第三話 神ギフトとゴミスキル
公爵に連れられていく黒瀬君達を見送り、俺達はエドガー王子に再び注意を向けた。たぶん、俺達の処遇を決めるのが彼だからだ。
「では、君たちのギフトを確かめよう。セドリック、彼らを練兵場に連れていってギフトを調べろ」
王子が隣の青年にそう言った。濃紺の服を着た金髪で細身の青年だ。
クラスメイト達も言いたいことは沢山あるだろうが、黙って互いを見回している。
真鍋さんが目の前で殺されたのを見て、萎縮しているのだろう。
俺にもここで声を出す勇気はない。だが、ここに勇者はいた。
「エドガー王子殿下。僕たちはギフトのことも、この国のこともほとんど知りません。
いきなりのことで戸惑う者も多く、まずは事情をお聞かせ願えないでしょうか?」
「そのあたりはこの男に聞け」
エドガー王子はそう言うと、兵士の半数以上を連れて帰っていった。エイリーズと呼ばれた女もそれで身を翻す。最後にはセドリックと数人の兵士だけが残った。
セドリックと呼ばれた青年は、鉄の棒でも入っているかのようにピシリと立っていた。
「私はセドリック・アシュトン。エドガー王子殿下の近侍官だ。
ここはヴァルディア王国」
何だか感情のこもらない口調だ。
「ギフトは天空の女神ソラリア様の恩寵とされる力で、スキルとは隔絶している」
淡々とした説明が続く。どうやらこの人、必要最低限しか話さないタイプらしい。
それにしてもソラリア様。あのトンネルにいた虹色の人かな。
「スキルは技能や素質で、多くの者が何か一つは持ち、自問すれば判明する」
そこで、クラスメイトたちがざわめく。
「伝承では、異世界の勇者がギフトで人類の敵を倒すと言われているが、信じる者は少ない」
セドリックは一度だけ俺たちを見渡した。
「練兵場へ着いたらスキルを申告し、実践してみせろ」
そして彼は、背を向ける。
「ではついて来い。モタモタするな」
そう言ったっきり、彼は部屋を出ていってしまった。
セドリックが出ていっても、みんなの足は重い。ここで声を出したのも、やっぱり天城君だった。
「みんな、突然こんなことになって、混乱しているだろう。
だけど、ここ、日本みたいに人権とかある場所じゃないと思う。
だから、状況がつかめるまでは彼らの言う通りにした方がいいと思う」
「そんなの無理だよ……」小さく泣き声が漏れた。
これに最初に同意したのは御堂君だ。
「そうだな。
俺たちはたった三十人くらいで、あっちは一国だ。
幸い、俺たちにはスキルとかギフトって力があるらしい。
そう粗末な扱いはされないだろう。まずはそれを確認しよう」
続いて白石さんが、グッと両手を握ってみんなを励ますように言った。
「みんな、辛い気持ちは分かるけど……力を合わせて頑張ろうよ」
やっぱり天城君たちだ。これでみんなも渋々動き出した。
俺も、もちろんついて行く。
石造りの通路を通り、階段を上がる。
連れられていく間に、俺は自分の能力が何か自問してみた。
すぐには分からない。
だがしばらくすると、心の奥に浮かんできた。
――虫の知らせ。
それが俺の能力。
何かがあると何となく分かることがあるらしい。
……いや、曖昧過ぎるだろ。
外の広場まで出ると、俺達のスキルだかギフトだかの確認が始まった。
天城君たちは率先して能力を開示し、セドリックに協力姿勢を見せた。
天城君の能力は、先ほど見せた聖剣召喚。御堂君は攻撃魔法、白石さんは治癒魔法が使えるらしい。
うんうん、バランスのいい勇者パーティだね。
だが、そんな使える能力ばかりでなく、大半の生徒は微妙な能力だったり、その場で発揮できない能力だった。
そして、素直に従わない生徒もいる。
「おい、次はお前だ。スキルの名前を言え」
槍を持った兵士にそう言われたが、九条さんは口元を扇子で隠したまま、その言葉を無視する。
「貴様、王子の命令に従わぬというなら痛い目を見るぞ」
そう言って槍を振り上げる兵士に、飛び出す影があった。
「麗華ちゃんをイジメるのは許さないよ!」
それは我らがおさる少女、もとい桜庭さんだ。
彼女は兵士の頭上まで跳び上がった。
逆さの体勢のまま、コマのように回転する。
学生服のスカートが、ひるがえった。
そして、彼女は兵士の肩に乗るように両足を巻き付けると、叫ぶのだった。
「ひっさ~つ! 首四の字!」
「ぐえっ」
兵士が首を抑えて倒れ込む。周囲の兵士たちが一斉に槍を構えた。
セドリックは腕を組んだまま、それを黙って見ている。
「貴様、抵抗するか!」
三人の兵士が桜庭さんに槍を向けると、今度は九条さんがその間に入った。
「お止めなさい」
だが、兵士達は止まることなく槍を突き出した。
「ぐっ、どういうことだ」
「お、押し込めん」
「なぜ、刺さらない」
三本の槍の穂先は、九条さんから十センチほどのところで止まっている。
「さすが麗華さま」
「麗華さまに無礼でしょう!」
彼女の取り巻きが騒ぐ。
「おい、コイツ抵抗するぞ!」
槍を押し込もうとしていた兵士が、周囲の兵士に声を掛ける。
「ふむ。接近戦で気絶させるスキルと、防御スキル。いやギフトか。
よし、次」
それを見ていたセドリックは淡々と言う。
「セドリック様、コイツら抵抗を」
九条さんに槍をさせなかった兵士は抵抗するが。
「さっさと次を調べろ」
セドリックは一顧だにしない。
「はっ」
それを聞いてビクリとした兵士は、素直に従った。
そして俺の番となる。
「貴様のスキルは何だ」
「えっと、虫の知らせ、です」
俺は弱々しく言った。明らかにゴミスキルだ。辛い。
どういうスキルか聞かれても、ふわっとした答えしか返せないし、ここですぐに見せられるものでもない。
突然、左の二の腕に鋭い痛みが走った。
「っ!?」
何が起きたのか分からない。
見ると、俺の腕に短剣が突き刺さっていた。
その柄を握っているのは、すぐ後ろに立っていたセドリックだ。
「な、何で」
俺が腕を抑えてそう言うが、彼は既に興味を失ったように背を向ける。
「探知系か。反応は不安定。」
彼はそのまま行ってしまった。白石さんが慌てて駆け寄ってくる。
「高橋君、大丈夫?」
そう言うと、傷に手を当てる。何か仄かに光ると、温かいような感じがして痛みが引いていく。
これが治癒魔法か。
「もう、痛くない?」
「あ、ああ。もう大丈夫だよ、白石さん」
災難だったが、白石さんに腕を触ってもらえて少し嬉しい。
「がんばろうね」
そう言って、ポンと肩を叩くと戻っていった。か、可愛い。
そんな感じで俺達の能力判定は終わった。
◇
王城を出た馬車は、ほどなくして公爵の屋敷へと到着した。
今、公爵の執務に座る黒瀬は、たった一人。対して公爵の後ろと部屋の四隅には騎士が立っていた。
「何で俺一人なんだよ」
「彼らは君の手下のようなものだろう。ここはトップ同士で話そうじゃないか」
「チッ、俺はお前の命令は聞かないぜ。俺達を元の場所に帰しやがれ」
「王女が君達にしたことは遺憾だが、あいにくこの国に帰す方法を知る者はいないだろう。
その場合、君らはこの国で生きていく必要があるが、どうするつもりかね。
野盗になろうというなら、さすがに見過ごせないが」
「何を言いてぇんだ」
「儂が君を後見しよう。
時々儂の頼みを聞いてくれれば、普段は自由にしてくれていい」
「俺を飼うことはできないぜ」
「頼みを聞くかどうかは任せるよ。君が困った時には、儂を頼ってもいい」
それからしばし、公爵を睨む黒瀬。
「……ふん、お前の部下になるわけじゃないからな」
公爵は小さく笑った。
「もちろんだとも」




