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マギカ・バディ ―魔術とカバディが融合した、究極のノベルスポーツー   作者: 宇枝一夫
第一部 第三章 VS 大凶魔學院 前半戦
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花びら

 いつの間にか、アタックサークル内でのみ繰り広げられる二人の死闘。

 こうの夜長に、ぼうの甲斐。

 しんの夜長に、退たいの甲斐。

 切り刻まれた甲斐の体中から漆黒の障気がわき起こり、甲斐の光を夜長の闇が急速にむしばんでいく。


 甲斐は肩どころか全身で息をする。しかし、【自己回復】が追いつかないほどの損傷と疲労が、観客席の人間からも容易に判別できた。

 観客席の誰もが、甲斐の敗北、いや、”私刑”が完了すると確信する。


 龍堂学園のメンバーですら、まるで後ろのデッドエンドラインが、自分たち龍堂学園チームの、絶望の崖っぷちだと感じた瞬間!


「うん! 会長、決まったね!」


 紫の中折れ魔女帽子、紫のローブをまとい、右手には張りぼての魔術杖を軽く握った龍堂学園メンバーの一人、金剛珠洲(こんごうすず)が、まるで甲斐の敗北を宣言したかのように、実は裏切り者かのように、明るく言葉をつむぎ出す。


「!」「!」「!」


 目黒、稲津、そして鳥居ですら、金剛の蛮行(ばんこう)に目を丸くするが、金剛の放った言葉をセメントで補強するかのように、白鳥の体からは感動の震えが、口からは感嘆のため息が漏らされる。


「な、なんとすばらしい。魔術を……ああも美しく”咲かせる”とは!」


 そんな金剛と白鳥の言葉なぞ夜長は知るよしもなく、ただひたすらに、妖と狂の魔女と化し、甲斐の体を削り取るように攻撃を浴びせまくる。

 より闇に染まる甲斐の体。

(夜長様の体……まさか!)

 しかし、大凶魔學院チーム副キャプテン、美月の眼は、夜長の体の異変を感じ取った。


 そして、その異変を生じさせた甲斐は、大きく後ろにジャンプし、夜長と距離を取る。

「逃げても無駄よ! なにっ!」

 夜長は自分の体と甲斐との間の空間に、なにかしら異変を感じる。先ほどとは違う、


『身の危険!』


 すぐさま攻撃をめ、甲斐を見据える夜長。さらに、己の体の異変にようやく気がついた。

「お、おい……大凶魔のキャプテンの体」

「体中から、光が漏れている?」

 夜長が超高速の攻撃から体をめた為、その体の異変に観客すら気がついた。

 

 甲斐が闇の攻撃で、体中の傷口から闇の瘴気(しょうき)を噴き上がらせているのに対し、

 夜長もまた、”体中の傷口”から光の粒子を噴き上がらせていた。

(夜長様の体に傷が! 甲斐の奴、いつの間に攻撃を!?)

 大凶魔學院ストライカーの倉の眼でもってさえも、あるじの体の異変に、たった今気づいたのであった。


 しかし、先ほどとは違い、夜長の声は冷静であった。

「これも、龍造先生からさずかった”技”?」

「ええ、【対魔防壁】を術に対して水平に展開できたら、次は


『【対”物”防壁】を”肉体”に対して水平に、頭から足下まで展開してみたの』」


 夜長の体の傷口から漏れる無数の光の粒子が、夜長の周りに展開された【対物防壁】を輝かせる。

「み、見ろよ。大凶魔のキャプテンの周り!」

「あ、ありゃなんだ! 光の……”花びら”」


 観客の眼に写る幻想。

 それは夜長自身がめしべ。

 二等辺三角形の【対物防壁】が、幾重(いくえ)もの層となった花びらと化した、

 コート上に咲く光の薔薇(ばら)の輝きであった。


 目黒は「な、なんだ? うちらからはよく見えないけど、なんかすごいことをやったんだよな会長は!?」


 白鳥が「【対物防壁】を、まさにナイフやカミソリのように見立てて、あちらのキャプテンの体の周りに、水平に展開したんです。アレでは一歩でも動いたら、体が切断されてします」


 稲津が「じ、じゃあ、会長が相手のキャプテンの周りを回転しながら防御していたのはそういうこと!?」


 鳥居が「はは……うちらはらい師よりえげつないことやるなぁ会長は。てか珠洲、見えていたのか?」


 金剛が「ううん、前にね、会長が龍造先生と練習しているところ、ちょっとのぞいちゃったの」


「なるほどね。【対魔防壁】で術が切れるのなら、【対物防壁】で物や人が切れてもおかしくない。ストライカーのような屈強な肉体、もしくは【防御】の術を体に展開していれば、それほどの驚異じゃないけど、今の私はその両方ですらない。だから有効な攻撃手段って訳ね。で、これからどうするおつもり?」

 夜長は何か開き直ったように漏らすと、甲斐の次の言葉を待つ。


「夜長さん、貴女はもう逃げられないし、ここで私が【対物防壁】を貴女に向けて動かしたら、その体が切り刻まれるわ。……ギブアップを」

「あらぁ~。貴女にそれができるのかしらぁ~? まさか剣をさやから抜いて、『私の勝ち』って、”のたまう”んじゃないでしょうねぇ~?」

「!」

 甲斐のまぶたがわずかに開く。


「まだ私は立っているしぃ~、《神の眼》は私の敗北を宣言していないわよ~。それにぃ~」

 ギャルのような柔らかい声を放つ夜長の声と顔が、一転! 強固に固められる。


『相手を傷つける覚悟がある者だけが、格闘技や攻撃魔術を使う資格があるのよ』」


 そして夜長の眼も唇も、顔も体も、吐き出される息も漆黒の魔力も、狂気という色で染め上げられた。


「さぁ、続きをしましょう。わかっているでしょう? 私が前半で二秒残した理由。あなたたちと試合して、最後、一対一のサドンデスなんて絶対あり得ない。だからレイド中に前半終了すれば、時間無制限で貴女と戦える。こんな素敵なシチュエーションを、

”甲斐さんの為に”

わざわざお膳立てしてあげたのよ」


 鳥居が「なにぃ! 会長と戦う為だけに、わざと味方を自爆させたのか!」

 稲津が「……あの人。なにかおかしいわ」

 目黒が「真理、こんな試合をおっぱじめている、俺たちみんなが狂っているんだよ」

 白鳥が「不本意ですが目黒君と同意見です。せめてフィナーレだけは美しくありたいものですね」

 金剛は相変わらず、にこやかな顔で二人を見つめていた。


 甲斐の両腕、両の手、両の指がゆっくり動く。まるで【対物防壁】の光の花びら一枚一枚が、甲斐の指先、関節、毛穴一本一本にまでつながっているのを確かめるかのように……。


 夜長もまた、自身から沸き上がる光の粒子を消滅させるかのように、漆黒の魔力を噴き上がらせる。


「や、る気か……会長?」

 目黒が冷や汗をコート上に、唾液(だえき)を胃の中へと落とす。

 格闘漫画で幾度となく見た『殺る』という言葉。

 いつかは自分が使うと思っていた言葉を、まさか自チームの女子キャプテン、しかもチームメイトを護るディフェンダーに向かって使うとは思ってもみなかった。


 同時に目黒は、この言葉を使う時の『味』を、口の中で感じていた。

 情けや慈悲のような”湿しめっぽい”味ではなく、無味無臭、感情すらない乾いた味を。


”フッ!”


 甲斐の体の各部位が超高速で動く。その速さが【対物防壁】の攻撃スピードそのものであるかのように!

 数十もの【対物防壁】の光の花びらが、瞬時に夜長の体へと吸い寄せられる!


 にやける夜長。まるでこの世すべての快楽、悦楽を堪能したような顔であった。


(((((夜長様!)))))


”ババガビキキィィィーーン!”


 大凶魔學院メンバーの心叫びと同時に、夜長の体に【対魔防壁】が突き刺さる音が競技場全体に轟いた!

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