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召喚直後に同級生が戦い始めたので、《虫の知らせ》を信じて俺は城を出た  作者: きゅっぽん
第一章 俺は城を出て地味な冒険者になる
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第七話 メーベの街と、十メートルの絶叫

 俺たちは一週間の旅を終え、クロスたちとメーベの街を見下ろす丘の上に立っていた。

 「あれがメーベの街だよ」

 クロスの示す先、森を切り開いた空き地の中に、百を超える屋根が密集していた。外周は盛り土と丸太の壁で囲われている。

 クロスの仲間で一回り年上のガエルを先頭に街に入ると、その体格に人が自然と道を空けた。

 後ろでは弓使いのエルナが藤堂と話し込み、マレクは無言のままだった。

 しばらく進むと、通り過ぎた店先から、わざと聞こえるような声がした。

 「ちっ、臆病者のサントナール人が偉そうに」

 ふと、クロスの顔を見ると彼の口元が歪んでいる。

 俺の視線に気付いたのだろう、クロスが説明してくれる。

 「まあ、もともとの住民は移民を歓迎はしないさ。

 今じゃ街の半分は移住者で、この五年で森側に倍ほど広がったけどね」

 それを聞いて街を見ると、王都側に比べ、奥へ行くほど建物は新しい。

 奥にいる人々も、どこか雰囲気が違って見えた。

 「サントナール人は、緑や紫、星の図柄を好むんだよ」

 ……コイツ、エスパーか?

 見れば確かに、この辺りでは、緑や紫の布地や星の装飾の人が目立つ。

 あ、クロスも星の耳飾りを付けてる。伊達男め。

 「ここが僕の友達家で、しばらくはここの部屋を借りる」

 彼に案内されたのは、森側にある大きな家で、用意された部屋にはベッドが四つ並んでいた。

 お友達は、それなりに裕福なようだ。

 その日は家主のマテオさんが、サントナール料理で歓迎してくれた。

 羊肉を豆と香草で煮込んだ料理で、ニンニクとハーブの香りに食欲を刺激された。

 小学生くらいの娘のルシアちゃんは、久しぶりのごちそうだとはしゃいでいた。


 翌日から、俺たちは森に入って薬草の採取を始める。クロスたちは西の森、俺たちは東の森に別れた。

 森の浅いところは既に取り尽くされているらしく、俺たちは次第に奥へと入っていった。

 「なあ、小田切。お前のスキル鉄道って何も出てこないんだよな」

 俺は薬草が見つからず、飽きてきてそんなことを聞いてみた。

 「ああ。電車が召喚できるハズなんだが、いくらやっても出てこねー。

 都内近郊の全車種を試してみたが、全滅だったぜ」

 「全車種知ってるのが、まず凄いな」

 「フッ、俺は天才だからな」

 「いや、マニアではあると思うが。

 それよりスキルも最初は小さいのしか召喚できないってことはないか?」

 そこで、藤堂が口を挟んだ。

 「どゆこと?」

 「つまり、最初はスキルも弱くて、使っていくうちに強くなるってことさ」

 俺の考えに、三上も頷く。

 「なるほど、熟練度や経験値システムというわけですね」

 「だからさ、小さなトロッコとかなら呼べないか? 腰丈ぐらいで人が押すようなヤツ」

 それを聞いて小田切が目を輝かせ、頭の上に腕を組んで体を捻る。何のポーズだ、このデブ?

 「ほほう、それは鉄道の原型。

 二十インチゲージの木製レール。人類初の量産された軌道車のことかい?」

 「うん、たぶんそれ」

 熱の入った小田切に、俺は素っ気なく答えた。

 小田切は人差し指を頭に当て、念じ始めた。

 すると、彼の前方に幅五十センチほどの木製のレールが伸び、十メートルほどで止まった。

 そして、最後に思った通りのトロッコが小田切の手元に現れた。

 「おおっ」

 全員が驚きの声を上げた。

 「ふっふっふっ、ではまず俺自らが試してみるか」

 「いや、僕にやらせて」

 「待て待て、俺にも」

 男子どもは互いに睨み合うと、同時に飛び込んだ。

 「アンタたち、危ないよ!」

 藤堂が警告するが、誰も聞きはしない。

 三人が上半身を乗せてしがみつき、トロッコが走り出す。

 丁度、下り斜面になっていたので、スピードが上がる。

 「うおおおっ」

 雄たけびを上げる俺たち。

 だが、しょせんは十メートル。すぐにトロッコは、レールを飛び出し、俺たちは投げ出された。

 叫びながら地面を転がり、しばらくして止まった。

 仰向けになった俺は、青い空を眺める。いい天気だ。

 「コラーッ、馬鹿どもー」

 藤堂の怒声に、俺たちはビクッとなる。

 俺たちは藤堂を見た。彼女は俺たちの方を指さしている。何だ?

 「薬草が潰れてるわよ!」

 慌てて立ち上がる俺たち。俺たちの尻の跡を見ると、採取しにきた薬草が潰れていた。


 藤堂に土下座した俺たちは、再び薬草を探しはじめる。

 「それにしても、お前のスキル使えないな」

 俺はボソりと呟いた。

 「何だと? さっきは喜んでたじゃないか!」

 小田切がキレる。

 「いや、楽しかったよ。スゲー楽しかった。

 でも、十メートル物を運んで、どうだっていうんだよ」

 俺の言葉に、三上も続ける。

 「トロッコをぶつけて攻撃するにしても、レールを伸ばすタイムラグがあるしね」

 小田切は凹んだ。藤堂が取りなすように言う。

 「まあまあ、使っているうちに、使えるようになるかもじゃない」

 この時、俺は珍しく先頭を歩いていた。

 藪を掻き分けようとした時、虫の知らせがあった。

 だが、遅かった。俺が掻き分けた藪の先に、緑の肌の醜い小人がいた。

 ゴブリンだ。向こうも藪を掻き分けたところだった。メッチャ近い。目が合う。

 「ギャギャ」

 「ゴブリンだー」

 叫ぶ俺。ダメだって分かっているが、しょうがないじゃないか。突然で驚いたんだから。

 幸いというか、向こうは逃げていったので、俺たちも急いで逃げた。

 仲間がいても困るからだ。


 そんな感じで一週間ほど薬草採取を続ける俺たち。

 最初は全然見つからなかった薬草も、生えてそうな場所が分かってきて、だんだん取れるようになった。

 ゴブリンに遭遇することもあったが、三匹以下で不意を打てれば襲いかかり、それ以外は逃げた。

 幸い、足の長さの差か、俺たちが全力で逃げれば逃げきれた。

 「なあ、藤堂。お前の通せんぼってさ」

 俺は何気なく聞いた。

 「うん、私の横は抜かせないヤツ」

 「それって、バスケのディフェンス的な?」

 「そう、バスケのディフェンス的な」

 そんな会話をしながら、採取を続ける俺たち。

 この日、俺たちは気が緩んでいたようだ。

 気づいた時には、茂みの向こうにも気配があった。

 前後左右を見れば、十匹ほどのゴブリンに塞がれていた。

 「おい! 虫の知らせはどうした、高橋」

 「気付いたよ! でも遅かったんだよ」

 怒鳴り合う俺と小田切。

 コイツら、俺たちに恨みでもあるのか? あ、最近、少数を狙って襲ってました。

 全員、背中合わせに、槍を横にして押し返そうとする。

 「ちょ、何で私に三匹も来るのよ」

 「藤堂、コイツら通せんぼしてよ」

 「馬鹿、それって私が生贄じゃん」

 三上と藤堂も言い合っている。やばい。マジやばい。



 王城の軍議室。天城はクラスメイトから離れ、エドガー王子に随行する形で軍議に参加していた。

 室内の中央には王国全土の地図が広げられ、周囲を取り囲む軍務官や将校たちがそれを見下ろしている。北方の王都を起点に南へと広がる国土のうち、その五分の一は既に魔族の勢力圏として塗り潰されていた。中央部には王国軍の主力を集結させる大要塞バルクスが、防衛線の中核として構えられている。

 「さて、このアマギの力は諸兄も先日見たとおりだ。これより彼らには最前線へ向かい、魔族討伐に従事してもらう」

 エドガーの言葉に、天城は一歩進み出た。

 「承知しました、エドガー王子殿下。その上で、城に残る他の学生たちの待遇についてご検討を――」

 言葉は最後まで届かなかった。重い扉が開き、室内の空気がわずかに揺らぐ。

 「その必要はありませんな」

 低い声とともに現れた巨躯に、軍議室の視線が一斉に集まる。第二王子グレゴールである。鎧のままの姿は、軍議の場にあって当然のようでいて、同時に圧を伴っていた。

 「異世界人など所詮はゴブリンと同じ蛮族。見世物のような力を借りずとも、もうじき王国軍が魔族を殲滅するでしょう」

 将校たちの間に、かすかなざわめきが走る。

 「グレゴール。バルクス要塞にいたのではなかったか」

 エドガーが静かに問うと、グレゴールは即座に応じた。

 「兄上が余計な配慮をなさると聞き、無用と申し上げに戻ったまでです」

 断言する声には一切の揺らぎがない。そこには交渉の余地も、妥協の気配もなかった。

 天城はその巨躯を見上げる。

 軍議室の空気はさらに重く沈み、提案が通る余地は静かに削られていくのを感じていた。

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