黒炎爆
「き、貴様ぁ~! 今すぐ氷耶麻から離れろ~!」
幼なじみである氷耶麻が白鳥にもてあそばれているのを見て激昂した火室は、術を放とうと両の手の平を白鳥に向けた瞬間! 再び白鳥の体を魔蝙蝠の幻影が包み込み、すぐさま火室の背後から白鳥の声が放たれる。
「お心を乱してしまって申し訳ありません氷室様。この白鳥、正に無間の地獄に堕ちるべき振る舞い。ですが、最後の望みがかなうことを許されるのならば、あなた様の《チェリーブラッド》を我が胸に秘め、永遠の苦役を甘んじて受け入れましょう」
そして白鳥は背後から火室へと抱きつくと、魔術ローブの上から左手を火室の心臓へ、そして右手を股間へと”タッチ”する。
「あひゃ!」
と火室は意もしない声を漏らすが、観客席の一部女生徒や女性からは
『きゃあぁ~~~!』
と、歓喜の叫びがわき起こり、氷耶麻さえも目を見開き頬を染め、食い入るように二人を見つめていた。
(し、白鳥君……あなた……なにを?)
【マギディ】を唱えながら、甲斐の心は揺れ動く。
もはやマギカ・バディではなく、大凶魔學院のコートをマジックショー、そして茶番劇の舞台へと変貌させた白鳥の所行に、甲斐の頭の中は目の前の光景を現実だと受け入れられなかった。
しかし、他のメンバーに目をやると、笑みと、大笑いと、食い入る目つきと、ほくそ笑む四つの顔が目に入り、まるで自分だけが取り残された錯覚すら覚える。
(なんで……何でみんな笑うことができるの……はっ!)
かつて自分に向けて放った庵堂龍造の言葉が、甲斐の体を脳天から貫いた。
『甲斐ちゃんよ、楽しくなかったがや?』
『……楽しかったです!』
『そうか! それでいいんじゃ! ぐわっはっはっは!』
(マギカ・バディを……楽しく)
その瞬間! 甲斐は自身の魂と横にいるメンバー、そして目の前で”はっちゃけている”白鳥の魂とが、何かでつながった感触を確かに感じていた。
「入り口を潰せばすむこと! 【風の刃】!」
アタックサークル上で幻影の魔蝙蝠を吐き出している魔女帽子に向けて、美月は四つの【風の刃】を放つ!
「おっとっと! これは金剛さんからお預かりした物。傷をつけてしまっては合わせる顔がございません」
白鳥は左手の平を上に向け軽く中指を曲げると、魔女帽子はまるで吸い寄せられるように白鳥の左手へと飛んでいった。
「なっ! まさか、サイコキネシス!?」
「なに、マジックにおける古典的なタネでございます」
美月の驚く顔に向かって、白鳥はゴム紐がついた魔女帽子を風車のように振り回していた。
そんな中、夜長は洞へ目で合図を送ると、アタックサークルの中心に立つ。
『はぁぁぁ!』
そして体中に漆黒の魔力をたぎらせると、左腕を上へ伸ばし手の平を天井へと向ける。
(あれはっ! 白鳥君! 早くラインの外へ!)
『【黒炎爆】!』
甲斐の心の叫びと同時に、夜長の体に纏った漆黒の魔力は左手の平に集まり、直径二メートル以上の黒炎の玉が形成されると天井へ向けて放たれる。
『はっ!』
夜長が広げた手の平を握りしめた瞬間!
”ドォグゥオオォォーーン!”
大凶魔學院のコート上は、すべてを吹き飛ばす黒炎の大爆発で満たされた。
「ノオォォ~! なんの! これしき!」
爆風のさなか、倒れないようマントをつかんで広げつま先でケンケンしながら、何とかサイドライン上へ近づくと
「とうっ!」
最後の力をつま先に集め蹴り上げると、白鳥の体はなんとかラインを超え、地面に転がりながら勢いを殺し、片膝をついて止まった。
『龍堂学園、レイド成功! 大凶魔學院2 龍堂学園3』
『いやったぁーー!』
龍堂学園応援席から精一杯の歓声が上がり、
”偉大なる大凶魔が……逆転!?”
”全国大会ならまだしも、地区予選の二回戦、しかも相手は新設校の一年生だぞ”
”何という体たらくだ!”
逆に大凶魔学園、そして一般観客席からは動揺とざわめきがわき起こる。
「ふぅ~。私と魔蝙蝠、そして幻影を吹き飛ばすために、まさか味方もろとも【黒炎爆】で吹き飛ばすとは……いや、これこそ目的のためには手段を選ばない、大凶魔のやり方なのでしょうね」
背中に隠した魔女帽子を取り出しホコリを払うと、改めて大凶魔學院のコートに目を向ける。
「……さすがにあの爆炎では他のメンバーも無事では済まない。……これはもうけものですね。……金剛さんの魔女帽子もなにごともな……なぁっ!」
黒煙が晴れた大凶魔学園コート上で白鳥が見たものは、洞が各メンバーの前に魔岩石で形成された【魔岩盾】を、爆心地である夜長に向けて展開した景色だった。
その【魔岩盾】ですら、【黒炎爆】の直撃を喰らったわけでもないのに、砂上の楼閣が崩壊するようにゆっくりと砂になって崩れ落ちていった。
魔女帽子を手に持ちながら、黒のタキシードもマントもぼろぼろの状態で龍堂学園のコートに戻る白鳥。
笑顔で出迎えるメンバー。
金剛が白鳥のシルクハットを差し出しながら
「羽斗君、もう忘れちゃだめだよ」
その声に応えるように白鳥は軽く微笑み、魔女帽子とシルクハットを交換しようと手を伸ばすが、その勢いのまま、白鳥の体はゆっくりと音も立てずコート上へと横たわった。
「羽斗君!」
「白鳥ぃ~!」
金剛と目黒の叫びが龍堂学園コート上を切り裂いた。




