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召喚直後に同級生が戦い始めたので、《虫の知らせ》を信じて俺は城を出た  作者: きゅっぽん
第二章 白荒野への危険な旅
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第十二話 花を手向けて

 襲撃の翌日、新市街の広場には、この戦いで亡くなった人たちの遺体が並べられていた。

 その中央に、キャプテンの遺体も横たえられていた。

 広場には色とりどりの花が集められていた。

 新市街の住民や、あの戦いに加わった者たちが列をなし、遺体に静かに花を捧げていく。

 俺も、その列に加わった。

 あの路地で俺たちを助け、最後まで戦い続けた――その姿を思い出す。

 そっと、花を置く。

 「キャプテン、ありがとう」

 一度言葉を切って、息を吸った。

 「次は、自分たちで何とかできるくらい強くなるよ」

 俺はキャプテンに誓った。


 襲撃の直後から、街の補修は始まっていた。

 壁際や裏門のあたりには、まだ戦いの跡が色濃く残っていた。

 俺たちも、壊れた壁や門の補修に加わった。

 最初のうちは慌ただしかったが、数日もすると落ち着きを取り戻していく。

 一週間もすると、補修はほぼ終わった。

 街にはまだ傷跡が残っているが、それでも確かに、立ち直りつつあった。


 そんなある日、王都の噂が街に流れてきた。

 「……王都も、襲撃を受けたらしい」

 数百人の死者。王城の騎士にも被害が出たという。

 そして――

 「その魔族は、勇者アマギが撃退したらしい」


 俺たちは、その夜、部屋で顔を突き合わせていた。

 「さすがは天城君、勇者さまだね」

 藤堂がニヒっと笑う。

 「……それに比べて、僕たちはまだまだだよね」

 三上が苦笑する。

 「俺たちも、もっと強くならなきゃな」

 俺が言うと、空気がわずかに引き締まった。

 「強くなるって、どうすんだよ?」

 小田切が腕を組む。

 俺は少し考えてから、口を開いた。

 「まずは武器だろ。自分の戦い方を考えて、それに合うやつを選ぶ」

 藤堂がわずかに視線を落とす。

 「……そうだね。私は抑え役だから、もっと頑丈な盾が必要かな」

 「俺は槍より、もっと力任せにぶん殴れる武器がいいな」

 小田切が力こぶを作る。脂肪が厚くてよく見えないが。

 「俺は剣かな。槍は折られたら終わりだし、剣なら攻防両方に使える」

 俺も自分の考えを言う。

 「僕は……力が無くても使える武器がいいかな」

 三上が苦笑する。

 それぞれの方向が、少しずつ見えてきた。


 翌日、俺たちはマテオさんに教わった鍛冶屋へ向かった。

 藤堂の盾は、マテオさんに当てがあるらしいので、今回は保留だ。

 店に入ると真ん中の金床で、浅黒い肌の鍛冶師が熱した鉄を叩いていた。

 その前には炉があり、壁にはいくつかの武器が掛けられ、あるいは立て掛けられていた。

 希望を言うと、俺には長剣が差し出された。剣身も柄も長めで、片手でも両手でも使えそうな奴だ。

 小田切のは、木の柄と金棒が鎖で繋がったような武器だ。

 三上に適した武器は置いてなかった。

 俺は剣を手に持って確かめた。ずっしりと重い。金属バットの二倍くらいある気がする。

 「これって振ってみて、いいですか?」

 俺は聞いてみた。

 「店の外でやってくれ。ぶつけたり、物を壊すなよ。そっちの奴も」

 鍛冶師はそう答えると、小田切にも声を掛けた。

 それぞれ振るって確かめたが、まともに使えるようになるには練習が必要そうだった。

 俺たちが買うことに決めると、三上の相談が始まった。

 「力がねぇって、力をつけろって話なんだが……」

 鍛冶師は髭に覆われた顔に皴を寄せ考える。

 「軽くても、こう、鎖を回して勢いをつける、とかどうですか?」

 三上が提案すると、鍛冶は頭を掻いた。

 「軽めのモーニングスターみたいなもんか」

 三上の武器は、数日後に取りに来ることになった。

 藤堂は俺たちの武器を見て、若干羨ましそうにしていた。

 

 武器を決めて戻ると、マテオさんの家にクロスとガエルが来ていた。

 そして、その場に置かれていたのは――見覚えのある盾だった。

 「これって……」

 藤堂が息を呑む。

 キャプテンが使っていた盾だった。

 「盾はサントナールの兵士時代に支給されたものでね」

 マテオさんが静かに言う。

 「ご家族は、これをこれからも人を守る者に使ってほしいと」

 藤堂は戸惑ったように首を振る。

 「でも、私はまだ……自分のことで精一杯で」

 「トードーは立派に守ってくれたよ」

 マテオさんが優しく言う。

 「私も、ルシアもね」

 ガエルが厳めしい顔で付け加えた。

 「自信がないなら、俺がお前たちを鍛えてやろう」

 怒っているのではなく、この人はいつもこんな感じだ。

 藤堂はしばらく黙っていたが、やがて顔を上げた。

 「……私、やります! もっと、ちゃんと守れるように」

 藤堂が感極まったように言うと、俺たちも顔を見合わせ、深く頷いた。


 それから俺たちは、マテオさんの紹介で街の隊商の護衛を請け負うようになった。

 王都の被害の影響で物資の流れが滞り、特に新市街には荷が届かなくなっていた。

 そこで街の隊商は、王都と反対側から物資を集めた。

 最初は近場だったが、次第に距離は伸び、三回目には往復一週間の行程になった。

 クロスたちも同行し、合間にはガエルの指導を受ける。

 そんな日々の中で、俺は一つ気になることがあった。

 隊商が運ぶ物資の量が、どうにも多い。

 新市街で消費する分を、明らかに上回っている気がするのだ。


 気がつけば、襲撃から三週間が経っていた。

 その夜、クロスが俺たちの部屋を訪ねてきた。

 「いつもすまないな」

 そう言いながらも、どこか歯切れが悪い。

 「また隊商の護衛を頼みたい」

 いつもの依頼のはずなのに、空気が違う。

 俺たちは黙って続きを待った。

 「サントナールの移民は、ここだけじゃない」

 クロスが言う。

 「特に、あまり名前を出せない人たちは、かなり辺鄙な場所に身を寄せているんだ」

 戦わずに逃げ出した、という王族だろうか。

 「義理で、そういうところにも、物資を回している」

 そこで一度、言葉が切れた。

 「……当然、距離もあるし、不安も増える」

 俺は少し考えてから聞いた。

 「クロスも行くのか?」

 「ああ、僕も行く」

 それから分かる範囲で話を聞いたが、全部は話せない様子だった。

 俺たちは一晩考えると答えた。

 その晩、じっくり話し合ったが、結局受けることにした。

 義理もあるし、ガエルの訓練が受けられるのも、大きかったからだ。


 翌日、依頼を受けた俺たちは、赤い髪の女性を紹介された。



 その日も王城のテラスルームでは、九条たちとエイリーズ王女のお茶会が開かれていた。

 「アマギは本当に強かったのね。ピカピカ光る剣を振り回すだけの道化だと思ってたわ」

 エイリーズ王女が、少し面白くなさそうに言う。

 「そうですね。そういえば、敵が名乗ったという魔将軍とは、何なのです?」

 九条が口を扇子で隠しながら言う。

 「知らないわよ。私は軍人じゃないんだから」

 王女がそう言った時、部屋の入口から静かな男の声がかかった。

 「ご機嫌麗しゅう、王女殿下」

 その声を聞いた王女の顔は、ますます渋くなる。

 「大使、あなたもよくよく暇なのね」

 帝国大使レオンハルトは弱々しく抵抗した。

 「残念なことに、魔族に比べて私の存在は些細なようで、放っておかれていますので。他に比べ、ここは静かで良いですね」

 「嫌味をいわないで頂戴! あんなもの、コソ泥が忍び込んだだけよ」

 「そうでしょうとも。ところでクジョー殿も魔法は得意なのでしょうか?」

 大使は王女を受け流し、九条に聞く。

 「さて、どうでしょう?」

 九条も軽く受け流す。

 「あなたは秘密の多い方のようだ」

 そう言った大使が、ふと庭に目を向けると、近くの木の影から黒ずくめの男が飛び出した。

 その男は短剣を抜いて九条たちに襲いかかる。

 九条の横に座り、足をぶらぶらさせていた桜庭が、跳ねるように飛び出す。

 「ひっさ~つ! 首四の字!」

 短いスカートがひるがえり、男の下から両足を広げて首に絡める。男と少女の上下が入れ替わり、男は地面に叩き付けられた。

 だが、さらに四人の黒ずくめの男が飛び出す。さすがに王女の護衛が間に入って防ぎ、切り捨てていった。王女は肝を冷やした顔でそれを見ていたが、九条は涼しい顔でお茶を続けている。

 そして、大使がぼそりとつぶやいた。

 「王女の護衛とはいえ不自然に動きが速いし、暗殺者は動きが鈍すぎる。防御特化の能力ではなく、味方の強化と敵の弱体化か?」

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