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マギカ・バディ ―魔術とカバディが融合した、究極のノベルスポーツー   作者: 宇枝一夫
第一部 第四章 ハーフタイム、そして後半戦
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夜長の覚醒

 目黒はデッドエンドラインギリギリで仁王立ちしている夜長をロックオンすると、黒い弾丸のようにその身を跳ばす。


「さぁどうするねぇ? 相打ち覚悟で戦うか? 死なばもろともで、俺をデッドエンドラインへと押し出すか? それとも……尻尾巻いて逃げるのかねぇ?」


 どれもやらせないとばかりに、目黒は己の体を不規則に左右に跳ばしながら、夜長との距離を縮めていった。


「はえぇ!」

「あれじゃあ大凶魔のキャプテン、一歩も動けないぜ!」

 男子学生A、Bのみならず、観客すべてが夜長の一挙手一投足に注視している。


「「動いた!」」

 まるで蝶が羽ばたくかのように、夜長の体が一歩、また一歩と跳び、目黒という黒い華の蜜を欲しがるように近づいていった。


『上等ぉ!!』

 四肢、そして五臓六腑すべてを戦闘モードにした目黒は、咆吼を掲げながら拳、手刀、裏拳、掌底。蹴りも上段中段下段、そして回し蹴りに後ろ蹴り、さらに自爆覚悟の跳び蹴りも放つ。


 しかし夜長は黒アゲハそのものとなり、コート上はバイラオールである目黒と、バイラオーラである夜長との、魅惑で幻想的なフラメンコの舞台と化していた。


「す、すげぇ……」

「大凶魔のキャプテンも【沈黙】で術が唱えられないんだろ? それでもあの脳筋の攻撃をすべてかわしているのか……」

 男子学生A、Bもフラメンコの虜になり感嘆の息を漏らす。

 この二人のみならず他の男性、そして女性観客のほとんどが、コートを舞う夜長の色香の虜になり、顔や口には出さないが肉欲の炎をたぎらせていた。


 しかし夜長が蝶で野生動物なら、目黒はそれを狩るハンター。

 目黒は夜長の動きを読み、徐々にサイドラインとデッドエンドラインが交わるコートの隅へと追い詰めていった。


 コートの角で向かい合う目黒と夜長。

「さぁどうするね大将? わりいがここでキメさせてもらうぜ!」

 目黒が右拳に力を注入しようとした瞬間! 夜長は妖しく微笑みながら、左手の薬指で左耳の後ろを指さした。


『!!』

 観客席、そして龍堂学園コートの空気が、まるではじかれたゼリーのように震える。

 その意図がなんなのか? なんて考えは、脳筋の目黒には存在しなかった。


「へっへっ! どうせくたばるなら俺の必殺技でってか? 気に入ったぜぇ!」

 拳を解くと、右手をゆっくりと夜長の左耳の後ろにあてがう。

『おお……』

 予測した光景が目の前で展開された為、観客はやっと息を吐き出すことができた。

 もちろん、何かあったときのために、目黒の防衛本能は左拳を固く握らせていた。


 熱く戦いの炎を燃やした目黒の手の平から、夜長の氷のようなぬくもりが伝わる。

 その熱いたぎりをもっと味わいたいがごとく、夜長は自身の左手を目黒の手の甲にあてがい、さらに右薬指で右耳の後ろを指さした。

『!!』

 観客の震えにも構わず、目黒はまるで操られるように左手の平を夜長の右耳の後ろにあてがい、さらにそれを包み込む夜長の右手。


 瞳を見つめ合い、今にも口づけをかわしそうな距離。

 やがて洞の時と同じように夜長の体が小刻みに痙攣し始めた。

”ピシィッ!!”

 落雷にあったかのように夜長の四肢は伸び、豊満な胸を突き出すように背を反らしながら、体がわずかに宙を浮く。


”終わった”とばかりに目黒はせめて武士の情けとして、足が地に着き顔からコートに崩れ落ちる夜長の両肩を支えようとするが……夜長の体は倒れなかった。

 一瞬、視線が固まる観客達。

 その理由を、一番近い距離にいる目黒だけが気がついた。


『下がってろ脳筋! 今の大凶魔のキャプテンのヤバさがわからないおまえは、おとなしくここにいろ!』


 いや、今になってわかった。鳥居が自分に向かって吼えた理由(わけ)を。

 そして、白鳥が鳥居の言葉を是とした訳も。


(なん……コイツ……お、おい……なんで倒れねぇんだ……【なんとか】はキメたはず……魔体そのものにダメージを与えたから……もう立つどころか……違う! 動いているのは

”コイツじゃねぇ!”

 別の……なにかが……コイツの体を……。これ、前にも

”感じた事がある!”

 アレは……いつだ? 

 龍造のジジイ! 

 あれほどの化けモンじゃねぇが……な、なんだこりゃ!?)


『……なにか”ヤバイモノを飼ってやがる!”』

 再び思い出される鳥居の叫び。それが目黒が欲しがっていた答えのすべてだった。


 徐々に夜長の体から浮かび上がる、黒い糸のような細くはかない魔力。

 それが互いに紡いで、紐から縄へ、そして、甲斐との戦闘で見せた禍々しい蛇へと形作っていった。

 それだけならまだ目黒も対処のしようがあった。

 しかし今、眼前に何体も浮かび上がっているのは、


”夜長の制御を離れた、術ではない、人ならざるモノ!”


 夜長がスカウトしようとした祓い師でさえ、ヤバイモノだと決死の覚悟で挑もうとしたモノ。


 蛇ににらまれた蛙。

 その言葉を目黒は己の体で体現していた。


 十体ほどの漆黒の蛇一匹一匹が巨大な牙となり、蛙である目黒をその牙で八つ裂きにしようと距離を縮めていく。


(ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!)


 魂が細胞一つ一つにまで警報を発し、


(【加速】! 【跳躍】! 【加速】! 【跳躍】! 【加速】! 【跳躍】! 【加速】! 【跳躍】! 【加速】! 【跳躍】!)


 わずかに開いた口からは無限とも言える詠唱を唱えるが、目黒は【多重詠唱】のスキルを持っていない為、術を重ねがけしても【加速】や【跳躍】の効果が二倍、三倍になるわけではなかった。


(だれ……だれ……か……た……たす……たすけ……)


 もはや声にならない悲鳴が、命乞いのように口から吐き出されていく。

 漆黒の牙の先端がほんのわずか、目黒の体に触れた瞬間! まるで死に神のサイスのように、目黒の体から魂のぬくもりが吸い取られていった。


 死を覚悟した目黒の片隅に浮かぶ、一人の少女。

 それは親よりも自分の名前を呼び、気を回し、時には怒鳴って、そして、見守ってくれる少女。

 ソイツとは離れたくない。ソイツの元へ帰りたい。ソイツの名は……。


『【マギディ】! 【マギディ】! 【マギディ】!』


 絶望の時の中、耳に届けられる少女の【マギディ】。そして


(『武雄ぉー! 逃げてぇー!!』)


 魂を貫く少女の悲鳴!


『真里ぃー!!』

””ザンッ!””


 漆黒の牙が互いに重なる音と、目黒の両足が地を蹴る音が重なる。

 真後ろに飛び退きながら、その加速度は驚異的であった。


「逃げた!」

「あっぶねぇ~な脳筋! なにボーとしていたんだよ。むざむざやられるところだったぜ」

 観客席からは忸怩(じくじ)たる舌打ちと、わずかな安堵の声が漏れる。


 しかし漆黒の牙は極上の獲物である目黒を捕獲しようと、その体をゴムのように伸ばす。

 さらにその体をいくつにも分裂させて、まるで投網(とあみ)のように目黒の逃げ道をふさごうと襲いかかる。


”ドーン!”

”ドドーン!”

 地面に落ち爆発する漆黒の蛇たち。


 しかし、夜長の体からはなおも蛇が沸き上がっていく。

 その一瞬のスキを、目黒は酸素を補給するのに使った。

「ぷはぁ!」

 霧が晴れたように視界が開け、後ろ走りから体制を整え、状況確認する。


 上空から、そして地面すれすれに飛びながら、漆黒の蛇は目黒に向かってくる。

(このぐらいの速さなら……)

 ミサイルのように襲いかかる蛇を、目黒はなんなく避けていく。


「おお!」

「このまま脳筋が逃げ切れば四点入るな」

 同じ事を目黒も考えていたが、蛇たちはそれを許さなかった。


(けっ! 味な真似を。んじゃ、こういうのはどうかねぇ?)

 目黒の唇が妖しく歪む。

 その体は倒れている他のメンバーへ向かっていった。


「さぁ、こいやぁぁぁ!」

 倉の近くに立ち、夜長に向かって挑発するかのように吼える。

 すぐさま飛来する蛇たち。

”ズドォォーーン!”

 倉もろとも、蛇たちは目黒に襲いかかった。


 動揺する観客席。

「なっ! 嘘だろ!?」

「大凶魔のキャプテン。味方もろとも蛇をぶつけやがった……」


「あらよっと!」

 黒煙から飛び出す目黒。

 次の標的は、副キャプテンの美月。

”ズドォォーーン!” 

 氷耶麻!

”ズドォォーーン!”

 最後に火室!

”ズドォォーーン!” 

 次々と味方に襲いかかる漆黒の蛇たち。


”!”

 その光景に、何かを感じた魔女コスプレ姿の金剛は、そのまぶたをいっぱいに開いた。


「こんなモンだな。そろそろ外へ……」

”!!”

 背中から魂のぬくもりが一気に吸い取られる感覚。

 目黒の神経は、先ほど味わった漆黒の蛇だと結論づける。


(後ろ!? いつのまに!)

 振り向く時間も惜しいとばかりに、すぐさま目黒は体を横へ跳ばすが、それが罠であった。


”バギィ!”

 電柱が食い込むほどの衝撃が、カウンターで目黒の横っ腹に食い込んだ。

(コイツの……蹴り……だとぉ)

 サッカーボールのように蹴飛ばされた目黒の体は、ミッドライン上で跳ね上がり、龍堂学園コートへ転がっていった。


「武雄ぉー!」 

 稲津の悲鳴が、競技場全体に響き渡った。

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