標
病院の窓から覗く暗い空の中。
一筋の光跡に順子は思わず足を停める。
流れ星だろうか、立ち止まった順子の頭上、音の無い感覚が報せて順子の眼に漆黒の夜空に光跡を描く何かの存在を見せる。
何?何の光?何かがあの光が流れ星などでは無いと順子に教える。
通常流れ星は斜め下へと軌跡を描くが、今順子が見ている光跡は逆に斜め上へと軌跡を描いている。
胸騒ぎと同時に武者震いの如き感覚が沸き起こって順子の背筋を冷ややかな、それでいて冷たくはない不思議と愛おしさを伴う異様な感覚が這い上って来た。
あの光は何処へ行こうとしているのか。
再び順子の両足が動き出し、背中を押されるように足取りが早まる。
自分も急がなくては。
置いて行かれないように。
彼等と共に。
これ以上置いてきぼりを喰らって淋しい思いをすることなど耐えられない。
そうだ、順子は確信する。
あの光は仲間。
何処で、何者と、どう戦っているのかは知らないが。
あの光は紛れも無く順子の同志。
説明出来ない何かが順子に教える。
自分が己が想いに囚われて右往左往している今この時にも何処かで誰かが戦っている。
つい先日、霧に追われて逃げ惑い。市街に拡がる凄惨な状況に恐れおののいていた自分が、今はあの霧とその中で蠢く怪物共に対峙しようと息巻いている。
自分の身に何が起こっているのか?
良平も、潤も、太一や摩耶達にも、みな明らかな変異を遂げ始めている。
後戻りできない何処かへ向かって。
皆我先にと、まるで逸話にあるレミングの群れの様に、破滅に向かってまっしぐらに駆けだしている。
うすら寒いそんな気配を感じながら、それでも順子の歩みは怯む気配も見せない。
それは暗い夜道を校庭に向かってひた走る摩耶も同じだった。
「怯える時間はもう終わり」
誰に向かって言ったのか、摩耶は病院に残して来た子供の事を一瞬思って、太一の待つであろう校舎に向かって急ぐ。
その先に何が待ち受けているのか虫が報せてはいるが、摩耶ももう後には引けない事を自覚していたのだ。
少女達の思惑なぞ知らぬ顔で、夜の暗闇に紛れて山頂から押し寄せる霧は着々とその地へと歩みを進めていた。




