新時代
第六話 新時代
⸻
両手を上げたまま、シンは動かなかった。
⸻
男が叫んだ声で、集落から人が出てくる。
三人、四人。
槍を持った男もいる。
でも走ってこない。
歩いてくる。
前の時代と、そこがもう違う。
⸻
(落ち着いてる)
(警戒はしてるけど、慌ててない)
⸻
男たちが半円を作って止まった。
距離を保ったまま、こちらを見ている。
前の時代なら、この後すぐ槍が来た。
今日は違う。
⸻
(観察してる)
⸻
人の輪が割れた。
老婆が出てくる。
背は低い。
だが腰は曲がっていない。
目が鋭い。
前の時代の老婆と、どこか重なる。
⸻
(この目だ)
(いつも、この目の人が出てくる)
⸻
老婆はシンを頭から足元まで眺めた。
服を見る。
手を見る。
顔を見る。
「……外から来たな」
言葉が分かった。
前の時代より、音が少し丸い。
「はい」
「一人か」
「はい」
「荷物は」
「ないです」
⸻
老婆は少し間を置いた。
⸻
「……腹は減っているか」
⸻
(え、聞いてくれるのっ)
⸻
「とっても!!」
正直に言った。
老婆の口端が、わずかに動いた。
笑ったのかもしれない。
そうだったとしたら嬉しい。
⸻
火のそばに座らされた。
前と同じだ。
輪の外側。
完全には受け入れられていない。
それも前と同じだ。
⸻
ただ、槍は向けられていない。
男たちは距離を取っているが、囲んでいない。
ただ、見ている。
⸻
(前は警戒だったけど、今回は観察だ)
(ニュアンスが違う)
⸻
少しして、食事が出た。
木の器に、煮た何かが入っている。
どろっとしている。
いい匂いがする。
⸻
(って、器?!)
(器がある!!)
⸻
感動した。
前の時代は葉の上か素手だった。
器という概念がある。
土を焼いて器にしている。
文明だ。
これが文明だ。
⸻
食べる。
うまい。
味がある。
何かで味付けされている。
⸻
(味する!味すごい!)
(前の丸焼き肉も好きだったけど、これは違ううまさだ)
⸻
周りの人間も食べている。
前の時代と違うのは、分配に順番があることだ。
老人が先に受け取る。
子供が次。
大人が最後。
誰も文句を言わない。
⸻
(秩序がある)
⸻
前の時代には、なかった。
強い者が取る。
余りを弱い者が拾う。
それが前だった。
ここは違う。
誰かが決めたルールを、皆が守っている。
⸻
食べ終わって、周囲を改めて見る。
家の形が違う。
柱が高い。
屋根が急な角度で傾いている。
茅のようなものが葺かれている。
雨を受け流す構造だ。
⸻
(考えて作ってる)
⸻
前の時代の住居は、低かった。
土と草を積んだだけみたいなやつが、ぽつぽつと並んでいた。
ここは間取りがある。
導線がある。
集落全体が、設計されている。
⸻
(人間、すごいな〜)
⸻
地面に縄が落ちているのに気づいた。
拾う。
細い草を編んだ縄。
端が綺麗に処理されている。
前の時代にも縄はあった。
でも、もっと粗かった。
束ねただけ、みたいなやつ。
これは違う。
意図がある。
技術がある。
⸻
(人のレベル、上がってる……)
⸻
道具も進化している。
石だけじゃない。
木と石を組み合わせている。
縄で縛ってある。
複合だ。
⸻
(技術が組み合わさってる)
⸻
何百年かで、ここまで変わる。
当たり前のことのはずなのに、目の前で見ると全然違う。
人間は、積み重ねる生き物だと思った。
⸻
子供が遊ぶ声がする。
女たちが何かを話している。
前の時代より、声が多い。
前は皆、口を閉じていた。
常に何かを警戒していた。
⸻
(余裕があるんだな、ここは)
⸻
シンは火を見ながら、器を両手で持ち直した。
空だ。
きれいに食べた。
器、という概念に、まだ少し感動が残っている。
⸻
(明日、何が来るんだろ)
⸻
タダは「南から来る者がいる」と言っていた。
敵か、と聞いたら「分からん」と返ってきた。
その言葉が、まだ頭に残っている。
分からん、ということは。
前の時代とは、違う可能性がある。
⸻
火がはぜる音がした。
集落が、少しずつ静かになっていく。
⸻
(第七話へ)
⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻⸻




