表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚直後に同級生が戦い始めたので、《虫の知らせ》を信じて俺は城を出た  作者: きゅっぽん
第二章 白荒野への危険な旅
14/20

第十四話 不穏のシャドウリッジ

 「ほんがー!」

 小田切が奇妙な叫び声を上げて、転んだゴブリンにフレイルを叩きつける。新調した武器は、柄の先に二節棍のような関節があり、さらに先に鉄塊が付いたものだ。

 ゴブリンは吹き飛び、乗っていた猪は森へ逃げていった。槍では難しくとも、この武器なら一撃でゴブリンを仕留められる。

 その傍らで、俺と藤堂は荷馬車を守るように構える。

 飛び出してきたゴブリンを、俺は槍で突き刺した。猪に乗っていない個体だ。剣の訓練も始めているが、距離を取れるうちは槍の方が有利だ。

 藤堂は盾と槍で、四体のゴブリンを相手に足止めしている。

 俺は目の前の敵を片付けると、すぐに藤堂の援護へ回った。

 反対側では、三上が鉄球を振り回し、叩きつけている。小田切と違って軽いが、長柄の先で鎖を振り回し、非力な三上でも遠心力を乗せて攻撃力を上げている。

 「どっせいやー!」

 再び奇声が響く。

 小田切が踏み込み、一振りで二体のゴブリンを吹き飛ばした。

 ――だが、重量武器は、引き戻しが遅れる。

 横合いから飛び出した別のゴブリンが、小剣を振り下ろす。

 ガキン

 刃は、小田切の腹で止まった。革鎧に編み込まれた小さな金属板が、攻撃を弾いたのだ。

 盾を捨て、武器を両手持ちにした小田切は、鎧を変えていた。金属鎧ほどでなくても、これなら革鎧より硬く、重さもコストも抑えられる。

 武器を変え、訓練を積んだ俺たちは、もはやゴブリン相手に後れを取ることはなかった。

 ――そのはずだった。

 気付けば、敵の数が増えている。

 前後から押し寄せるゴブリンに対応するうち、互いの位置がばらけていた。

 藤堂が、囲まれている。

 「きゃっ!」

 十体近いゴブリンに押し込まれ――脚を取られ、地面に倒れ込んだ。

 危ないっ。

 そう思った瞬間だった。

 三本の火の矢が飛来し、藤堂を囲んでいたゴブリンに突き刺さって弾けた。

 爆ぜた炎に、ゴブリンたちがたじろぐ。

 その隙を突き、男が飛び込み、一体を斬り伏せた。

 「おいおい、調子に乗りすぎだろ、タカハシちゃん」

 若手グループのタルクだった。くそ、助かったが、舐めやがって。なんでここに。

 「中央は片付きました。援護に回ります」

 続いて、後方から声が飛ぶ。

 「大丈夫ですか」

 メディアさんだ。先ほどの火矢も彼女だろう。

 タルクの野郎、あとで覚えてろ。メディアさんは、ありがとうございます。

 中央はすでに片付いていたようで、何人かを前後に回してくれたらしい。

 調子に乗って一瞬崩れかけたが、態勢を立て直せば問題ない。

 地道に数を減らし、最後の一体を仕留めたところで戦いは終わった。

 そうして、俺たちは誰一人大きな怪我を負うことなく、ハウリングウッドを抜けるのだった。


 丘陵地帯シャドウリッジに入ってから、数日は何事もなく進んだ。

 ここはすでに人の世界の果てに近く、街や村もまばらだ。

 途中、ヴィクターさんと水の補給に立ち寄ったが、住人から値踏みするような不躾な視線を向けられた。西部劇を思わせる荒んだ雰囲気だった。

 その日の夕食の席で、ここを何度も通ったメディアさんが言っていた。

 「こんなところにいるのは、事情のある者ばかりです。油断せず、関わらないのが一番でしょう」

 それから数日後の夜、俺たちは隊商主のセルヴィンさんに集められた。

 「いつもの道が山崩れで塞がっているそうだ」

 彼の話では、復旧の目途が立たないため、地元の人間の案内で迂回路を通るという。

 ただ迂回路は、分かりづらい上、見通しも悪いので隊商からはぐれる馬車が出やすいらしい。そこで三、四台ごとに案内人を雇うそうだ。

 「ねえ、高橋。隊商が通るタイミングで、山崩れなんて」

 隣の三上が小声で問う。

 「ああ、悪い予感がする」

 俺は答えた。

 とはいえ、罠だという証拠もないし、他にやりようもないのだろう。

 俺たちは、後方の馬車を取り仕切る若手商人のリオスと、ヴィクターさんに相談にいった。状況が揃い過ぎていて怪しい。せめて前の馬車を見失ったら確認しようと。


 翌日、俺たちは案内人のグリフを紹介された。痩せぎすで、無精ひげ。擦り切れて汚れた外套に、腰には粗末な短剣。

 「道は任せとけや。ひひっ」

 笑う口元からは黄色い歯が見えるが、目は全く笑っていない。

 藤堂が自身を抱きしめ、ブルリと身を震わせる。

 「……キモッ」

 彼女が小声で言う。

 俺も同感だった。

 街を出て二時間ほど進むと、地面から乾いた土が消え、岩盤の上を通るようになった。

 岩山に隠れ、前の馬車を見失うこともしばしばだったが、警笛などを使ってはぐれないように進んだ。

 だが、昼近くになると風が強くなり、警笛の音も聞こえづらくなってくる。

 そして前の馬車を追い、平たい岩の左を通ろうとした時だった。

 ――虫の知らせ。

 岩の右に僅かな轍の跡。それも次の瞬間、風に流されて消えた。

 「この道は違う」

 俺は小田切たちにそう言って、前方に駆ける。

 二台前の馬車にはリオス、ヴィクターさん、そしてグリフがいた。その前の馬車は見えない。

 「止まってくれ、この道は違う!」

 俺が叫ぶと、馬車が止まった。

 「ガキが、俺にケチを付けやがって」

 グリフが前に出る。

 「リオスさんよぉ。モタモタしてたら、セルヴィンさんの評価が下がるぜ」

 リオスが難しい顔をする。

 「さっきの平たい岩の右、通った跡があったんだ」

 「俺より、こんなガキを信じるっていうなら、俺はここで帰らせてもらうぜ」

 俺の言葉に、顔を歪めたグリフは、元来た道を戻ろうとする。

 「そんな、困るぞ。おい、タカハシ、謝るんだ!」

 リオスが俺を睨む。だが、グリフをヴィクターさんが止めた。

 「トビー、走って前の馬車を確認してこい。グリフ、お前が正しければ、タカハシを好きなだけ殴っていい。それでいいな、タカハシ」

 「よかねぇよ。俺は帰るぞ」

 グリフは逃げようと暴れるが、ヴィクターさんは離さない。トビーさんは、渋々前へと走った。

 しばらくして、前方から大勢の気配。

 そこには武器を持った十数人の男たちに囲まれ、トビーさんが捕らえられていた。



 天城たちは、二つの丘に挟まれた回廊を塞ぐ、イグレス砦の前に来ていた。この王国第三の砦は、魔族に奪われ、今では魔族領との境界になっていた。

 「では勇者アマギ殿、先陣は任せましたぞ」

 「はい。ガストン師団長」

 王国軍五千を率いる指揮官の言葉に、天城は頷いた。

 進軍を開始すると、砦の門が開き、身長三メートルほどの鉄の像が歩み出てきた。

 「あれが鉄像兵(アイアンゴーレム)ですか?」

 「そうだ。奴らの吹く火に気をつけろ」

 御堂の問いに答えるガストン。

 再び閉じられた門の前に整然と並ぶ五百の鉄像。

 前進とともに、火を吹き始めた。

 「聖光壁(セイクリッド・ウォール)!」

 白石の光の壁が王国軍を覆い、炎を退ける。

 天城たちを中心に、王国軍は鉄像兵を倒していく。

 「火竜撃(ファイヤー・ドレイク)!」

 御堂が組んだ両手の先から、巨大な炎がほとばしる。

 門が軋み、ひびが走り――次の瞬間、吹き飛んだ。

 砦の中へと突入する王国軍。

 敵を次々に突破していき、ついに砦の屋上で、鎧をまとった炎と対峙した。

 「人間にしてはやるようだが、ここまでよ。この鉄炎軍団長マカロスの前ではな!」

 炎と剣が、激しく何度もぶつかり合う。

 次の瞬間――

 「炎斧撃(ファイヤー・ボンバー)!」

 燃え盛る業火の斧。

 「させないよ、絶対防御(ダイヤモンド・ガード)!」

 轟音が響き、榊原の盾が受け止めた。

 そして、決着の一撃。

 「天鳴斬(ライトニングスラッシュ)!」

 「グハッ!」

 マカロスが両断される。

 「さすが勇者殿、あとは砦の魔族を皆殺しに……」

 ガストンがそう言った時、上空から声がした。

 「それは困るな。氷防壁(アイスウォール)!」

 その言葉と共に、天城や王国の兵士たちを巨体な氷壁が囲む。

 見上げると、青い長衣の男がいた。

 「誰だ!」

 天城が叫ぶ。

 「私は水魔将軍ネレイオン」

 空の男は目をつぶったまま、そう言った。

 「魔族たちよ。マカロスは倒され、砦は陥落した。これ以上の消耗は無意味だ。今すぐ、撤退せよ」

 「そんなことが許すか! 火竜撃(ファイヤー・ドレイク)!」

 炎の奔流がネレイオンを包む。

 しかし、水のドームに阻まれ四散した。

 「馬鹿な、砦の門さえ破った魔法が?」

 御堂が呻く。

 「さらばだ、人間たちよ」

 こうして鉄炎軍団長を討ち取ったものの、敵の大半は退いていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ