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龍造との出会い。~目黒&稲津~ 後編

 稲津は空手の左前屈立ちで構えると、開いた左手を軽く前に突き出し、右の拳を腰に当てる。

 そしてほんの一瞬、稲津の左手から極細の光の糸がゲーム機に放たれた。


「よし! この機械ならこれくらいかな……。 せぇ~の! ちぇ~すとぉ!」

 女子中学生の空手の真似事。

 それ以上でもそれ以下でもない右中段突きがゲーム機のミットに向かって放たれた。


 ”ポフ!”とかわいい音と共に、光の糸が一瞬、ゲーム機を包み込む。

そして画面に映し出された数字は……999㎏!


「ええ~! うそだろ~!」

「いや、これむしろ反則だろ~!」

「あの女の子、スタンガンでも仕込んでいるのか?」

 野次馬達の口から放たれた嘲笑とざわめきが、稲津の回りを漂っていた。


「ぐぅわっはっはっは! そうか、そうきたか! こいつは一本とられたわい!」

 龍造の豪快な笑い声が、台風のように野次馬の声を吹き飛ばした。


「よかったぁ~。もしぶっ壊したら、今度こそ高校どころじゃねぇからな」

 目黒は体の力が抜けるように、安堵の息をつきながらその場にへたり込んだ。


 龍造の奢りで飲み物をもらった目黒と稲津は、店内のベンチに腰掛ける。

「お嬢ちゃん、お主は”術師”がや?」

「ん~? 私の場合はあくまで”体質”ですので、”術”と呼べるかどうか……」


「なるほどのう、ワシも噂程度にしか聞いちょらんかったが、さっきのような微弱な電流とはいえ、まさか実在しとるとは……」

「あら、お言葉ですが……その気になればこのゲームセンター、いやこの一体の建物の電化製品を”破壊”することも可能ですが……」


「な……なんじゃ! ちょ、ちょっと待っとって! この腕時計と”すま~とほん”は高かったんじゃ! これを壊されたらワシは……」


 稲津の”カミナリ”の破壊力よりも自分の時計やスマホを大事に思う、そんなベクトルのずれた言動に、二人は噂で聞く《龍王》の風体が音を立てて崩れ落ち、どことなく親近感が湧いてきた。


「おお、そうじゃ、そっちの坊主は……」


 龍造は、稲津に向けた柔らかい表情を突然切り替える。

 声を落とし、若干すごんだ声で”白装束の少女”を拳から突き出した親指で指し、目黒に問う。


「……なぜ、”これ”を、人でないと見切ったんじゃ?」


 しかし目黒は、龍造の重い声を、柳のように受け流す。


「なぜって? ん~、俺は馬鹿だからうまく言えねぇんだけど、その”ろぼっと”。確かに心臓の音は聞こえるし、触ってないけど、おそらく人肌に暖かいと思うんだ……」


 目黒は天井を向き、少ない脳みそを必死に回転させ、言葉を探していた。


「俺は毎日のように真理から”カミナリ”を浴びているから、逆にわかっちまったんだよな。強い奴ほど、”何か”が体の奥底から湧き出ているって。えっと、庵堂さんからもすごい”モノ”があふれ出てるのがわかるぜ。でもこの”ろぼっと”からは魔力が”流れている”のはわかるけど、”モノ”が湧いてこないんだ」


「ふむ、それは生命力とか、闘気みたいなモノか?」

「そうそう、そんな感じ。難しく考えすぎて簡単な言葉が出てこなかったわ。でも……」

「ん? どうしたんじゃ?」


「う~ん、うまく言えないけど、庵堂さんの場合は何か


”別の場所にある”


”この世のモノでないモノ”から


”庵堂さんの体に”注がれている”


ような気がするんだな……」


「ちょっと武雄! あんた一体何を突然!?」

「……ぐぅわっはっはっは! いやはや、一本どころか二本も”三本も”とられる羽目になるとは。いやぁ愉快、愉快!」 


 再び店内が龍造の笑い声で満たされる。


「そうじゃ、ワシが負けたから何か言うことを聞かないとな。お金以外なら何でもよいぞ」

「……武雄、どうするの?」


「そうだな……。そう言えば庵堂さんって高校をつくったって? 俺は馬鹿だから、出来ればその高校に入学させてくれ! もちろん入試もなしで!」

「なんじゃ、そんなことでいいのか。そっちの嬢ちゃんはどうする?」

「え……あ、あたしは……」

「真理も、俺と一緒に庵堂さんの高校に入ればいいじゃないか?」

「え! 武雄と一緒! ……ま、まぁ……武雄がそう言うなら……」


 稲津は目黒から視線をそらし、頬を朱に染めながら人差し指で掻いた。


「よし! これで貸し借りなしじゃ! ところで、高校に入学したら、一つワシの頼みを聞いて欲しいんじゃが……」

「……はい」

「いいぜ!」


『ワシのひ孫とな”遊んで”やってくれ!』

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