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マギカ・バディ ―魔術とカバディが融合した、究極のノベルスポーツー   作者: 宇枝一夫
第一部 第三章 VS 大凶魔學院 前半戦
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策略

 コート上に浮かぶ夜長の体。

 観客席、そして大凶魔學院チームのメンバーすら、夜長のダウンは疑いようになかったが、

「はあぁぁー!」

 夜長は頭上に出来た【黒炎爆】を、鳥居ではなくコート上へ叩きつけた!


”ドガゴグオオォォーンン!”


 まるでコップの水の中に墨汁を注ぎ込んだかのように、【絶対魔防壁】に包まれた大凶魔學院コートを、漆黒の煙が瞬時に満たす。


「ど、どうなった? 大凶魔のキャプテンがダウンか?」

 男子学生Aは大凶魔學院のコートを注視するが、真っ黒な水槽と化したコートは観客だけでなく、龍堂学園メンバーからも判別がつかなかった。

「《神の眼》がなにも判定も下していないから、まだ試合は続行中だと思うぜ」

 男子学生Bは判別がつかず、推測を述べるにとどまった。


 夜長は自ら【黒炎爆】の爆風を浴び、体を浮かせると、華麗に宙返りをしながら再びコート上に立つ。

「ぐわあぁぁー! くそ! なにも見えん! 【竜巻き】!」

 コート上を滑っていく鳥居は御幣を体の前で振り【竜巻き】を発生させると、体の周りの煙を吹き飛ばし、煙の中からわずかにのぞく競技場の景色を確認する。


「あれは……大凶魔の観客席! やっべぇ! 【影縫い】!」

 自分の体がデッドエンドラインに近いのを見定めると、慌てて【影縫い】の術を己にかけ、

「うわっとっと!」 

 体をのけぞらせながら、なんとか体を止める事に成功した。


 漆黒の煙も徐々に薄くなっていくと、鳥居は後方になにやら気配を感じて身構えた。一つではない、多数の気配を。

「なにっ!」

 振り向いた鳥居が見たものは、そびえ立つ五つの【魔岩盾(まがんたて)】であった。

「くっ!」

 すぐさま【影縫い】を【解術】し、五つの【魔岩盾】に向き直る鳥居。


 やがて砂のように【魔岩盾】が崩壊すると、鳥居から見て右から美月、洞、氷耶麻、火室、そして倉が互いに距離を置きながら、まるでモアイ像のように微動だにせず立っていた。

 緊張の汗が流れる鳥居を見据えても、五人はまったく攻撃のそぶりを見せない。


 そして、一番左側に立つ倉が鳥居に向かって重い声を放つ。

「安心しろ。夜長様のめいによりおまえを攻撃しない。ただし、おまえが攻撃すればこちらも全力で反撃するがな。もっとも……」


 突然! 鳥居の前に立つ火室が叫ぶ!

「夜長様! レイダーは火室の前です!」

 その声を合図に、黒煙を貫いてこぶし大の【黒炎爆】が鳥居に向かってくる。

「なんだとっ!」

 振り向いた鳥居はあわてて左へと避けるも、


”ドゴオォーン!”


 【黒炎爆】は火室の目の前で爆発する!

「ぐわっ! ん、なんだぁ! 味方もろともかよ!」

 しかし黒煙が晴れると、火室の前には【魔岩盾】がそびえ立っており、それもすぐさま崩壊していった。

「だよな~。白鳥の時もそうだけど、世の中うまくいかないよな~」


「氷耶麻の前です!」

 氷耶麻の叫びに再び【黒炎爆】が向かってくる!

「なんとぉ!」


”ドグオォォーン!”


 今度は右に避ける鳥居。爆風で滑っていった先は

「倉の右前方であります!」


”ドグオォォーン!”


 メンバーの声に合わせて飛んでくる【黒炎爆】を、鳥居はまるで猟犬に追われるウサギのように逃げ回っていた。


”ドグオォォーン!”

”ドグオォォーン!”

”ドグオォォーン!”


 【黒炎爆】の爆発音が黒煙に包まれた大凶魔學院のコートから観客席へと響いてくる。


「ど、どうなっているんだ?」

「爆発音が聞こえるって事は、大凶魔のキャプテンはダウンせず、試合はまだ続行されているんだよな?」

「かもな、《神の眼》も何も言わないし」

 観客達も、ただ爆発音だけを頼りに試合の様子を想像していた。


「【なぎ払い】! 乱れ撃ち!」

 鳥居も反撃とばかりに、平ぺったい竜巻である【なぎ払い】を【黒炎爆】が飛来してくる方角へいくつも放つが、それでも【黒炎爆】が止むことはなく、夜長はメンバーの指示通り、ピンポイントで鳥居に向かって攻撃してきた。


「くそっ! さっきみたいに馬鹿笑いでもしてくれればまだ位置が推測できるんだが、急に(だんま)りになりやがった!」

 次々と向かってくる【黒炎爆】を、かろうじて避ける鳥居。その撃ち方はまるでデッドエンドライン手前で並ぶメンバーの前から鳥居を逃がさないようであった。


 やがて、鳥居の体も感覚がなくなり、意識も徐々に朦朧(もうろう)としてくる。

(くっ! ……爆発に黒煙……もう、何が何だか……わからなくなってきた)


(と、とりあえず、デッドエンドラインの前で立っている……こいつらの後ろにさえ出なければ、まだ……私は”生きている”!)


(それにしても……あと何分、何秒だ? 黒煙で魔光掲示板が見えねぇ……爆発音で《神の眼》の声が聞こえねぇ。ひょっとして……とっくに前半は終わって、そのままレイドが続行されているのか?)


 そこへ、鳥居の耳に入る副キャプテン美月の声。

「夜長様! あと十秒です! お急ぎを!」 


(そうか……あの副キャプテンが端にいるのは……魔光掲示板で時間を確認する為! あと十秒か! それぐらいなら……耐えられる!)

 鳥居に向けて矢継ぎ早に放たれる、こぶし大の【黒炎爆】!


(九……八……七……)


 鳥居は心の中でカウントダウンしながら【黒炎爆】の爆発、爆風に耐える。

 時折直撃を受けるも、両の眼を閉じ、不屈の闘志で踏ん張り、


(六……五……四……)


 ついにはあらかじめ【影縫い】で己の体を固定し、【黒炎爆】の直撃をもろに体で受け止めた。


「な、なんか、爆発音が多くなってきたな?」

「ああ、前半も残り少ないから、最後のラッシュってヤツか?」

 観客も連続する爆発音や振動から、例えコートは見えなくとも、怒濤(どとう)の攻防が繰り広げられていることは容易に想像できた。


(三……二……)


 しかし、【黒炎爆】の内の一つが地面で爆発し、【影縫い】の針が破壊された!

(しまっ!)

 後ろに滑っていくのを感じる鳥居。すぐさま後ろを確認し、黒煙の中から浮かび上がる大凶魔學院のメンバーの場所を確認する。


(あいつらの手前で止めなければ!)

「【影縫い】! 頼む! 止まってくれ!」

 上空から飛来する一本の針


(一……ゼロ! よし!)


 【影縫い】の針は鳥居の影の端を貫き、鳥居の体を半身にして動きを止めた。


『レイド成功!』


 《神の眼》の声に鳥居は叫ぶ。

「なんだって! 誰も倒していないし、まだラインは超えていないぞ! なにっ!」


 ふいに視界が明るくなり、見開いた鳥居の眼に映し出されたのは、自分の影がコート内で【影縫い】の針が刺さっている景色。

 そして、右脚のかかとがデッドエンドラインを超えている事実だった。


「そんな! ならあいつらは!」

 後ろを振り返ると、大凶魔學院の五人のメンバーが、コート内と同じ姿で、デッドエンドライン外に立っていた。


「じ、自爆……だと。私の目をくらませる為に……わざわざ。ハッ! 時間は!」

 信じられない光景に、すぐさま鳥居は魔光掲示板に目を向ける。


『00:02』


「の、残り……に、二秒?」

 コートに戻る美月が、すれ違いざま鳥居に声をかける。


「まさかこうも簡単に引っかかる、いえ、”敵”である私の言葉を信じて下さるなんて……」

「……」


『そんなんでよく厄魔と戦う、祓い師なんかやっていらっしゃいますわね』


『龍堂学園5点獲得! なおレイダーがデッドエンドラインを超えた為、大凶魔學院1点獲得! 大凶魔學院9 龍堂学園8』


 5点を獲得しても鳥居の体は重かった。

 前半、残り二秒を残してしまったこと。

 次の大凶魔學院のレイダーは、タイムアウト前だから怒濤の攻撃を仕掛けてくること。

 それを護る為、甲斐や他のメンバーもこれまで以上の消耗を強いられること。


 そんな思いをめぐらしながら、体を引きずるように龍堂学園コートに戻る鳥居の耳に、いや、この競技場にいるすべての人間に対して、夜長は高々と宣言した!


『次のレイダーは、キャプテンであるこの夜長が努めさせて頂きます!』

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