決意
まさか自分が置いてきぼりを喰らう立場になるとは。
常に、優等生ぶった同級生を意気地なしどもと嘲り。
自ら進んで悪ぶって、進学だキャンパスライフだとはしゃぐ同級生を尻目に、俺はお前等より一足先に世の中に出てやるんだよと粋がっていた太一。
霧が現れるまでは世の中太一のターンだったのだ。
周囲の奴らは太一の顔色を窺い。
ルールに縛られぬ太一は、人の眼を気にする同級生達がやりたくても出来ぬ事をやってのけ。行きたくても行けぬ場所に出入りしてきた。
それが太一の強みでありアイデンティティーでもあったのだ。
それが霧の出現によってそのアイデンティティーが奪われてしまった。
普通の力技ならいつもの通り腕力とハッタリで思い通りにしてしまうのだが、霧相手では腕力もハッタリも役には立たない。
まるで羽をもがれた猛禽類だ。
幾ら鋭い爪と嘴を持っていても、地面をパタパタと走る事しか出来ないでは滑稽なだけ。
もう摩耶には追い付けない。
それどころか凡人だと思っていた潤にも美咲にも追いつけない。
俺について来ていたはずの摩耶が今は俺に背中を見せている。
勉強が嫌いで、馬鹿にされるのも嫌いで、なれなれしい奴が嫌いで、卑屈な奴が疎ましく、威張った奴が大嫌いで。
あれも嫌いこれも嫌いと生きていたら何時の間にかそばに人がいなくなった。
どういう訳で気に入られたか近寄ってきた摩耶がいつの間にか心の拠り所。
女に優しい男でもないのに身勝手な太一について来てくれた。
世の中には粗野な男を好む女もいるらしいと、始めのうちは深く考えもせずに付き合い始めた関係だったが。
親しさを増し、互いの背景を知るにつれ、恋愛感情とはまた別の感情も湧いて来た。
俺達のけ者同士なんだ。
自ら他人を寄せ付けまいとした太一。
望んだ訳でも無いのに他人との壁の内に置かれてしまっていた摩耶。
惹かれあったのか、引かれ合ったのか。
互いに愚痴り、互いに吐き出し、互いに慰め合った。
摩耶だけは失う訳にはいかない。
いつの間にか太一の心に深く刻まれていた。
「今晩どうするつもり?」
摩耶の問いに美咲は後ろの潤に視線を投げる。
「駅近くのビジネスホテルにでも泊まろうかと思ってる、あの辺まだ動いてるみたいだし」
今更美咲との事を隠す意味も無いので潤は素直に摩耶の問いに答える。
肯定するように頷いた美咲に、太一を向いた摩耶が問いかける。
「あたし達もそうしようか?」
2組の高校生カップルが示し合わせてホテルとか、笑える状況では無いのだが太一は無理して笑う。
「いいねえ、スワッピングでもするかい?」
戯言を言う太一を目の端に追いやって摩耶は美咲と潤を促す。
「あんな馬鹿ほっといて行きましょ」
繋いだままの美咲の手はそのままに、空いた手で潤の腕を取り歩き出す摩耶。
「おいおい、そりゃねえだろ。俺も連れてってくれよお」
おどけて言ったのは太一のせめてもの抵抗だったか。




