?」
「……」当てが外れた姉崎は、ショックを受けたのか黙り込む。
その時、またいきなり現れたガラスの箱に俺たちは閉じ込められた。




