表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚直後に同級生が戦い始めたので、《虫の知らせ》を信じて俺は城を出た  作者: きゅっぽん
第二章 白荒野への危険な旅
18/20

第十八話 地の底から来るもの

 地面がわずかに盛り上がった。次の瞬間、土を割って巨大な蛇の頭が現れる。

 荷馬車の前の焚火が、その異様な姿を闇の中に浮かび上がらせた。

 頭部は人の背丈を軽く越える高さまで伸び上がり、中央の馬車と、その周囲の人間たちを見下ろしている。まだ体の半分も出ていないのだろう。胴は、腕では回りきらないほど太い。

 「うわーっ」

 商人や御者たちが一斉に後ずさる。

 蛇の頭が、逃げ惑う人間を追うようにゆっくり傾いた。

 次の瞬間、凄まじい勢いで振り下ろされる。

 「くそーっ!」

 護衛隊長ラウドが盾を構えて突進する。横殴りに受け止めると同時に、剣を叩きつけた。

 鈍い衝撃音とともに、蛇の頭がわずかに弾かれる。

 「ギィ……」

 湿ったような低い音を残し、蛇は頭を引き戻す。焚火の明かりの外側、闇の中へと身を沈めるように退いた。

 ラウドの合図で、周囲の護衛が一斉に間合いを詰める。

 蛇の頭は何度も振り下ろされ、噛みつきを繰り返す。盾が受け止め、槍と剣が横合いから叩きつけられるたびに、その巨体はわずかに引き戻された。

 やがて蛇は攻勢を切り上げるように、地面の裂け目へと後退し、そのまま闇の中へ消えた。

 俺たちも向かおうとしたが、ヴィクターさんが引き留める。

 「待て。俺たちの役目はこの馬車の防衛だ。あの蛇が、まだどこから出てくるか分からん」


 「うわ~っ、ビックリしたよ~」

 藤堂が戻ってきた。エルナと一緒に寝ると言っていたから、中央の馬車の近くにいたのだろう。こっちに置いてあった鎧を着はじめる。

 先ほどの騒ぎで全員が起きたようで、前方、中央、後方の馬車の周りに集まって、地面を見回している。

 そして再び悲鳴が上がる。

 前方の馬車だ。

 ここからだと見づらいが、馬車の近くに蛇が現れたようだ。

 喧騒が大きくなってから、再び静かになった。

 また、地面に潜ったのか?


 そして、俺たちの足元が揺れた。

 「うおっ」

 誰かが声を上げる。近くの土が崩れ、飛び出した蛇の頭が上へと伸びあがる。

 目の前にすると、さらにでかく見える。超、怖い。

 だが、容赦なく口を広げた大蛇が、覆いかぶさってきた。

 体が竦んで動かない。

 ガキン。

 その首の向きを、盾でそらしたのはヴィクターさんだった。

 「ガキども、動け! 死ぬぞ!」

 それでやっと俺たちも動き出す。

 ヴィクターさんが攻撃を受け流し、藤堂が引きつける。

 俺、小田切、三上はとにかく武器で叩いたが、硬い鱗で守られた体を傷つけられたとは思えない。

 それでも必死に戦っているうちに、大蛇はまた穴の中に戻っていった。


 「アレ、やべーな。全然、攻撃が通らねぇ」

 小田切が言う。

 「どうすんです? たぶん、ワンミスでアウトで、体力も向こうが絶対上ですよ」

 三上も続く。

 「ラウドさんも、追い返すので精一杯だったからね」

 中央にいた藤堂が付け足した。

 「お前ら、諦めたら死ぬぞ。何かで流れが変わるまで、生き残れ!」

 ヴィクターさんに怒られるが、流れが変わるような何かがないと……。

 「……俺さ、スキルのレベルが上がったみたいなんだ」

 突然、小田切が呟いた。みんなが注目する。

 「最古の機関車、ペナダレンを呼べそうなんだ。トロッコよりは重量があるから……」

 やれることは何でもやるしかないだろう。

 小田切は大蛇が出てきた穴の前に、五メートルくらいのレールを敷いた。

 さらにその上に、台車の上にドラム缶を横倒しにしたような真っ黒な機械が現れる。

 長い煙突と一輪の大きな歯車が特徴的だ。

 「何だこれは?」

 ヴィクターさんに聞かれ、小田切が、本来は輸送用の魔法だと答える。

 火を点けてもすぐには変化はない。

 中央で、あるいは前方で、大蛇が暴れている。

 「これ、スピードが出せませんよね」

 三上が本質的なことを言う。加速する距離が全然ない。

 だが、それ以上に小田切が不吉なことを言う。

 「……失敗したかも」

 煙突から煙とともに、危機感を覚える高音が発せられる。まるで沸騰したやかんのように。

 俺の頭に警報が鳴り響く。これは爆発する。大蛇を待ってる時間がない。どこかにこれを捨てられないか。

 レールの先に穴があった。大蛇が暴れたせいか、ちょうど良く広がっている。

 「穴に落とせーっ」

 みんな、同じことを思っていたのか、一斉に穴めがけて機関車を押した。異常な熱気に汗が噴き出す。

 ついに穴の上に車体を半分出した機関車が、ゆっくりと傾いていった。

 俺たちは慌てて、馬車の後ろに隠れる。

 ガタンッ。

 背後で穴に落ちる音がした。

 そのとき、俺たちの足元が揺れた。

 穴から低い唸り声が聞こえた。よりにもよって今か!

 「自分の巣に、侵入者がいると勘違いしたんです!」

 三上が叫んだ。

 だが、その瞬間、破裂音とともに土砂が舞い上がる。

 バラバラと土砂が落ちる音。

 静寂。

 穴のあったところを見ると、蛇が伸びあがっていた。

 こちらを睨んでいる。

 だが、その身体は無数の切り傷で皮膚が裂け、黒い液体を流しているように見える。

 「止めを刺せーっ!」

 ヴィクターさんの号令で、俺たちは駆け出した。

 みんなの武器が次々に大蛇の体に突き刺さり、その傷をえぐっていく。

 狂ったように暴れる大蛇。俺は掠っただけで、跳ね飛ばされ、ゴロゴロと転がる。

 集まってくる男たちを見たところで、視界が暗転した。


 地面が揺れた気がした。

 「うおおおおーっ!」

 大歓声に目が覚める。

 周りを見ると、男たちが座り込み、あるいは寝転がって喝采を上げていた。

 みんなひどい格好だが、歓喜の雄たけびを上げている。

 そして、その中で大蛇が巨体を横たえていた。

 勝ったのか!

 だが、そこに冷や水を浴びせるよう声がした。

 「何でおまえら生きてんだよ! あぁっ!?」

 振り返ると、馬に乗った一人の男がいた。



 その日も九条たちは、王城のテラスルームでお茶を飲んでいた。ただし、このときエイリーズ王女はいなかった。

 そこへ、庭から一人の男が近づいてくる。

 「ご機嫌よう、クジョー殿」

 声をかけてきたのは帝国大使レオンハルトだった。

 「ご機嫌よう、大使殿。エイリーズ王女ならいらっしゃらなくてよ」

 九条は口元を扇子で隠しながら応じる。

 「構いません。本日はクジョー殿にお話がありまして」

 レオンハルトは微笑を崩さぬまま、本題を告げた。

 「率直に申し上げます。帝国へ来ていただきたいのです」

 背後で朝倉と椎名が息を呑む。

 端の席の桜庭が九条を見るが、彼女の表情は変わらない。桜庭の膝には、薄紫色の毛並みを持つ、ウサギともリスともつかない小動物が抱えられていた。

 「それはどうしてかしら?」

 朝倉が空いていたカップをレオンハルトの前に置き、椎名がお茶を注いだ。

 「ヴァルディア王国は勇者アマギを迎え、魔族への備えも整いつつあります。しかし帝国にはそのような象徴がなく、民は不安を抱えております」

 「私は勇者ではなくてよ」

 二人のやりとりを聞きながら、桜庭はクッキーに手を伸ばす。

 「先日の騒ぎでは、暗殺者の動きは精彩を欠き、逆に王国兵は不自然なほど冴えていた。私はあれは貴女の力だと考えています」

 「思い過ごしでは?」

 レオンハルトが、一瞬朝倉たちに微笑み、カップを口にした。

 「帝国兵は精強です。実際に前線に立つ必要はありません。民を安心させる象徴になっていただければ」

 九条は扇子を閉じる。

 「対価は何でしょう?」

 レオンハルトは一拍置き、静かに答えた。

 「私の領地に、湖畔の館を用意いたしました。魔族領からも遠い地です。身分は子爵位を」

 「詳しいお話を聞きましょうか」

 数週間後、帝国大使レオンハルトは帝国に帰国した。同じ頃、九条たちは王都から姿を消す。だが、彼女たちを探させたのは、エイリーズ王女だけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ