スイカ割り
目黒が「切断!? い、今、会長、切断って言ったよな!?」
鳥居が「そ、そんな……放たれた術を”ぶった切る”なんて……」
”タネ”がわかり、やっと平静を取り戻した白鳥が皆に説明する。
「いえ、魔術的には可能……と言うしかありませんね。現に目の前で起きていますから。『防壁』にもいろいろと種類がありまして、大凶魔チームの洞さんみたいに、魔岩石を使った【魔岩盾】のように魔と物理攻撃、両方防御するものもあれば、会長の【対魔防壁】のように魔術、及び術のみを防御する『魔術盾』が存在します」
「そ、そんなことぐらい、俺でもわかっている!」
「落ち着いて下さい目黒君。そして前者はストライカーの物理攻撃を防御する為、ある程度の厚みがいりますが、後者は純粋に魔や術を防御する為、ほとんど厚みがない。まるで、トランプのカードやカミソリみたいに……」
稲津は若干パニックになりながらも、
「じゃ、じゃあ会長は、相手が術を放った瞬間に、【対魔防壁】を進行方向上に水平展開して、跳んでくる【黒炎爆】や【黒炎斬】を切り裂いたっていうの!? あんな曲射で放たれた術を!? ま、まだ漫画みたいに、一直線に突き進む銃弾や弓矢を、刀で切り落とす方がましよ!」
甲斐が行ったことを的確にまとめ上げていた。
「何を世迷い言を! はぁぁぁぁ!」
夜長は右手の平を上に掲げると、直径一メートル強の【黒炎爆】を形成する。
それを見た甲斐は、ミッドラインギリギリまで体を下げる。
「ははっ! 場外へ吹き飛ばして差し上げますわよ。ミッドライン外ではなく、我が大凶魔のコートを突き抜けて、”デッドエンドライン外”へね!」
甲斐へ向かって夜長は右腕を振り、【黒炎爆】を放つ。静かに、風切り音も立てず。
まるで偉大なる闇の属性に対して、風の属性である空気が道を空けるかのように。
そして、猛禽類のように、【黒炎爆】はいくつもの弧を描き、獲物である甲斐へと飛来する! ……はずであった!
同時に甲斐の右腕が持ち上げられ、伸ばされた薬指が【黒炎爆】を捉える。
「【対魔防壁】!」
曲射された【黒爆炎】の軌道を読み、その斜線上に一片が一メートル強の正方形で形成された【対魔防壁】を展開する。
向かってくる【黒爆炎】に対して垂直ではなく、水平に!
やがて両者は、それぞれの主の中間地点で激突する!
例えるなら、飛来した直径一メートルの黒スイカと、刃渡り一メートルの巨大な中華包丁が相対するように。
中華包丁と化した【対魔防壁】によって、きれいに切断される黒スイカのような【黒炎爆】。
そして、役目の終わった【対魔防壁】は消滅し、切断された【黒炎爆】は二つに別れ、甲斐の左右を通り過ぎると、ミッドライン上の【絶対魔防壁】に激突し大爆発を起こした!
左右から噴き上がる漆黒の爆風によって、甲斐の髪が、ドレスが、そして、二つの胸が扇情的に乱れ揺れ動く。
目の前で起きた出来事にやっと事が飲み込めた夜長は、甲斐の体を切り刻むように薄紫の唇から言葉を放つ。
「切断ですって!? 私の【黒炎爆】を! 【黒炎斬】を! まるでバターやチーズを切るみたいに!?」
甲斐は相変わらず陽の魔女の声で、別の見方をすれば、夜長に対して何も含むところがない、天然な声で語りかける。
「以前、龍造先生に言われたの
『甲斐ちゃんや! たまにはよぉ~、向かってくる術に対して【対魔防壁】を真横、水平に展開してみたら、いったいどうなるのかや~。
”|Der Matrose《すいへい(水兵)》 |Liebe《り~べ~(愛している)》 Mein Schiff”
ってな! ぐわっはっはっはっは!』
……ってね」
甲斐の会話の中で突然行われた、『魔の龍王』、庵堂龍造の声色と顔芸。そしてデタラメなドイツ語に、夜長をはじめ大凶魔學院メンバー、そして観客席が瞬く間に凍り付いた。
龍堂学園メンバーですら、容姿端麗、才色兼備、さらに生徒会会長である甲斐の一発芸に、体中から別の汗が滝のように流れ落ちる。
ただ一人、金剛だけが龍造の物まねを、にこやかな顔で眺めていた。
「まぁいいわ。龍造先生からどんな技を授けられたのか知らないけど、しょせんあなたはディフェンダー。サッカーであるゴールキーパーみたいなモノ。そりゃ肉体攻撃は出来るかも知れないけど、あなたの拙い攻撃で、私の体に擦らせることができて?」
「あれ? 夜長さん? 私、中学時代は練習でも試合でも一度も
”攻撃を見せたことがない”
と思うけど……」
「!」
天然な甲斐の発言に、夜長のみならず、中学時代のメンバーだった大凶魔の者達も息を呑んだ。
(やはり龍堂学園の連中は、甲斐でさえ力を隠しているのか?)
大凶魔學院チーム副キャプテンの美月は、自分の推測が確信に変わったことを実感した。
「……いいわ。そこまで言うのなら、私を倒してご覧なさい!」
夜長の周りには再び【黒炎爆】の漆黒の炎の玉が形成される。しかし、今までと違うのは四つではなく、五つ!
「!」
一瞬! 甲斐の中に迷いが生じた。”まさか!”と。しかもその迷いは夜長に対する甘さから生じたモノだった。
甲斐の迷いを感じた夜長は、妖しく唇を歪めながら甲斐に背中を見せると、五つの【黒爆炎】をデッドエンドライン前に立つ龍堂学園のメンバーに向けて放つ!
しかも、それそれの【黒炎爆】が各メンバーを狙ったのではなく、ただ力任せに、スピード重視の射出だった。
「!」「!」「!」「!」「!」
自分達に向かってくる五つの【黒炎爆】!
龍堂学園メンバーそれぞれが、蛇ににらまれた蛙のように、【黒炎爆】の爆発に飲み込まれると覚悟を決めた瞬間!
『【対魔城壁】!』
両翼八十メートルのデッドエンドラインすべてを覆い尽くすかのように、甲斐の【対魔城壁】の光の城壁が、龍堂学園メンバーの直前に形成されると!
”ドドドドドグググググァァァァァンンンンン!”
五つの【黒炎爆】がわずかな時間差で、龍堂学園メンバーの目の前で大輪の花を咲かせた。
安堵の息をつくメンバーに先駆けて
目黒が「て、てめぇ! きったねぇぞ!」
稲津が「武雄! いい加減ルールを覚えなさい! レイダーがアンティーを攻撃してはいけないってルールがどこにあるの!」
白鳥が「目黒君。無力な私たちはここで何を叫んでも、負け犬の遠吠えにしかなりませんよ」
鳥居は、目黒に関わると無駄な体力を消耗するのと、言いたいことは稲津が怒鳴ってくれたから沈黙を守り、金剛は相変わらず微笑みながら甲斐と夜長の戦いを見据えていた。
術が間に合い、心の中で安堵する甲斐。しかし、時を与えないかのように夜長の体が迫る!
「至近距離で術を放たれたら、切断も何もないでしょう?」
妖しい音色と共に、夜長は手の平で形成された【黒炎爆】を甲斐の腹へ向けて放つ!
両腕を交差し、【対魔防壁】を展開する甲斐!
”ドゴォーン!”
爆発を目くらましに、夜長はすぐさま【黒炎斬】を帯びた左足を、甲斐の首へ向ける!
右腕を揚げ【対物防壁】、【対魔防壁】両方を展開する甲斐!
”ドグワガキィーン!”
甲斐にダメージは受けなかったが、夜長の蹴りは二つの防壁を瞬時に破壊し、光の粒子へと変貌させた!
『うおおぉぉぉ!』
再び始まった裏切り者に対する死刑執行に、大凶魔派の観客席からは狂気の歓声が沸き起こる。
甲斐は逃げ回るも、夜長は距離を離されまいと肉薄し、絶え間ない【黒炎爆】、【黒炎斬】、そしてそれらを帯びた拳や手刀、肘撃ちや蹴りを甲斐の体へと浴びせる。
やがて甲斐のドレスや下着、そして白い肌までもが、黒い炎の刃によって切り刻まれ、血を吹き出すのを許さぬかのように、傷口から漆黒の障気が噴き上がっていた。
「く、くっそう! 何も出来ないのかよ俺たちはぁ!」
拳を握り唇をかみしめる目黒。
ストライカーとして、目黒は目の前の格闘戦を援護できない悔しさを、叫びと体で表すことしかできなかった。




