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死地
眼前に展開する光景はおよそこの世のものではない。
渦巻く黒い霧が、校庭中央から発せられる火山雷を思わせる閃光に、その邪悪な陰影を躍らせている。
(あそこか……)
邪悪な霧を纏わせながら、グラウンドを縦走する車両を薙ぎ払う竜の咢。
砕ける車体と飛び散る人影。
背中の翼が展開を始めるのを感じながら、弘明は二人の後輩に語り掛けた。
「待ってろ、今楽にしてやるからな」
(今ここにある魂は、みんな俺が連れてってやる……)
産まれて初めて感じた充足感に弘明は酔いしれる。
頬が引き攣る。
肩が強張る。
顎が鳴る。
弘明自身に明確な自覚は無いものの、人の形を捨てた弘明の姿は、みるみる大きさを増して一本角と長大な尾を持つ翼竜へと変貌を遂げた。
その翼竜の姿を認めて、霧と車両を睨み据えていた銀竜が動きを止めた。
激しく振られていた首がゆるゆると上昇して、翼竜に増して長大な胴体を揺すって高みから翼竜を睥睨する。
溢れる涎を気にする風もなく、かつて摩耶だった銀竜は眼前の翼竜に咆哮した。
とぐろを巻いた銀竜の内側から、太一が灯す眩い燐光が摩耶のとぐろから溢れ出した。
(まるで女の股間から腕を突き出す男の様だな……)
かつて睦み合った不良少年少女の面影を銀竜に見ながら、翼竜弘明はありったけ声帯を開いて腹で暴発した咆哮を銀竜に叩きつけた。




