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召喚直後に同級生が戦い始めたので、《虫の知らせ》を信じて俺は城を出た  作者: きゅっぽん
第二章 白荒野への危険な旅
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第十五話 岩山の分断と追撃

 男たちが近寄ってくるのを見て、全員が動きを止めた。

 だが次の瞬間、ヴィクターさんが俺の首に腕を絡めて顔を引き寄せた。

 「お前ら、よく聞け。聞かなきゃ死ぬ。相手は十五、こっちは六で一人捕まってる。正面からじゃ勝てないし、アイツらは商人は助けるから降伏しろという。実際、商人は殺さないが、俺たち護衛を何人か殺してから、荷馬車を奪っていく。戦意を奪うのと、追撃防止だ」

 それを隣で聞いていた小田切が、動揺して小声で問う。

 「ど、どうしたら、いいんですか?」

 「お前らは後ろへ逃げて、本隊を探せ。半分はお前たちを追う。本隊に知らされたくないからな。こっちは残りと交渉するが、なるべく引き伸ばす。お前たちがうまくやんなきゃ、俺もお前たちも殺されて、荷馬車が奪われる」

 腕を離された俺は、仲間を見回す。

 息を呑んで、動かない。

 仕方ない。

 俺は藤堂の手を引いて逃げようとしたが、その前に彼女は頷いて走り出した。

 次に残りを見ると、三上が一番動けなくなっていた。

 俺は小田切と視線を合わせて頷くと、二人で三上の両手を引いて走り出した。


 背後で怒鳴り声や、地面を蹴る音が聞こえる。

 チラリと振り返ると、武器を持った男たちが追ってきていた。

 三上は自分で走るようになっていたが、今度は小田切が遅れだす。

 岩山を曲がったところで、相手が見えなくなったが、速度を落として走り続ける。

 今や、俺と三上で小田切を引っ張ていたが、もう限界だ。

 ついに小田切が咳き込み、足を止める。

 敵はまだ来ない。振り切ったか。

 俺たちは足を止めて小田切を囲む。

 はぁ、はぁ。

 全員、息が切れていた。

 嫌な予感が走る。

 俺は、ばっと飛び下がって振り返る。背後で風切り音。

 「ちっ、惜しかったな」

 そこにはみすぼらしい服に、日に焼けた肌、脂ぎった顔。そして、湾曲した剣を持った男がいた。しかも、二人だ。

 「武器を捨てろよ。もう、逃げられねぇぜ」

 後ろの男が言った。彼らは、別の岩の隙間から出てきたのだろう。ここは彼らの庭だ。そして捕まれば、殺される。

 「みんな、やるぞ!」

 俺は率先して槍を突き出した。

 殺さなくても、追う気を失うような怪我をさせればいい。

 俺の覚悟を見たのか、みんなも続いてくれた。

 「てめぇら、イカれてるのか?」

 三上のライトフレイルに脚を絡め取られた男が倒れ、小田切のヘビーフレイルを腹に受ける。鈍い音が響く。

 藤堂がもう一人の男を牽制してくれる。俺の突き出した槍が、運悪く腹に刺さった。

 殺す気はなかったが、こっちも命懸けだ。

 「行こう」

 虫の息の二人を放置して、俺は走り出そうとした。

 だが突然、何もかもが闇に飲まれた。

 「何だ?」

 「うわぁ」

 「きゃあ」

 小田切と三上、藤堂の声。他にも何かいる。

 危ない!

 俺は隣にいた誰かの腕を掴み、その場を離れた。

 「きゃっ?」

 数歩進むと、見えるようになった。掴んだ誰かは藤堂だ。

 後ろに、空間をくり抜いたような闇の塊があった。

 それが消えた瞬間、長身の男が姿を現した。


 俺たちがさっきまでいた場所に、槍を振り下ろしていた。

 小田切と三上も男から離れる。

 その男は槍を引き戻して、ニヤリと笑った。さっきの連中の中にいた気もするが、グリフや倒した二人よりも上等な服を着ている。フードを被っているので、目元は見えない。

 「運のいいやつだな」

 男は言う。

 「山賊の仲間か?」

 俺は男に問う。

 「仲間じゃねぇよ、俺がボス! 朧闇のジェイド様だ」

 「ボスが一人で?」

 「手下どもがノロマなんだよ」

 嫌な感覚が走る。

 ジェイドが槍を振り被って、三上を狙う。

 俺はその間に飛び込むが、また闇に覆われ、見えない。

 直前の動きから予測して、勘で盾を突き出す。

 ガキン

 防げた。

 何だ?

 暗いが、輪郭だけはぼんやり浮かぶ。

 闇の中で人影が身を引いた。

 「何だ、お前。ラッキーボーイか?」

 距離を置いたジェイドが、岩山の陰からこちらを見ている。

 俺は周囲を見回した。

 「日向に出ろ! あいつの闇は完全じゃない。日向なら輪郭くらい見える」

 「おう!」

 小田切が答える。三上と藤堂も日向を探して、そこへ入る。

 「へぇ、だが。闇幕(ダークカーテン)!」

 闇が広がる。

 ギッ

 「ぐわ!?」

 小田切の声。闇が消えた時には、小田切の足から血が流れていた。ジェイドは槍を担いで、少し離れたところにいる。

 「大丈夫か?」

 俺は小田切に聞いた。

 「痛てて。だが大怪我はしてない。金属を編んだお陰だ」

 鎧の新調が効いたか。でも、ここは日向が少ないから、攻撃はほとんど見えないままだ。

 反応できるのは、虫の知らせの俺くらいか。

 俺は前に出て、剣を抜く。槍では守りが一歩遅れる。

 「ラッキーボーイ、いつまで続く?」

 闇の中からのジェイドの攻撃を、ギリギリで受ける。

 ガエルの訓練のお陰でもっているが、一手のミスでこちらは終わる。

 そこで後ろから、声が聞こえてきた。

 「ボスーっ、ヤツら、いましたーっ?」

 それを聞いて、ジェイドが口の端を吊り上げる。

 「へへっ、ノロマたちが来たようだぜ。諦めろよ!」

 くそ、ジェイドの手下か。この上、数で押されたら……。

 「私が後ろは抑えるよ!」

 そう言うと、藤堂が後ろへ駆けだした。

 「「「藤堂!」」」

 俺、小田切、三上の声が重なる。

 「三上は、小田切を守って、高橋をサポートして」

 そう言って、岩山の陰へと姿を消す藤堂。

 小田切は動けないし、足止めなら彼女だが、何人いるか分からないのに。

 「おいおい。アイツら、女に優しくないぜ」

 ジェイドが馬鹿にしたように言う。

 一撃、二撃、三撃。焦った俺は受け損ね、ジェイドの槍が腕や足を掠める。

 切り傷が出来て、血が流れた。

 「まあ、ラッキーボーイもここまでだぜ」

 そして闇が膨らむ。しまった! 日陰に追い込まれていた。全然見えないぞ。

 だが、突然、はっきりとジェイドの姿が見えた。

 こなくそ!

 俺は槍をかわして、ジェイドの横腹を切り裂く。

 「なんだとーっ!」

 ジェイドが、信じられないという顔をして倒れる。

 「間に合ったようですね」

 岩山の間からメディアさんが出てきた。

 気付くと、すぐ近くに眩しいくらいの光球ができていた。

 メディアさんの魔法で闇が弱まったのか。

 何でここに、と聞きたいが、今は藤堂が先だ。

 俺が後ろを振り返った時、信じたくない光景を見た。

 「何だ、ボス。死んだのか? じゃあ、順番はもういいな」

 下卑た声を上げる男たち六人。その中で藤堂が縛られ、捕まっていた。



 黒瀬はグランヴェル公爵の館まで逃げのびていた。

 傷をおしてたどり着いたが、佐伯はもういない。柊と梶原も、既に離れていた。

 公爵の館で養生を続け、再び動けるようになった時、公爵に呼び出された。

 「体は治ったようだね、クロセ」

 公爵は執務室のテーブルに肘を突いて確認した。

 「……お蔭さんでな。それで、俺に何の用だ」

 黒瀬はどかりとソファに身を沈めて問い返す。

 「カンザの街は行ったことがあるだろう。あそこの領主パルネ子爵は気のいい男なんだが、誤解されやすくてね」

 黒瀬は公爵の話に黙って耳を傾けた。

 「彼が魔族と通じている……なんて言う、根も葉もない噂を信じる者もいるようだ」

 公爵はため息をついた。

 「彼とは知り合いだし、儂はそんな噂は信じていない」

 「それが俺に何の関係がある?」

 「彼を、守って欲しいんだよ。あらゆる敵からね。それで君へ貸しはチャラにしてもよい」

 「何で俺なんだ」

 「儂の立場もある。いろいろと複雑でね」

 しばしの時が流れる。

 「そいつは、白なんだよな」

 「儂の知る限りはね」

 「……分かった。やってやるよ」

 黒瀬は席を立つ。

 「良かったよ。そうだ、君にはプレゼントがあるんだ」

 「何だと」

 部屋を出かかった黒瀬が振り返る。

 公爵がテーブルの上のベルを鳴らすと、執務室の奥、補佐役たちの部屋の扉が開いた。

 その奥には、光を吸い込むような真っ黒い鎧が飾られていた。

 「ブラック・メイル。もう君が怪我をすることがないといいのだが」

 公爵がニヤリと笑う。

 「ふん」

 黒瀬は、鎧を一瞥してから鼻を鳴らした。

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