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召喚直後に同級生が戦い始めたので、《虫の知らせ》を信じて俺は城を出た  作者: きゅっぽん
第三章 岩壁都市イスカンダル
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第二十一話 白荒野の岩壁都市イスカンダル

 白荒野ホワイトバッドランドの半地下都市イスカンダル――元サントナール王国の王族がいるとされる街だ。

 この街に来て一週間。俺たちは準兵士として、街の警備や雑務を手伝いながら滞在していた。


 「トールお兄ちゃん、蠍みつけたよぉ~」

 街の外で少女が声を上げる。

 「クレアちゃん、離れてて。今、(とおる)お兄ちゃんが行くからね」

 三上が駆け寄り、ライトフレイルを逆手に持って、柄の先で蠍を潰す。

 「おい。あの子、小学生くらいじゃね。放っておいていいのか?」

 街壁の穴に、ちょうどいい石を探しながら小田切が俺に聞く。

 「まあ、ノータッチならいいだろう。キリないし」

 俺も穴に石を押し込んでから、額の汗を拭った。こうして街に、蠍や毒蛇が入り込むのを防いでいる。

 「リナ姉ちゃん、俺もうこんなになったぜ」

 「ずりーぞ、テオ!  リナ姉ちゃん、俺のも見てよ!」

 「俺のなんか、こんなにデカいぜ」

 「おー、お前たち頑張ったなー。姉ちゃんがナデナデしてやるゾー」

 小さな男の子たちは藤堂に褒められるため、拾った石の数や大きさを競っていた。石が残っていると毒虫の隠れ場所になるため、街の周囲からはなるべく撤去している。

 この街の人口は三、四百人ほどしかいないので、子供たちもふつうに街のために働いていた。

 「ほら~、お前たちもそろそろ日陰で休めよ~」

 藤堂が日陰に入って呼ぶと、子供たちもいそいそと彼女の横に並ぶ。

 子供の付き添いも、準兵士の仕事だ。


 「いや~、今日は何も出なくて良かったぜ」

 街の外から戻る途中、小田切が頭の後ろで手を組みながら言う。

 「まあな。一昨日の狼は面倒だったからな」

 餌の少ない荒野じゃ、街へ入ろうとするのも分かるが、それを追い払うのは楽じゃない。

 「その前は、大トカゲだろ。うんざりするぜ」

 小田切がぼやくが、俺も全面的に同意だ。

 「クロスたち、この前の大蛇の死骸を回収してきたらしいね」

 藤堂が、俺から取り上げた水袋を傾けながら言った。

 なぜか男の子たちは、彼女の水袋をすぐ空にしてしまうのだ。

 「いろいろ使えるのでしょう。常に物資不足ですから」

 三上が目を細める。

 つられて俺も、街の方へ視線を向けた。

 岩山の斜面には、大小さまざまな穴が穿たれている。そこに壁を設けたり、そのまま窓や入口として使ったりして、住居が形作られていた。

 岩は白っぽく、ところどころでガラス質がむき出しになっている。光を受けて鈍く反射するその様子は、まるで――

 ガラスの宮殿のようにも見えた。


 昼過ぎ、街に戻った俺たちは、午後の巡回まで酒場で休憩を取ることになっていた。子供たちもそれぞれの家に帰っていった。

 「はいよ、タカーシたち」

 酒場の女将マリアンさんは、俺をタカハシではなく、何故かタカーシと呼ぶ。彼女は、俺たちのテーブルに深皿を四つ持ってきてくれた。中は豆や干し肉、野菜の入った煮込みだ。

 「いただきます」

 俺は礼を言ってから口をつけた。

 「塩気が薄いよな~」

 小田切が文句を言う。

 「ほらほら、文句言わない。出禁にされるわよ」

 藤堂が嗜めた。

 「ちぇっ。まだ、ひと月もあるのかよ~」

 小田切がぼやく。

 次の隊商が出るまで、俺たちはヴァルディア王国に帰れない。

 それまでは、クロスが紹介してくれた準兵士の仕事を続けるしかないだろう。

 「アロイスは卑怯者だーっ」

 酔っ払いの男が叫んだ。いつも意味不明なことを言っているが、もう慣れた。

 だがその時、見慣れない人物が酒場に入ってきた。

 擦り切れた長衣をまとい、胸まで届く白い髭を蓄えた老人だった。

 「あの人、誰なんです」

 少し気になって、俺はマリアンさんに尋ねる。

 「今日はちょっと早いね。水路の管理人のグラコスさんさ」

 彼女は老人の方を一度見てから答えた。

 「あの人ね、一日中水路を見てるんだよ。岸に座って、ずっとね。でも馬鹿にしちゃいけないよ。大事な仕事だからね」

 ちょうどその声が聞こえたのか、老人はこちらへゆっくりと歩いてきた。

 「お若いの、儂もここに座ってよいかね。午前分の黙考も、もう十分じゃからな」

 口の前に指を立てながら老人が言った。

 「おじいさんは、水路の前でどんなことを考えているんです?」

 三上が不思議そうに聞く。

 「そうじゃな。昔の思い出とか、今日の昼飯とか、世界の秘密とかかな?」

 老人は、茶目っ気たっぷりにそう言った。

 「え~、世界の秘密って何ですか?」

 藤堂が目を丸くして聞いた。

 「そうじゃな。一つ目の秘密を教えよう。酒は口の滑りを良くするのじゃ」

 そう言って老人は、芝居がかった動きで俺たちの顔を見回した。

 俺は表情が渋くなるのも隠さずに、マリアンさんにエールを頼んだ。

 老人は運ばれてきたエールに口を付けてから言った。

 「道理を知る者は、より多くを知るだろう。水の流れは全てを知らせてくれる。何でも聞くがいい。エール一杯分だけな」

 俺は少し考えてから聞いた。ここに来てから魔物を見ていない。

 「この辺はどんな魔物がいるんです?」

 老人は目をパチクリさせた。

 「荒野に魔物はおらんよ。何せ、魔力がほとんど無いからな」

 「魔力がないって、どういう意味ですか?」

 今度は三上が聞いた。

 「言葉のままじゃよ。魔力の多い土地、少ない土地というものがある。土地の魔力が少ないと、魔物から魔力が抜けていくから、長くはいられんのじゃ」

 「へぇー。じゃ、魔族もいないのか?」

 小田切が聞いた。ジェイドに大怪我をさせられたから、一番気にしているのだろう。

 「大抵はな。よほど強い魔族や、大きな魔物じゃなきゃ、長くはいられん。まあ、魔族にも魔物にも友達はいないから、本当か分からんがね。あ、そう言えば……」

 「何です?」

 「もう一つあるんじゃがの。生憎、舌が乾いてしまってひと言も喋れん。ジョッキも空じゃし、どうしたもんか」

 老人は、いけしゃあしゃあと言った。



 その日、無法地帯シャドウリッジのある村の酒場で、一人の男が酒を飲んでいた。だらしなく、テーブルに足を乗せ、エールを小さな樽から直接飲んでいる。酒場には他にも男たちがいたが、この男からは距離を取り、一種の空白地帯ができていた。

 そこへ新たな男が酒場に入ってきた。シャドウリッジやヴァルディア王国では珍しい、ターバンを頭に巻いた男だ。

 「おい、オヤジ。エールをくれ」

 ターバンの男は、周囲の様子などお構いなしに、一人で飲んでいた男の前に座り、注文した。店内に緊張が走る。

 「ここは俺の席だ。命が惜しけりゃ、他に行きな」

 元々いた男が凄む。この男は獣牙盗賊団という、この辺では名の知れた盗賊団の頭だった。

 「何だよ。空いてんだから、いいだろ。一緒に飲もうぜ」

 ターバンの男は構わず言う。

 店の男はエールを持ってきたが、盗賊団の頭の顔色を窺って、テーブルに置かない。

 しかし、ターバンの男は店の男からエールをひったくり、飲み始めた。

 「どうやら命はいらないようだな」

 「できるものならな」

 盗賊団の頭の言葉を、ターバンの男は軽く受け流して、カラカラと笑う。

 いよいよ盗賊団の頭――オリオンが剣に手を掛けようとした時、別の男の声が上がった。

 「お二人とも、大した猛者らしいですが、猛者にふさわしい話をしませんか? 例えば、イスカンダルの秘宝とか?」

 その男が席についていることに、オリオンもターバンの男も気づかなかったが、二人とも何故かどうでもよく思えていた。

 オリオンが剣から手を放し、新しい男に聞く。その男は旅人風の装束で、帽子には甲虫の飾りがついていて、七色に光っていた。

 「そのイスカンダルっていうのはどこにある?」

 「ミドラス高原の先、白い死の世界、白荒野(ホワイトバッドランド)さ。それともう一つ、白荒野の奥地には……」

 ひとしきり旅人から情報を聞いたオリオンは、周囲を男たちを連れて白荒野を目指した。ターバンの男も、その話を楽しそうに聞いていたが、話が終わるとオリオンと共に酒場を出た。

 誰もいなくなった酒場。旅人もいつの間にか消えていた。

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