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召喚直後に同級生が戦い始めたので、《虫の知らせ》を信じて俺は城を出た  作者: きゅっぽん
第二章 白荒野への危険な旅
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第二十話 欲望の果て

 丁度そのとき、空が白み始める。

 地平線から陽の光が差し、グラッジの顔を照らし出した。

 グラッジの顔からは目と鼻が消えていた。

 髪がばさりと落ちていき、頭部は肉の風船のようになっている。

 開いた口から歯がぼろぼろと抜け落ち、丸い穴だけが残った。

 それでいて、首から下は人の姿のままだ。

 「うわっ!」

 俺たちはそれを見て、思わず後ずさり、距離を取った。

 「オオレノモモノダ~」

 声がくぐもり、泡の破裂するような音が混じって聞こえづらい。

 しゃがんだ体勢から、藤堂の、子供の方へ飛び出し、曲刀を振るう。

 それを俺が剣で受け止める。

 金属同士の甲高い音が響く。

 重い。さっきより鋭さはないが、速くて力強い。

 「正面は俺に任せろ。盾のない小田切や、三上の力では危険だ」

 俺は叫んだ。

 「ほんがー!」

 雄叫びとともに、小田切がヘビーフレイルを振り抜く。

 グラッジの左袖が引き千切られるが、その下は人の肌とは思えない黒紫色で、ぬめるように朝日を反射していた。あったはずの傷はまるで見当たらない。

 ガチャリ。

 三上はライトフレイルの先の鎖をグラッジの足に巻き付けた。

 体重をかけて引き倒そうとするが、ピクリとも動かない。

 ガキン、ガキン、ガキン。

 その間も、俺はグラッジの曲刀を受け続ける。

 俺の剣も、グラッジの曲刀も刃こぼれがひどい。腕もだんだん上がらなくなってくる。

 ヤバイな。

 そう思った瞬間、俺の剣が折れた。

 次の一撃を盾で受けようとするが、たぶん盾ごと斬られるだろう。

 俺は思わず目をつぶる。

 バリッ。

 目を開けると、三上が俺の前に出て、盾で受け止めていた。

 三上の盾が真っ二つに割れ、曲刀の刃が三上の前腕で止まっていた。

 なぜ吹き飛ばない? 三上の前腕には白い棒のようなものが取り付けられていた。

 「これは死んだ大蛇の牙。予想通り、パワーアシストスーツのように操作できたよ」

 だが、腹にグラッジの蹴り。

 ぎりぎりガードしたが、ふんばりが効かず、ゴロゴロと地面を転がる三上。

 そのとき、後方からガラガラと音がする。

 気づくとグラッジの前に木のレールが敷かれていた。

 小田切の乗ったトロッコが、俺の横を通り過ぎた。

 「小田切、ホームラン!」

 小田切がバットのようにヘビーフレイルを振り切ると、グラッジの右腕が千切れ、曲刀とともに飛んでいく。

 だが、トロッコとともに地面に投げ出される小田切。

 それでも二人は立ち上がる。俺も剣を捨て、槍を拾う。俺たちは三人でグラッジを囲んだ。

 人間を辞めても、曲刀さえなければ……。

 だが、その予測は悪い方向に裏切られる。

 「オォレレレノモモネノダダ~」

 グラッジが、もはや人間の声とは思えない濁った叫びを上げた。

 グラッジの全身の服が裂け、中から黒紫色の細い無数の手が噴き出した。

 俺たち一人ひとりへ、複数の手が同時に襲いかかってくる。

 それを必死で斬り、払いのけ、叩き落す。

 だが、俺の肩が掴まれた。

 次の瞬間、腕も押さえ込まれ、別の手が盾と槍を毟り取る。

 そのまま地面へ引き倒され、俺は身動きできなくなった。

 見ると、小田切も三上も、同じように無数の腕に押さえ込まれていた。

 そして、一番遠くにいる藤堂へ向かって、黒紫色の手が一斉に伸びていく。

 彼女の後ろには、ぐったりした山岳民族の子供がいる。

 彼女は、無数の手を槍と鉄盾で留め、弾いていく。

 「ここは絶対に通さないよ!」

 俺たちの倍以上の手が伸びるが、それでも藤堂は手を通さない。

 「ボババアバ~」

 グラッジの既に人とは思えぬ口から、怪音が鳴る。

 その体はもはや人というより、巨大なイソギンチャクのような形へと変わった。

 俺たちから奪った武器や盾が、その体に取り込まれていく。

 さらに手が増える。

 藤堂は槍が奪われるが、盾とバスケのようなステップで子供へ手を通さない。

 ついにグラッジの黒紫色の手は、藤堂の袖を、ズボンの裾を、鎧を毟りはじめた。

 それでも藤堂は、キャプテン・ブレイズの鉄盾で防ぎ続けた。

 「この盾は、絶対、みんなを守るんだから!」

 俺たちも、手から抜け出そうと力を振り絞るが、それは叶わない。

 グラッジの手は、藤堂からあらゆる物を毟り取っていき、それでも盾だけは奪えなかった。

 周囲へも手を伸ばし、岩や土などまで取り込んでいく。

 グラッジの体はどんどん大きく膨らんでいき、取り込んだものがボコボコと体表に浮き出る。

 際限なく膨らむかに見えたが、やがて無数の手が一斉にもがき、ぴたりと静止する。

 次の瞬間、グラッジの体は破裂した。

 シュウシュウと液体が飛び散り、俺たちを掴む手も力を失って地面に転がる。

 みんな、それぞれ自分の上の手を払いのけて立ち上がる

 「藤堂、大丈夫か?」

 男たち三人が、藤堂に近付こうとして固まった。

 藤堂は、鉄の盾を体の前にかざして立ち尽くしていた。


 俺たちは、その場に座り込んでしばらく休んだ。

 藤堂は、怯える山岳民族の子供を横に座らせ、肩を抱いている。

 「アイツ、何だったんだ」

 小田切が誰にともなくつぶやく。

 「魔族、じゃないですよね。ジェイドとも全然違いました」

 三上が顎に手を当てた。

 「変身する生物、というより……人間が怪物になって、爆発した?」

 思いつきで口にしたが、たぶんそれが一番近い気がした。

 やがて隊商が近付いてきた。どうやらここは通り道だったらしい。

 俺たちは隊商に合流し、そのままミドラス高原を抜けた。


 その先に広がっていたのは、白荒野(ホワイトバッドランド)だった。

 乾きひび割れた土にはガラス質の砂が混じり、岩肌のあちこちにも白く鈍い光が浮いている。

 草木さえほとんど生えないその地に、なぜ人が住もうとしたのか、俺には分からなかった。


 それでも隊商は白い荒野を進み、数日後、サントナール王族の住む街へ辿り着く。

 そこは岩山をくり抜いて築かれた、半地下の都市だった。



 深夜のカンザ。パルネ子爵邸の前庭で、二つの集団が対峙していた。

 片側には肥え太った貴族と、その護衛らしき目元を仮面で隠した二十人ほどの兵士。

 もう一方には外套で全身を覆い、目深にフードを被った五人の来訪者。

 「ようこそ、星雨博士ヒュエトス様。お待ちしておりましたよ。キヒヒヒ」

 太った貴族がねっとりと笑った。

 「子爵。アステリオ様の話は本当なのだろうな」

 外套の一人、長身痩躯の男ヒュエトスが聞いた。

 「もちろんですよ。おい」

 子爵が顎をしゃくると、仮面兵たちが左右に割れた。

 奥には手枷をはめられた十人の魔族。その中のに、顔を俯かせた赤髪の男がいた。

 「お兄様」

 別の一人がフードを跳ねのけ、言った。赤い髪。彼女はメディアだった。

 「なぜ手枷をつけているのだ!」

 さらに別の一人、外套越しにも分かる巨躯の男が怒鳴ると、フードが落ちた。

 そこには赤黒い狼の頭があった。

 「もちろん、暴れられないためですよ。ここで暴れないよう、説得して欲しいのです」

 子爵は悪びれもせず言ってのけた。


 そこに突然、鋭い声が響く。

 「そこまでだ!」

 庭の木陰からガストン師団長と白い鎧をまとった天城が姿を現し、同時に門が破壊された。

 五十人近い兵士が雪崩れ込んで来る。

 「やはり、騙し討ちか!」

 狼頭が右手を、子爵に振り下ろす。

 「げはっ」

 後ろにいた仮面の黒騎士が子爵を引いたが、浅からぬ傷を負ってしまう。

 「人間どもめ! この狼炎軍団長リュカオンの力を見るがよい」

 リュカオンが王国兵に襲いかかり、御堂たちが立ち向かう。

 「メディアさま、我らはアステリオ様を」

 ヒュエトスの言葉に、メディアたちがアステリオたちの元へと向かう。

 「子爵様を守れ!」

 仮面兵たちが子爵を館に連れ出そうとし、それを天城が追いかける。

 その前に黒騎士が立ちふさがった。

 「魔族か!」

 天城が剣を振るうが、黒騎士がそれを受け止める。激しい斬り合いが始まった。


 「子爵を追え!」

 ガストン師団長と王国兵の一部が館へ向かう。

 一方、御堂たちはリュカオンに押されていた。王国兵が一人、また一人と倒されていく。

 「炎竜巻(ファイヤートルネード)!」

 御堂の掛け声とともに、炎が渦巻きリュカオンを飲み込む。

 「何だ、そよ風か?」

 炎は彼を焼くことなく、突き抜けた。そのままメディアたちに向かう。

 「しまった。メディア様、お逃げ下さい!」

 ヒュエトスが叫んだ。

 「メディア、よせ!」

 アステリオや魔族たちも制止の声を上げる。

 「いいえ、この程度の炎」

 彼らを庇い、炎に飛び込むメディア。

 彼女の衣は燃え尽きるが、その肌が焼けることはなかった。むしろ、体の一部が炎と化す。

 炎の渦が御堂へと押し戻され、二人の魔力がその中心に集中する。

 熱量が膨れ上がった。

 「いけない、このままでは」

 メディアの言葉に、御堂も焦る。 

 「星雨招来(スター・レイン)

 ヒュエトスが唱えると、突然の豪雨が炎に降り注ぐ。

 白煙が広がり、視界を覆った。

 そして轟音とともに、衝撃波がその場の者たちをなぎ倒した。

 だが霧が晴れたとき、致命傷を負った者はいなかった。

 誰もが、最悪は避けられたと思った。


 その瞬間だった。

 「天鳴斬(ライトニングスラッシュ)!」

 「剛魔撃(タイタニックブラスト)!」

 白光を放つ天城の剣と、黒炎をまとう黒騎士の剣が衝突する。

 「やああっ!」

 「ちぃっ」

 黒騎士の一撃が天城の剣筋を弾いた。

 逸れた光と闇の奔流が、砲弾のようにアステリオたちへ飛ぶ。

 「危ない!」

 メディアが叫ぶ。彼女は躊躇なく、彼らの前へ躍り出た。

 「やめろおおおっ!」

 アステリオの叫びも届かない。

 光と闇が、彼女の身体を呑み込んだ。

 「あ……っ」

 メディアの身体が力を失い、崩れ落ちる。

 「メディアーっ!」

 彼女の前に膝をついたアステリオが絶叫する。

 「くそぉ、人間めっ!」

 彼の唇から血がこぼれた。

 「彼女は……?」

 天城は剣を握ったまま、動けずにいた。

 そこへドカドカと館からガストン師団長が出てくる。

 「裏切り者のパルネ子爵は討ち取ったり!」

 その手には、子爵の首が掲げられていた。


 この後、黒騎士は退き、魔族たちも王国兵を突破して撤退した。

 子爵が秘密裏に行っていた魔族との捕虜交換。

 人間と魔族を結ぶ、か細い架け橋。

 天城たちは、自らそれを壊したと知り、愕然とするのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

第二章「白荒野への危険な旅」編は、これにて終了となります。


最後までお付き合いいただいた読者の皆様へ、心より感謝申し上げます。


リアクションやブックマーク、評価、ご感想、誤字報告などもいただけましたら励みになります。


次章の更新まで、少し間が空く予定です。

気長にお待ちいただけましたら幸いです。


今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

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