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マギカ・バディ ―魔術とカバディが融合した、究極のノベルスポーツー   作者: 宇枝一夫
第一部 第三章 VS 大凶魔學院 前半戦
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野戦病院

「お、おい!」

「予告レイダーだぜ!」

 夜長の宣言に、観客席からどよめきのウェーブがわき起こる。

 そのウェーブに乗るかのように、夜長は悠々と、堂々と、一歩一歩コートを踏みしめながらミッドラインへ己の体を運んでいった。


 ――通常、レイドとなったチームは《神の眼》からのカウントダウンが始まるギリギリまでレイダーを隠しておくのがセオリーである。

 これはレイダーによって攻撃パターンを考えたり、アンティ時のシフトをすぐさま展開させない為である。

 中にはまるでバレーボールのアタック時みたいに、数人が一斉にミッドラインまで走っていき、ラインギリギリでダミーの人間は引き返し、一人だけラインを超えるプレーもある。

 もっとも、今の夜長みたいに、速攻の為に《神の眼》のカウントダウンが始まる前に、相手コートのアタックサークルに向かってもかまわない。

 その時は相手コートに入った時点で、アタックサークルに入るまでのカウントダウンが始まるのである――。


 なんとか自コートにたどり着いた鳥居。今にも崩れそうな体を、魔女コスプレの金剛が駆け寄って抱きしめるように支えた。

「会長! すぐタイムアウトを!」

「えっ?」

 ボロぞうきんと化した鳥居の姿、そして、金剛らしからぬ覇気ある声に甲斐は一瞬、チームの現状を見失なっていた。


「前半はもう一回タイムアウトできるんでしょ! 早く! レイドが始まっちゃう!」

 ほうけた意識の甲斐であったが、無意識につぼみのような口が花開き、なぜか筋肉、骨、神経、血液、細胞にいたるまで、まるで金剛に操られるかのように、甲斐の体に刻み込まれたキャプテンとしての行動を実行した。


『タイムアウト! 龍堂学園キャプテン甲斐です! タイムアウトを申請します!』

 今にも夜長の足がミッドラインを超える瞬間!


『……申請を認めます。龍堂学園、三分のタイムアウト』


 《神の眼》の声に夜長は”くっ!”っと、心の中で唇を歪め体を止める。

(……まぁいいわ。つかの間の休息を堪能する事ね) 


「武雄!」

「おう!」

 稲津と目黒がベンチまで走っていき、みんなのカバンを持ってくる。

珠美(たまみ)ちゃん、横になって」

 金剛にうながされた鳥居は腰を下ろし、金剛の膝枕(ひざまくら)に頭を預けた。


「ありがとう金剛さん、私……」

「いいよ。無傷なのは私だけだから、これぐらいのことは考えないとね」 

 力のない甲斐の顔に向かって、金剛は淡い微笑みを向けた。


 目黒が鳥居のカバンをもってくると、

珠洲(すず)、私のカバンからみんなに薬雫(やくしずく)を渡してくれ」

「おや? 鳥居さん、あの薬雫はヤバイモノじゃ?」

「ああ、白鳥(おまえ)にあげたヤツはいわば失敗作だ。今度はちゃんとした薬草を調合したものだし、むろん、《神の眼》の申請も通っている」

「ンノオォォォ!」


 大凶魔学園のコートでは、美月が夜長の水筒を運んできた。

「ありがとう美月」

「惜しかったですね夜長様。速攻で一気に叩きつぶすところを……」

「あの魔女コスプレ、ただの【マギディ】要因じゃないわね」

「はい。あいつも龍造先生の息がかかっていると思います。未だレイドもアンティーも何もしていませんが、なにか”特別な術”でも……」

「……」

「も、申し訳ありません! 憶測で相手の力を過分に判断してしまいまして!」

「いいのよ美月、私も何か感じていたから。あとみんなに休息を、特に【魔岩盾】を展開した洞にはね」

「御意!」


 そして、夜長はもう一度金剛を見据(みすえ)えた。

(タイムアウトを宣言した甲斐の体……まるで”ゴーレム”のよう?)

 それは、甲斐と背中合わせに三年間戦ってきた、夜長だけが感じた違和感であった。


 大凶魔學院と龍堂学園のコート、二つを見比べた男子学生AがBに話しかける。

「なあ、前半終了まで残り二秒、点数は9対8 未だ負傷退場者はなし。端から見ると両チームは互角にみえるけど……」

「ああ、なんだこれ? 龍堂学園の方はまるで野戦病院じゃないか……」

 余裕の表情で水分をとる大凶魔チームに比べて、龍堂学園チームは休息の為、金剛以外はコート上に横になっていた。


(そういえば……試合中に大の字に寝るなんて初めてかも。これまで練習でも試合でも、コートで倒れた時は気を失って負傷退場だったから……)

 下着が見えないよう、ドレスのすそを気にしながら、甲斐は天井を眺めていた。

 わずかに顔を横に傾けると、二つの胸もわずかに揺れる。そして視線の先には直径数メートル、無色透明の球体である《神の眼》が浮かんでいる。


(なんで……”あんなもの”がこの世にあるんだろう?)


 それは、甲斐がマギカ・バディに触れてから初めて感じた疑問かもしれない。

 しかし、鳥居の薬雫が効いてきたせいか肉体からは力が、魂からは魔力が高揚し、甲斐をマギカ・バディの戦士へと呼び戻した。


『みんな、そのままで聞いて!』


『タイムアウト終了! 大凶魔學院のレイダーは十秒以内に相手コートのアタックサークルへ、十……九……』


 《神の眼》のカウントダウンと同時に、夜長の体はミッドラインを超えるが、同時に観客席がざわめき始める。

「お、おい! 大凶魔のキャプテンの足!」

「なんだ? 魔力を足の裏から吹き出してジャンプしているのか?」


 まるで妖精が花から花へと飛び移るように、夜長は足の裏から漆黒の魔力を吹き出して、《神の眼》のカウントダウンと合わせて、アタックサークルへ向けてゆっくりと、華麗にジャンプしていった。


「な、なあ、アタックサークルに入るまでは、術の使用は禁止だよな?」

「し、しかし、魔力を体からあふれ出すのを術と言えるのか? 現に、《神の眼》も警告していないしさ」

「これってさ、あのキャプテンが、とてつもない魔力を持っているって事だよな」


 そして夜長は、ちょうど十歩目でアタックサークルの中心に降り立った。


 対する龍堂学園のシフトは、先ほど鳥居に向かって大凶魔學院がとったのと同じように、アタックサークルの夜長の正面には甲斐。残りのメンバーはデッドエンドラインの前に立っていた。

 わずかな違いと言えば、大凶魔學院はラインの端から端まで立っていたが、龍堂学園は対火室の時のシフトと同じように、前二人は白鳥と目黒、その後ろに稲津、金剛、鳥居の女子三人が各自二メートルぐらいの間隔を空けて立っていた。


『おおおおおおっ!』

 観客席すべてから歓声が上がる。

 昨年度全国中学大会を制したチームのキャプテンと、副キャプテンが

 闇の炎の術と、光の盾の術が

 黒のドレスと、白のドレスが

 ようの魔女とようの魔女が

 互いに敵として、今、相対した!

 

『アタックサークルのレイダーはカウントテン以内に攻撃を、十……九……』


「ふぅ~ん。そういうこと。いさぎよいわね。”裏切り者の制裁”を受けるのは自分一人だけ、チームメイトは見逃してくれってことね」

 カウントダウン中に放たれる夜長の言葉に、甲斐はなんの返答も返さず、ただ夜長を見据えていた。


「安心して、【マギディ】は使わないわ。私一人で貴女をほふってあげる。でも、貴女も後ろのお仲間が気になって仕方ないでしょ? どうせならこちら向きでやりましょう」

 そう言うと夜長はゆっくりと甲斐に背中、そしてドレスから盛り上がる臀部(でんぶ)を向けると、ミッドライン側へと立つ。

「!」


「どうしたの? もっとも裏切り者らしく、カウントダウンが終わったら私の背中に向けて攻撃してもかまわないわ」

だまされるんじゃねぇ会長!」

 デッドエンドラインから放たれた目黒の叫びが、コートを貫いた。


「あら、つれないのね。我が偉大なる大凶魔は”ヤリ逃げ”なんかしないわ。常に正々堂々、”ルールに沿って”戦っているわよ。素人ストライカー君にはわからないかしら?」

「くっ!」

 《神の眼》から大凶魔學院に向かって警告も反則も宣言されていない以上、目黒はその口を閉じるしかなかった。  


 甲斐は夜長を見据えながら、ゆっくりと、無言で、アタックサークルの円に沿うようにミッドライン側へと歩いていく。

「か、会長……」

 もはや目黒の声も力が抜けていた。

 大凶魔側のミッドラインには、メンバーが死刑執行の見届け人のように並んで立っている。そんな彼らに背中を向けた甲斐は、改めて夜長に向き直った。


『一……ゼロ』


『さあ! 血の舞踏会の幕開けよ!』

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