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召喚直後に同級生が戦い始めたので、《虫の知らせ》を信じて俺は城を出た  作者: きゅっぽん
第三章 岩壁都市イスカンダル
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第二十三話 思いきれ!裂け目の向こうへ

 「誰だ、お前?」

 俺はターバンの男に聞いた。

 「俺は風来坊のステュムパロス。スーさんと呼んでくれ、兄弟」

 ターバンの男こと、スーさんは、俺に肩を組んで馴れ馴れしくそう言った。

 「お前、この街の人間じゃないな。どうやってここまで来た」

 俺は腕を振り払うと、そう問いただす。

 ここは陸の孤島で、そうそう人の出入りはないのだ。

 知らない人間というのは、ほとんどいないハズだった。

 「そりゃ~、ここに凄い宝があるって聞いてさ。是非とも拝みに来たってわけよ」

 スーさんはそう言う。

 「ここは常に物資不足で、宝なんかないぞ」

 「へぇ~、そうかい……」

 こちらの警戒も気にせず、スーさんは勝手に話を進めていく。

 「……で、……じゃないか」

 「それが、……となって、……なんです」

 気づけば俺は、仲間を放置して最近の悩みを話していた。

 「あ~、自分だけ足踏みしてるのは辛いよな。でも、目に見える成長を気にするより、何をしたいか、そっちに進んでいるかが大事だと思うぜ」

 「……そうっスね」

 しかも、回答が適切だ。意外と経験豊富なのかもしれない。

 ——そう思ったときだった。襲撃を知らせる笛の音が聞こえた。

 ガタン、と立ち上がる。

 「襲撃だ。俺たちは行く」

 そう告げて外へ向かう。

 「気をつけろよ~。席、温めとくぜ~」

 その声は場違いなほど軽かった。


 外に出ると何故か笛の音は、街壁の方ではなく山側から聞こえてくる。

 戸惑っていると、すぐ脇をドミニクが叫びながら通りかかる。

 「避難所へ逃げろ! 魔物の襲撃だ!」

 「ドミニクさん、敵はどこですか?」

 俺が問い掛けると、彼は足を止めて山を指さす。

 「あっちだ。上からは手薄なんだ。お前らは住民を誘導しろ!」

 街の上、岩山の斜面に目を凝らす。

 蜘蛛のような影が、十……いや、それ以上。

 ここから見えるなんて、実際の大きさはどれくらいだ?

 「みんな、行くよ」

 藤堂の声で、俺たちは駆け出した。

 岩場に刻まれた道を通り、普段あまり来ない、街の上へと向かう。

 「おいっ!」

 小田切が止まった。

 岩陰から、脚。

 続いて現れたのは、蠍の胴に人の上半身が繋がった怪物だった。

 「コォーーー」

 怪音と共に、尾が振り下ろされる。尾の先には鋭い棘。

 カッ。

 「その攻撃は通さないよ」

 藤堂が鉄の盾で受け止める。

 「ドリャー」

 間髪入れず、小田切のフレイルが唸る——が、鋏に止められる。

 「チッ、硬え!」

 もう一方の鋏が伸びる。

 ジャリ。

 その鋏に、ライトフレイルの鎖が巻き付いた。

 「死体操作」

 三上が踏ん張り、動きを止める。

 その隙に俺は槍を突き込む——が、人部分の腕が湾曲刀で弾いた。

 クソ、手数が違う。

 そのとき、嫌な予感。

 「おおーーーっ」

 俺は反射的に槍を引き戻し、背後へと突き出した。

 そこには、槍を弾くもう一匹の蠍人(スコーピオンマン)がいた。

 「何だよ、二匹目かよ!」

 小田切が叫んだ。

 俺は一人で後ろの蠍人を抑えようとするが、手数が足りない。

 次第に追い詰められ、振り下ろされる尾が避けきれない。

 ——やられる。

 カッ。

 「高橋、スイッチだよ」

 藤堂が鉄の盾で受け止めてくれていた。

 「こっちは任せて」

 俺は頷き、反転する。

 時間を稼ぐなら、俺より彼女だ。

 「小田切、ハサミを壊せ」

 「おう!」

 三上と俺で動きを縛る。

 その間に、小田切が叩き続ける。

 一撃、二撃——

 鋏が砕け、尾が折れる。

 とどめに、腹へ。

 グシャ、と鈍い音が。

 蠍人が血を吐き、崩れ落ちた。

 残りも四人で押し切る。

 ふう、と息を吐いた、そのとき——

 「姫様!」

 切羽詰まった叫びが、岩場に響いた。

 俺たちは顔を見合わせ、声の方へ駆け出す。


 「見て、あそこ!」

 藤堂が指さす先では、五人の騎士が蠍人に押し込まれていた。

 その背後に、一人の女性。

 庇いながらの戦いで、明らかに劣勢だ。

 「……深いな」

 俺は彼らとの間の大きな岩盤の裂け目を見下ろす。

 迂回すれば間に合いそうもない。

 「あっちの壁はどうでしょう?」

 三上が示したのは、裂け目を繋ぐほぼ垂直の岩壁。

 「ちょっと、無理だろ」

 ロッククライマーじゃないんだから。俺はそう思ったのだが。

 「——いや、いけるぜ! 鉄道召喚!」

 小田切の足元から、レールが伸びる。

 だが、トロッコのレールでは裂け目を越えられそうもない。

 いや、このレールは少し違うのか?

 レールは弧を描き、岩壁へと延びる。

 支柱が突き刺さり、岩壁沿いにさらにレールが伸びていく。

 そして、対岸まで繋がった。

 小田切の足元に、カートのようものが現れる。

 「何だよこれは?」

 俺が聞くと、小田切が胸を張る。

 「へっ、これはマウンテンコースター。トロッコとジェットコースターの中間みたいな……」

 「行くよ!」

 言い切る前に、藤堂がカートに飛び乗り、滑り出す。命知らずかよ。

 カートは岩壁横をカーブして、裂け目を渡り切った。

 「小田切、俺たちも」

 「あ、ああ」

 カートの出現と同時に、俺も飛び乗る。

 ガタガタ揺れ、裂け目の底には思わず視線を逸らしてしまう。

 だがそれも数瞬で、対岸へと渡り切る。

 「加勢します!」

 「頼む!」

 藤堂、俺、三上、小田切が順に戦闘に加わり、蠍人を抑え、打撃を加えていく。

 数の均衡が崩れた。

 ほどなくして、蠍人は全て討伐された。


 「助太刀、感謝する」

 騎士の一人から感謝の言葉が投げかけられた。

 「私からも、感謝を」

 騎士の後ろから、高貴な雰囲気の女性にも声を掛けられた。

 歳は俺たちとそう変わらないように見える。

 綺麗な人だが、見たことがない。誰だろう。

 そう思ったのが悟られたのか、彼女が名乗った。

 「私はリュシーナ・グレイロード。元サントナール王国の王女です」



 「僕が……戦いを止める機会を潰してしまった」

 魔族が王国への攻勢を強める中、天城たちはその最前線で戦い続けていた。

 「大和(やまと)! 今は目の前の敵に集中しろ!」

 御堂の魔法が砦に近づく魔族たちに放たれる。

 「天城君、自分を責めないで。私たちみんなの責任よ」

 白石の魔法が、魔族から撃ち返された魔法を防ぐ。

 「ちっ、ここはもう、もちそうにないな」

 魔族が投げつけた槍を、榊原が盾で防いだ。

 魔族の攻勢は強く、王国軍は次々に戦線の後退を余儀なくされていった。

 その中で、天城たちの戦いは精彩を欠いたものとなっていた。

 「危ない、天城君!」

 白石が叫ぶ。

 彼女や榊原の守りの間を縫って投げられた槍が、天城の死角から飛来した。天城も目の前の魔族と剣を合わせており、避けられない。

 「グハッ」

 横から飛び出した騎士が、槍を自分の身を盾にして止めた。彼のマントは、楡の枝にとまる青い鳩のブローチで留められていた。

 「お前、真鍋を殺した……!」

 榊原が怒鳴った。

 「そう、私はフィリア王女の騎士。王女の名誉を汚したお前たちを許しはしない。……だが、姫様を守れなかった私も許されるべきではない」

 騎士は槍を腹に受けたまま、そう言った。

 「傷の手当てを」

 そう言って近づく白石の手を、騎士は振り払った。

 「私はお前たちの助けなど借りない」

 騎士は懐から手紙を取り出し、グッと天城の方に突き出した。

 「姫様からの手紙だ」

 天城が手紙を開く。榊原は彼を庇うように盾を掲げた。


 異世界の勇者さま、

 身勝手に皆さまを呼び出したうえ、お願いすることしかできない厚かましさを、お許しください。

 魔族たちはあまりに恐ろしく、しかもこの地を、故郷である魔界のような、魔力に満ちた世界へ変えようとしています。

 そうなれば、人間は生きていけません。

 どうか、人々をお救いください。

 フィリア・ルクレツィア・ヴァルディア


 手紙にはそう書かれていた。

 「人間と魔族は共存できないのか……。」

 天城は呟いた。

 「母国サントナールの汚名の下、母君が亡くなり、亡国の王女と蔑まれてなお、姫様は人々を案じ続けていた。魔族の危険性に気づき、最後に残された王族の権限で、王墓に眠る、魔族に抗うための知識を探し続けていた。寝る間も惜しんでな。そうして見つけたのが、召喚術であり、その白い鎧だった」

 騎士は傷の痛みを押して話し続けた。

 「私が憎いなら命をやろう。だが、王女の最後の願いを聞いてくれ。この地に生きる全ての人々のために」

 「この鎧……、僕は……もう迷わない」

 天城が決意を告げた。

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