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マギカ・バディ ―魔術とカバディが融合した、究極のノベルスポーツー   作者: 宇枝一夫
第一部 第三章 VS 大凶魔學院 前半戦
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風の刃

「……す、すげぇな。雷撃を使う術遣いなんて、生で見たの初めてだぜ」

「ああ、あれを見れば姉貴の八つ当たりなんてかわいいもんだな……」

 いつの間にかトラウマを克服した男子学生Bが、Aのつぶやきに相づちを打つ。


「ん? どうした? あのスーツ姿のレイダーをじっと見て? タイプなのか?」

 稲津を凝視している男子学生Aに向かって、今度はBが尋ねる。

「あ、ああ。それも、ちょっとはあるけど……大凶魔學院のユニフォームはおそらく最上級の《魔繊維(ませんい)》だからいいとして、あののスーツ……その……なんだ、あれだけ雷撃を放ったのにさ……全然破れていないというか、ほら! 漫画とかだと破れて下着が見えちゃうとかあるじゃん!」


 ”公衆の面前で何ほざいてるんだこいつ”のまなざしでAを睨みつけるB。 

「おめぇなんにもしらねぇんだな。何年か前によ、精密機械を作る工場用に、確か地元の会社だと思ったけど、《絶縁繊維(ぜつえんせんい)》ってのを発明して話題になったんだぜ。会社もそれで大きくなったとか。姉貴のスーツもそれで作られているから、静電気からくるイライラが減ったのがありがたかったな」


「一高校生がお姉“様”のスーツの”情事”まで知るわけないだろ!」

 思わずBを苦笑しながら怒鳴りつけるAだったが、つい性癖が飛び出してしまい、周りの、特に女性から針のような軽蔑のまなざしを浴びせられたのはいうまでもなかった。


 龍堂学園メンバーは持ち前のシフトにつこうとするが、目黒は白鳥に近づいていった。

「……白鳥」

「おや? なんでしょう?」

 目黒は白鳥の耳元でささやく。

「……真理を頼む。【マギディ】もなしにあれだけ【カミナリ】を放ったからな。しばらくは立っているのもやっとだと思う」


(おやおや、周りが見えていない猪突猛進野郎とばかり思っていましたが、なかなかどうして。もっとも、周りが見えていなければストライカーなんてできないでしょうね)


 お気楽極楽野郎の真剣な声に、白鳥は稲津の憔悴さがただ事ではないことを認識した。

「かしこまりました。しばし稲津さんをお預かりいたします」

「ああ、頼むぜ」

 笑顔を交えた二人は拳も合わせていた。


 サイドラインの真ん中辺りに立った白鳥は稲津へ声をかける

「稲津さん、もう少しデッドエンドライン側へどうぞ。サイドラインはこの白鳥めが」

「……武雄と、何を話していたの?」

 稲津は氷のような視線を白鳥に向けていた。

「男同士の友情ってヤツですから、例え幼なじみの貴女でもお話しできませんね」

 白鳥は魔女帽子のつばで顔を半分隠し、口元を緩め、いやらしくにやけていた。

「……そう。それじゃお言葉に甘えて」

 素っ気ない返事の稲津であったが、一瞬、目黒を視界の端に納めた後、顔からはわずかな微笑みがこぼれていた。

 

「夜長様、次はわたくしが」

 ゴシックメイド姿の副キャプテン、美月が夜長に進言する。

「……」

 夜長は美月の体を観察するように、鋭い視線を体中に突き刺していた。

「ご安心を。あの程度の術をいつまでも引きずるほど、この美月、やわな魔体と鍛錬はいたしておりません」

「では行きなさい美月。貴女の術で甲斐の体を、いえ、甲斐の血で貴女の肌をくれないに染めあげなさい」

「かしこまりました。夜長様」


『大凶魔學院のレイダーは相手コートのアタックサークルへ。十……』


 ミッドライン前に立つ甲斐の横を、美月が風のように通り過ぎる。

 互いにわずか視線を合わせただけだが、観客を沸かせるのはその一瞬で事足りていた。

『うおぉぉぉ~!』

 副キャプテンの登場に観客席は沸き上がる。

 それは、新旧副キャプテン同士の死闘を待ち望む、血なまぐさい殺戮欲の表れでもあった。

「へっへっ! 副キャプテン様のご登場か」

「脳筋! わかっているだろうがシフトを崩すなよ!」

 手のひらに拳をたたき込みながら入れ込んでいる目黒に鳥居が釘を刺した。


 アタックサークルに入った美月は甲斐に背中を向けると、ゴシックのスカートを両指でつまみ上げ、軽く膝を落とし龍堂学園メンバーに向かって自己紹介をする。

「”はじめまして”龍堂学園の皆様。大凶魔學院一年生チーム副キャプテン、美月と申します」

 それは明らかに甲斐を無視した振る舞いであった。


「ご安心ください。我が大凶魔學院は“一名を除き”皆様方へ含むところは何もございません。”ほんのわずか”な時間ではございますが、”正々堂々”、レイダーを努めさせて頂きます」

「チッ! お嬢様特有のイヤミかね?」

 表向き丁寧な言葉遣いではあったが、その裏に潜む皮肉や腹黒さに、目黒はわずかにいらだち始める。


『四……三……二』


 美月がアタックサークルに入った時点で《神の眼》のカウントダウンは始まっているが、美月のつぼみのような口からは術の詠唱が奏でられなかった。


『……一……』


 その瞬間! 美月の両腕両脚、指先からひじ、つま先からひざのあたりまで、無数の風の繊維が包み込み、やがてそれは光のやいばへと変化(へんげ)していった。

『我が【【風のやいば】で、貴方の体を深紅にいろどって差し上げましょう!』

 腕を掲げ脚を振り上げ、指先を振りつま先を下ろし、首をそらし体を回転させ、美月は体の重心を微塵も動かさず、四肢にまとった【風の刃】を振り払うがごとく四肢を舞う。


 四つの【風の刃】は左のサイドラインの白鳥、稲津、右のサイドラインの目黒、鳥居にへと飛ばされていった。

 その軌跡は一直線ではなく、ある【風の刃】はまるで猛禽が獲物を狩るがごとく天に舞い上がってから落とし、別のは左右から回り込むように飛び、さらに地面ぎりぎりを貫いてから刃先を獲物へと向ける。


 それでも甲斐の口からは、メンバーに向けて防壁の詠唱は放たれなかった。

「会長~!」

 目黒が耐えきれず大声を放つ。

 まるで、”大凶魔のみならず自分たちも裏切るのか!?”のごとく……。


 しかし、美月から放たれた【風の刃】は、獲物である四人の目の前で三つに分裂する!

 さらにそれらは竜堂學院メンバーの体の上と左右、上下左、左右下、上下右へと襲いかかる。

『【対魔防壁】!』 

 両腕両手両の指を踊らせる甲斐の体から、仲間を守る十二の【対魔防壁】が一斉に放たれる。

 それは合計十二の【風の刃】の動きを完璧に読んだ、ほんのわずかな未来の空間に展開された。


”バキン!””バッキン!””バキーン!””バキ!””バシ!”


 【風の刃】と【対魔防壁】がぶつかる光と音が、龍堂学園コート上に奏でられる。

 それでもなお、美月の四肢からは絶え間なく【風の刃】が放たれ四人を襲う。

 宙返りや脚を振り上げたときにせる美月の漆黒の下着やガーターベルトを着けた下肢に、男性観客は性的に、そして女性観客からは美的なため息と興奮の吐息が漏らされる。

 その姿はまるで、オルゴールの音に合わせて踊る、オートマタ(機械人形)のように。 

 

 しかしそんなため息とは裏腹に、龍堂学園コート上では一歩間違えば四肢が切断される殺戮ショーが繰り広げられていた。

 尽きることなく放たれる【風の刃】。

 【風の刃】の曲線の軌跡と分裂の動きを読み、正確に展開される【対魔防壁】。


「す、すげぇ……」

「本当にこいつら一年生かよ……」

 男子学生AとBも、美月が魅せる下着や太ももよりも刃と盾、両者のぶつかり合いの方に目と魂が向いていた。 


 さらに美月は、より甲斐を消耗させる為、時折、正面の金剛や背中の甲斐に向かっても【風の刃】を放ち、なおかつ金剛に向けて放つ時は自身の体で甲斐の視界をふさいでいた。

 その為、甲斐は視界を確保する為、体をも動かしながら【対魔防壁】を唱えなければならず、魔力のみならず体力までも消耗していった。


「くそっ! このままじっとしているだけなのかよ!」

 幾度となく眼前で【風の刃】と【対魔防壁】がぶつかり合い崩壊していく様を、顔の前で腕を交差させて眺めている目黒が、いらつきを隠しきれず吐き出した。

「落ち着け脳筋! 必ず隙ができる! それまで耐えていろ!」

 鳥居が何とか目黒の手綱を取ろうとするが、やはり稲津のようにはいかなかった。 

「うるせぇ! 隙ってのはなぁ! こっちから作るってもんだぁ!」

 鳥居の制止も聞かず、目黒は【風の刃】が消滅した一瞬の時を狙って、己の体を美月へと跳ばした。

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