龍造との出会い。~甲斐~ 後編
その言葉を合図に龍造の周辺がまぶしく輝く。
その光の粒子はやがて人の形を作り、体の大小、老若男女、衣装も様々な九人の者が龍造の周辺に【転移】してきた。
輝きが治まった後には、アラサーと呼ぶと殺されそうな殺気を放つOL二人。
屈強な肉体を持つ、スキンヘッドと角刈りの中年男性二人。
割烹着を着た双子の老婆。
そして作務衣姿の青年と白装束姿の妙齢の女性が現れた。
さらに、龍造に匹敵する”魔”を放っている、どう見ても幼女と言ってもおかしくない”モノ”が龍造の肩に座っていた。
そして彼らの手に持つ”獲物”は、パソコンのキーボードからチェーンソー、削岩機、農具、果てや大工道具まで、およそつい今し方まで仕事や作業をしていた出で立ちであった。
「馬鹿な! 我等大凶魔の結界を破って【転移】だと! 結界班は何をしていたんだ!」
「……九人。まさかこれが、《庵堂派》の精鋭、親衛隊といわれた《九頭竜》! 本当に実在していたのか!?」
大凶魔派の一人の叫びに、龍造は口元を妖しく緩めながら答えた。
「おうよ! せっかくの”ぱぁちぃ”じゃからのぅ、余興で皆を楽しませようと呼び寄せたんだがね」
龍造は大凶魔派の者達へ、九頭竜のメンバーを紹介する。
OL二人に対しては
『《香車》! 《桂馬》!』
スキンヘッドと角刈りの中年男に向かって
『《飛車》! 《角》!』
割烹着姿の老婆へは
『《銀》! 《金》!』
作務衣姿の青年と白装束の少女には
『《歩》! 《と金》!』
そして龍族の肩に座る幼女には「《玉》!」と。
「ぐわっはっはっは! 一同そろい踏みじゃ! どうじゃ幻真! 今からワシとここで《将棋を指す》かぁ?」
――もしここに、龍一がいたらこう呟くだろう。
『あれ? 従姉の《香”お姉さん”》に《桂”お姉さん”》? 叔父さん、お婆ちゃん達まで。それに、父さんの親戚の《歩》お兄ちゃんまでいる? みんなここで何をしているの?』と。――
大凶魔派の人間の間に動揺が走る。
”噂”、”与太話”、”ハッタリ”、”都市伝説”
と様々な”二つ名”で呼ばれていた庵堂龍造の親衛隊、九頭竜。
それが今、目の前に存在する”事実”!
そして、幻真を護衛する為、最高レベルで張り巡らされた結界をいとも簡単に【転移】で突破した”実力”!!
だがそれでも魔王、幻真の手前、腕に覚えのある者達は体に魔力をたぎらせ、己の力を増大させ、術や法の詠唱を始める。
『《▲5三歩》!』
龍造の叫びで九頭竜の一人、《歩》。
頭に手ぬぐいを巻き、作務衣姿の青年は鑿と玄翁を持ちながらゆっくりと、ウエイターが運ぶカクテルグラスを取りに行く気楽さで一歩、また一歩と幻真に向かって、地を歩む。
直ちに格闘系の魔の者達は幻真を護る為、《歩》に向かって”跳び”、魔術師、魔法遣いは”術”を、”法”を《歩》に向かって”放つ”……ように己の体に命じた。
『……【鹿威し】』
呟いた《歩》は、鑿の柄頭を玄翁で打つ。
すると、あたり一面に”コーーーン”と、澄んだ波紋が広がる。
その瞬間、《歩》に襲いかかる大凶魔派の者達は金縛り、いや、まるで《一刀彫りの彫刻》にでもなったかのように、その動きは完全に停止した。
そんな彼らの前や横を《歩》のみがゆっくりと幻真の元へ地を歩んでいった。
やがて、なんなく幻真の前へたどり着くと、恭しく片膝をつく。
幻真は、片膝をつく《歩》を見下ろしながら問う。
「その者……《音魂師》か?」
「……御意」
「主の《音”騙し”》、見事じゃ。この幻真、日の本の魂を受け継いだ庭園の風情を、鉄と石で包まれた建物の中にいながら堪能させてもらった。以後、精進せい」
「お褒め頂き、ありがたき幸せ……」
大凶魔派の者ですら滅多に褒めない幻真が、敵である庵堂派の九頭竜の一人を、さらに首を狩ろうとした人間を褒め称えたことに、大凶魔派の者達は、改めて凶魔幻真の懐を知る。そして、《歩》の力も……。
そして幻真は、再び《歩》に向かって呟く。
「ところで、《歩》は敵陣に入ったら《金》に《成る》のではないのか? お主の背中にいる嬢ちゃんや。せっかくの綺麗なお顔とべべを、この爺に”魅せて”はくれまいか?」
「「「!」」」
『……御意!』
突然会場内に響き渡る少女の声。
龍造、《歩》、そして大凶魔派の人間。三者三様の魂の揺さぶりが会場を満たす。
《歩》の”背中”より浮かび上がったのは、龍造の隣にいる白装束姿の少女であった。
少女は着物がこすれる音すら立てず舞い上がると、《歩》の前に正座をし、幻真に向かって《合手礼》を行うと体を起こし、その美しい顔を幻真へと向ける。
そして黒髪と白装束がゆっくりと輝き、《金》色に《成る》。
「なに! ……ではあれは!」
大凶魔派の者達が龍造の隣に立つモノと、幻真の前に座る少女を交互に見比べる。
「アレは……わたくしが造った木偶でございます」
大凶魔派の者が口にする問いに、《歩》は顔を伏せながら淡々と答えた。
「ぐぅわっはっは! どうした幻真! 《▲5ニ歩成》で”魔王手”だがね! だが、さすが幻真よ! ”あれから”改良したんじゃが、お主の眼はまだ曇ってはおらんがや!」
龍造は、自分の隣に立つ少女の姿をした木偶の頭をポンポンと叩く。
先ほどまで龍造の首を狩ると息巻いていた大凶魔派の者達は、信じられない光景に動揺しながら、しおれた朝顔のようにその力が抜けていった。
かたや《王将》の命で、今すぐにでも《歩》が《と金》が、目の前に佇む魔王、幻真の首を狩り、そして残りの九頭竜が、会場内外にいる大凶魔派を一瞬で殲滅する。
かたや気勢をそがれ、負け犬の様にしっぽを丸めた大凶魔派の者達。
《歩》と《と金》ごときでは己の首は狩れないが、《大凶魔派 対 庵堂派》としての勝負は決したと見た幻真は、龍造に向き直りやさしい笑みを向ける。
「せっかくここまで足を運んでくれた、お主への土産を忘れておったわ。くれぐれもその娘を大事にしておくれ。もし、それでも物足りなければ……」
見るモノを死神の鎌のように魂ごと切り刻む、幻真の研ぎ澄まされた眼光は、先ほどまで魔力をたぎらせていた者達へと向けられた。
「可憐な娘と木偶の区別すらつかん、しおれた醜い花共を、お主らが”摘んで”くれると助かるのぅ……」
《粛正》という言葉すら子守歌に聞こえる旋律が、魔王の口から奏でられた。
「ぐぅわっはっは! しおれた花に興味はないがね。ワシが欲しいのは大輪の花を咲かせる”種”じゃ! この娘っ子のようにな!」
龍造は甲斐の肩へ手を置くと、きびすを返した。
《歩》と《と金》も立ち上がり、今一度、幻真に向かって《歩》は胸に手を当て一礼し、《と金》はお辞儀をすると、回れ右をして《王将》龍造のあとへと続く。
「では幻真、土産はありがたく頂いておく。庵堂龍造! これにてご無礼する!」
龍造、甲斐、そして九頭竜達は龍造の笑い声と共に、パーティー会場をあとにした。
「ぐぅわっはっは! 幻真のあの惚けた顔! 実に愉快だがね!」
廊下に配置された大凶魔派の者達も、いつの間にか侵入した九頭竜を見て戸惑いを隠せなかった。
攻撃も、引き留めることもできず、ただ、庵堂龍造御一行を見送る事しかできなかった。
「あ、あの……庵堂様……私は……」
甲斐は龍造へ戸惑いの表情を向けるも
「今は何も思うな、何も考えるな。あとのことはこのワシに任せればいい」
そして龍造は、再び甲斐へ豪快な破顔を向けた。
『そうじゃな、事が落ち着いたら、ワシのひ孫と”遊んで”くれればいいんじゃ』
※
まるで、つい昨日聞いたような龍造の声。
それを何度も心に響かせていた甲斐の耳に、校内放送が届いた。
『二年A組の白鳥羽斗君、目黒武雄君……』
(またあの二人何かやったのね……え、この声、【言霊】! 金剛さん!?)
『至急! 今すぐ! 《マギカ・バディ競技場》まで来なさい! 来たら土下座!』
「……マギカ・バディ……”競技場”! なんですって!!」
「会長! 今の放送は!?」
部室棟のお手洗いから手も洗わず、ストッキングも履ききれていない状態で、稲津が転がるように生徒会室に飛び込んできた。




