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マギカ・バディ ―魔術とカバディが融合した、究極のノベルスポーツー   作者: 宇枝一夫
第一部 第三章 VS 大凶魔學院 前半戦
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生着替え

「ってて……小さい体のくせになんだあの蹴りは? 丸太が飛んできたのかと思ったぜ」

珠美(たまみ)ちゃん。大丈夫?」

 両腕をさすっている鳥居に金剛が心配そうな顔で声をかける。

「ああ、大丈夫だよ珠洲(すず)厄魔(やくま)に比べたら……いや、むしろ厄魔よりやっかいかもな……」


「けっ! お嬢様のくせにえげつないぜ! 一本背負いしながら俺の金的(きんてき)を潰そうとしやがった。だが、ようやく何でもアリのマギカ・バディらしくなってきやがったぜ!」

 手のひらに拳を叩きつけながら、目黒は妖しく笑みを浮かべる。


 そして、そんな化け物共と三年間一緒にマギカ・バディで戦ってきた甲斐をただ者ではない、同じ化け物だと、龍堂学園のメンバーは改めて認識する。   

 そしてそんな化け物ぶりを微塵も顔に浮かべず、甲斐の薄い桃色の唇は開かれた。

「これが大凶魔學院の力の……ほんの片鱗、ごく一部です。その気になれば一人で私たちを全滅させることも可能なのです。ですから……」


「……そうですか。それでは会長、我々も”本気”を出す頃合いですね」

 白鳥の妖しくゆがんだ唇から放たれた、冗談とも本気ともつかない口調に、一瞬、甲斐は白鳥へ向けてカミソリのような視線を向けるも、すぐさま冷静になる。

「……皆さんの力はよくわかりました。さすが……龍造先生がお認めになったことはあります。でも……」


『でも、これでは大凶魔學院に勝てない……』


 金剛の聞こえるか聞こえないかの淡いつぶやきは、バリスタとなって甲斐の心に突き刺さった。

 しかし、甲斐の口からはそれ以上の言葉はなかった。

 競技者として負けを確信すること、しかも競技中にそれを考えることは甲斐にとってはタブーどころか、絶対的勝利を約束された大凶魔學院中等部三年間の中では思いもよらないことであった。


「それではキャプテン、次のレイダーは?」

 想いを切り替えるように放たれた稲津の言葉に、我に返る甲斐。

「次のレイダーは白鳥君にお願いします。先ほどおっしゃったように“本気”を出してください!」

『御意!』

 “いくら何でもこれで思い知るだろう”と、わずかに”血”を込めた甲斐の言葉を、白鳥は胸に手を当て恭しく礼を捧げながら受け止めた。


『龍堂学園のレイダーは相手コートのアタックサークルへ。十……』 


「……君! ……君!」

(会長が思い詰めるのも致し方ありませんか。セオリーも連携も何もない寄せ集めのチームを率いて、かつてのチームメイト、しかも元全国中学覇者相手に戦いますからね)

 思いを巡らせながら、ゆっくりと大凶魔學院コート上のアタックサークルに向かう白鳥。


羽斗(はと)君! ……! 羽斗君! ……」

「ですが、悩める美しき淑女を安心させ、笑顔を取り戻させるのも……」

 これまで斜めに構えたりキザな笑みを浮かべていた白鳥からは想像もつかない、“この試合の中で初めて”自身の顔に満面の笑みを浮かべながら、頭にかぶった帽子を手に取る。


『”魔術師(マジシャン)たる私の努め! そう! この”魔女帽子”のように!』 

「羽斗君! 帽子! ”シルクハット”!」

「え?」

 つぶやきとともにその体がアタックサークルに入った瞬間! 金剛の声にようやく自身のシルクハットと金剛の魔女帽子とが入れ替えたままに気づいた白鳥。


『レイダーイン! レイダーはカウントテン以内に攻撃を。十……』   

『ノオォ~~~~!』 

 白鳥の絶叫にかまわず、大凶魔學院のコートを【絶対魔防壁】が包み込む。

”きゃ!”

 大凶魔學院のコートに身を乗り出していた金剛が【絶対魔防壁】によってはね飛ばされて尻餅をついた。


 先ほどまでの満面の笑みはどこへやら、白鳥は魔女帽子を手にしたまま

”ドーーーン!”

と落ち込む顔と、漆黒の瘴気(しょうき)まとった体を大凶魔學院のメンバーにさらけ出す。


 美月が(なんだこいつは……この世の終わりみたいな顔をしやがって?)


 倉が闘志をたぎらせながら

(あれだけ我らを翻弄(ほんろう)しておきながら、いざレイダーとなったらこのていたらくか!)


 火室が鼻で笑いながら

(じゃんけんにでも負けたのか? さすがに我ら相手に一対六では怖じ気づいたのだろう?)


 氷耶麻も魂を燃やしながら

(今まで調子に乗りやがって! その名の通り私の炎の術で焼鳥にしてやる!)


 洞が冷たく

(台貴知戦では一人で九十九点取ったらしいが、所詮(しょせん)弱者相手にのさばる内弁慶(うちべんけい)。”鳥なき里の蝙蝠(こうもり)”か……)


「あ~わがいとしのしるくはっとを、こんごうさんのまじょぼうしとこうかんしたままでしたねそうでしたね。……さくしさくにおぼれるを、まさかわたしがたいげんしてしまうとはなんたるふかく。……なんかもうど~でもいいかんじです。このわたしをにるなりやくなりといいたいところですが、せっかくおあつまりになられたみなみなさまをまえにしてなにもしなければ、まじしゃんとしてのなおれ。しばしわたくしめのつまらないまじっくを、どうぞごたんのうなさってくださいませ……」


 口からも漆黒の瘴気を言葉とともに紡ぎ出しながら、いきなり白鳥はタキシードを脱ぎ始め、アタックサークル内で生着替えを行う。

 あっけにとられる大凶魔學院のメンバー達。

 しかし、夜長だけは一瞬の隙を逃さないと、白鳥の一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくを注視していた。


 脱いだタキシードを裏返すと、深淵のような漆黒のタキシードが現れ、脱いだズボンも裏返すと同じように漆黒のズボンへと変化し、白鳥はゆっくりと、めんどくさそうな仕草で脚を通す。


 レイダーだった稲津の時と同じように、夜長は龍堂学園のメンバーの様子を観察する。

 甲斐は再びあっけにとられ、あごと肩を落とし、

 稲津は完全に背中を向け、

 鳥居はわずかにほほを染めながら斜め上に視線をそらし、

 金剛は手にしたシルクハットで顔を隠していた。

 そして目黒は相変わらず、にやけ顔を大凶魔學院のメンバーに向けていた。


(確かにあいつの炎の鳥はあのシルクハットから飛び出していた。ということは、さっきの女子メンバーのかけ声から推測するに、これは本当に不測の事態なのか?)

 夜長は再び、着替え終わる白鳥に目を向ける。

(ならわざわざ着替えなくとも先ほどのカミナリ女みたいに、すぐさまダウンすればすむこと。それに脳筋のあの様子、また何か企んでいるのか? ……まぁいい、こいつはそれなりのマギカだからな。甲斐より先に潰しておくのも得策だ)


”トントン!”

”パチン!”


 夜長は右膝を曲げつま先で地面を二回叩き、左指を鳴らした。

 それの意味するところは大凶魔學院のメンバー。そして甲斐にしか知らない”サイン”だった。

 すぐさま体中に闘志を巡らせる大凶魔學院のメンバー、そして顔色を変える甲斐。

(あれは全力攻撃のサイン! しまった! 大凶魔のサインをみんなに教えるのを!)

”いくらなんでも裏切り者の自分がいるからサインを変えるだろう”とタカをくくっていた甲斐のミスだった。


 白鳥に教えようにも【マギディ】以外の言葉を発することができないため、沈黙するしかない甲斐。

”ならば!”と甲斐は左手の平を白鳥に向けて掲げると


『【マギディ】! 【マギディ】! 【マギディ】! 【マギディ】!』


と、白鳥に向かって【マギディ】の詠唱を始めた。

 甲斐から発せられたいきなりの【マギディ】の詠唱に、ただ事ではないと察した他のメンバーも、すぐさま白鳥に向かって【マギディ】を唱え始める。


(気づかれたか! まぁいい、そっちからわざわざ消耗してくれるんだ。【マギディ】なんぞ無駄と言うことを思い知らせてやる!)

 夜長自身も体中に闇の魔力を巡らせていた。


 そして、白鳥は味方からの【マギディ】と、何かを訴えかけるような目を向ける甲斐に気づく。

(おや? 私に【マギディ】とは聞いていませんが? ですが会長のあの様子……なるほど、大凶魔が何か仕掛けてくるんですね。やれやれ、うるわしの淑女にあんな顔をさせてしまうとはこの白鳥、甲斐性なしにもほどがありますね)

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