タイムアウト
時が止まったように固まる龍堂学園メンバー達。
『龍堂学園キャプテン、甲斐登喜子です! 《神の眼》よ! メンバー負傷のためタイムアウトを申請します!』
《神の眼》に向けての甲斐の叫びによって、自身の時が進み出す龍堂学園メンバー達。
『……申請を認めます。龍堂学園、三分のタイムアウト』
――メンバーが負傷した為の治癒、または作戦会議等行うのに、各チームは前半後半それぞれ二度ずつ、三分間のタイムアウトを申請することができる。もっともその間、相手チームも治癒ができ、水分補給や休むことが出来るため、使いどころには注意が必要である――。
「珠洲! 来い! 救急箱とみんなの水を!」
「うん!」
《厄魔払い》という”実戦”に慣れている鳥居がすぐさま金剛を連れ立って、ベンチに向かって駆ける。
「申し訳ありません夜長様。夜長様のお手を煩わせる事態になってしまいまして……」
副キャプテンの美月がメンバーを代表して夜長に頭を下げるも
「まずは一人……。よかったわね氷耶麻さん。”白い鳥”がこんがり色の焼き鳥になって……」
「は、ははっ!」
美月の謝罪、そして、会場をざわつかせる大凶魔派の憤りなぞ気に止めない様子で、夜長は氷耶麻に向かって笑みを向ける。
その顔と肉体は闇の熱で上気し、点数の大小、いや、マギカ・バディの試合すら眼中になく、ただ己の魔術によって弱者を踏みつぶすことを喜びとする“魔女”の恍惚とした表情であった。
(あぁ……これこそが夜長様の……“真”)
そんな夜長のすべてを間近で眺めている美月の両頬と両胸と下腹部は、深紅の色と熱とで燃え上がっていた。
夜長の妖艶な旋律は続いた。
「せっかくのタイムアウトの時間、我々も有意義に使いましょう。特に火室君、次のレイダーは貴方にお願いするわ。氷耶麻さんを辱めた以上の“制裁”を期待いたします。今のうちに十分、”水分”をとっておいてくださいね」
「かしこまりました、夜長様」
いつの間にか洞が、メンバーの水筒やペットボトルを運んでいた。
救急箱やみんなの水筒を抱えた鳥居と金剛が見たのは、呆然と立つ目黒と稲津、そしてうつぶせに倒れた白鳥の体の上に手の平をかざしている甲斐の姿だった。
「会長どいてくれ。気休めかもしれないが術遣いが使う《薬雫》を持ってきた。《神の眼》の申請は通っているからこれを使う」
そんな鳥居の声も甲斐は白鳥の体に手をかざし、力の抜けた目黒に向かって声をかける。
「目黒君、白鳥君の体を仰向けにして。……早く!」
「お……おう」
甲斐の命令を目黒はゴーレムのように遂行し、仰向けになった白鳥の体に再び手をかざす。
「稲津さん、脳筋。今のうちに飲んでおけ」
甲斐が何かをやろうとしている姿に、手持ちぶさたとなった鳥居は皆に水筒やペットボトルをかざすも
「いらね。白鳥が苦しんでいるのに飲んでられっか……」
「脳筋のくせにふぬけてんじゃねぇ! このまま白鳥がくたばったら誰が仇をとるんだ! てめぇから筋肉抜いたらクラゲにも劣るわ!」
返事に覇気がなくなった目黒に鳥居が怒鳴りつけた。
そんな様子を悠々と眺めている夜長と大凶魔學院のメンバー達。
「フフ……術遣いの“雫”程度で私の闇の術の”疵”が癒されるかしらね? でも、一生懸命あがいている姿はとても素敵よ」
「ここね!」
甲斐はそう叫ぶと、ぼろぼろとなったタキシードとカッターシャツのボタンを外し、黒く染まったみずおち辺りに手を重ねて置く。
『はぁ~【治癒】!』
詠唱によって甲斐の両手が淡く蒼く輝き、その光は白鳥の体へと移っていく。
「なにぃ!」
「甲斐が【治癒】を!」
大凶魔學院のメンバーが口々に叫び、夜長もその光景に目を丸くする。
「……とり……~らとり! ……し~らとり!!」
『し~らとり! し~らとり! し~らとり!! し~らとり!!』
竹ノ内からのつぶやきは、やがて満開の花咲く花壇のように、龍堂学園応援席から歓声という名の芳香を噴き上がらせる。
「し~らとり! し~らとり!」
男子学生AとBも、いつの間に白鳥の名を叫んでいた。
甲斐の【治癒】と自身の名を呼ぶ観客の声に、白鳥のまぶたはゆっくりと開かれる。
「あれ? ……ダウン? いつの……まに?」
「羽斗君!」
「白鳥ぃ!」
肉体と魂に”血”が戻った金剛と目黒が白鳥の名を叫ぶ。
「会長……私は?」
「そのまま動かないで。夜長さんの【黒炎爆】の闇の炎がみずおちを直撃したみたいね。炎自体が小さかったから気絶しただけですんだわ」
「そう……ですか」
そして白鳥はゆっくりと腕を上げ、龍堂学園の観客席に向かって人差し指を立てる。
『おおぉぉ~~!』
復活した白鳥を見た龍堂学園応援席は、大凶魔サイドに見せつけるように雄叫びを上げた。
「……ふぅ。これでいいわ。“初めて”【治癒】を唱えたけど、うまくいってよかった」
【治癒】が終わった甲斐に、稲津が水筒を渡しながら声をかける。
「キャプテン。【治癒】が使えたのですね」
「ええ、高校に入ってから”資格”を取ったわ。うちの学校、治癒者はいないから、たしなみ程度にね」
「なるほど、どおりで大凶魔の皆が目を丸くしているわけですね」
わずかに微笑む稲津の言葉を聞いて、他のメンバーも大凶魔のコートへと目を向けると、確かにその目からは驚きと多少の動揺が見て取れた。
「へっへっ! ひょっとしてやっこさん達、【治癒】を使える奴がいねぇんじゃねえの?」
「中学時代は誰も資格を持っていなかったわね。高校生になってからはどうか知らないけど……」
甲斐の答えを聞いた目黒は持ってきたラムネを口に押し込み、ペットボトルのスポーツドリンクを飲み干すと、自分も復活したとばかりに、手の平に拳を叩きつける。
「【治癒】が出来ないってってことは! ぶっ倒せばぶっ倒すほど! 俺たちの勝利が近づく訳だな!」
「武雄! だからといって無茶するんじゃないわよ。キャプテンの魔力は限りがあるのよ!」
「わーってるよ真理! だけどよ、あいつらがうろたえている今こそ、叩きつぶすチャンスだぜ!」
白鳥のダウンによって意気消沈した龍堂学園メンバーは、白鳥の復活、そして目黒の勝負における嗅覚に、再び闘志を取り戻した。
『タイムアウト終了。大凶魔學院のレイダーはカウントテン以内にアタックサークルへ』
火室がゆっくり、堂々とした足取りでアタックサークルへと向かう。
(なぁに、【治癒】が使えると言っても甲斐の魔力は有限だ。むしろ俺の魔術によって防壁を展開させ、より消耗させてやる! ……そして、あのタキシード野郎!)
そう心の中で呟きながらアタックサークルに入った火室が見た光景は
「……な! なんだぁ、あのシフトは!」
火室の目の前に展開された龍堂学園のアンティシフト。
それはアタックサークルを取り囲む通常の形ではなく、火室の正面のデッドエンドラインのすぐ前で、
先頭は甲斐。
二列目は白鳥と目黒。
三列目は稲津、金剛、鳥居。
と、まるでボーリングのピンのように配置されたシフトだった。




