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マギカ・バディ ―魔術とカバディが融合した、究極のノベルスポーツー   作者: 宇枝一夫
第一部 第三章 VS 大凶魔學院 前半戦
32/115

蟷螂(とうろう)の斧

『ぐ#~!』『$あ~!』『ぎ%~!』

『&う~!』『@お~!』『?が~!』


 一瞬で【カミナリ】が大凶魔學院メンバーの魔体を拘束し、全身を包み込む光の糸によって彼らは叫び声すら上げることができなかった。

 天から一瞬落ちるいかづちとは違い、一秒、二秒経過しても光の絹糸の輝きは止まらない。


『……ぁぁぁぁはあああ!』


 黒髪を逆立てながら険しい顔で、稲津は声と【カミナリ】を体中から絞り出す。

 稲津と大凶魔學院のメンバーから放たれる【カミナリ】の花びらの輝きは、観客席に渦巻いていた爆笑の嵐を吹き飛ばし、時が止まったかのように静寂の光で包み込んでいた。


(……くぅ! か、甲斐ぃぃぃ!)

 夜長が歯を食いしばり、裏切り者である甲斐への憎しみによって意識を飛ばされないよう堪え忍び

『……ぉぉ……おおおお』

 倉はそれにあらがうかのように、声を絞り出し、稲津に向かって咆吼を放った。


 ”フッ!”っと音を発したように【カミナリ】の術が消え、競技場内は照明の輝きで照らされる。

 大凶魔學院のコート上には、憔悴(しょうすい)した稲津と、焦げ臭い煙の糸をただよわせている大凶魔學院のメンバーが微動だにせず、銅像のように固まっていた。


(ハァ……さ、さすが……カウント(いち)で……ハァ……気がつくなんて……ハァハァ……それがなければ……ハァ……し、仕留(しと)められたのにぃ……) 

 直前で魔体と魂を踏ん張らせ、【カミナリ】に備えさせた夜長の英断に、稲津は心の中で唇をかみしめていた。


『ぉ……ぉぉおお!』

 夜長を始め他のメンバーが【カミナリ】で全身が麻痺し、術の詠唱ができないと見るや、倉は己の魔体を鼓舞する咆吼を掲げ、強化系の術を己の魔体に唱えず、生身の肉体のみで一人、稲津に向かって突進する。


 倉の咆吼を聞き、体を向けた稲津はゆっくりと腰を落としていった。

(【カミナリ】とやらを浴びせるなら浴びせてみろ! このままの勢いでタックルしながらアバラをへし折ってやる!)

 しかし稲津は、まるで地面に落ちたボールペンを拾うかのように、さらには、目の前の男性に己のスカートの中を覗かせるかのように、片膝を地面についた。


『レイダーダウン!』


 《神の眼》の審判が競技場内に下される。

「なにぃっ!」


『龍堂学園レイド失敗!』


 レイダー、アンティに限らず、ダウンした者への攻撃、タックル、突き飛ばしは反則になる為、倉は慌てて稲津の頭の上を水泳の飛び込みのようにジャンプし、競技場の床を一回転する。

 そして、立ち上がった稲津の背中へ向けて吠える。

「き……貴様ぁ~! 恥を知れぇ!」

 

 ――各スポーツにはルール上反則ではないが、競技者として好ましくないタブーなプレイが存在する。


 たとえば、野球においては大量リードしているチームの選手が盗塁をしたり、サッカーにおいてはリードしているチームが試合終了間際、時間稼ぎの為、チームメンバー内で過度のパス回しをする行為等……。


 当然、競技、スポーツであるマギカ・バディにもタブーと呼ばれるプレーは存在し、稲津が行ったような、レイダーが攻撃後、アンティからの反撃を受ける前に自らダウンする行為がそれである。

 これは競技者同士のスラングで《当て逃げ》、《ヤリ逃げ》とも言われる。


 しかし、マギカ・バディは他のスポーツと違い、競技場上空に浮かぶ無色透明の巨大な球体、《神の眼》が絶対的な審判である。

 競技者同士で決められたルールは《神の眼》からみれば存在しないルールであり、《神の眼》が『反則』と宣告しなければ、それは正当な行為、プレイと見なされるのである。


 ……もっとも、いくら反則ではないからとタブーなプレイを行えば、相手チームからの《報復》は、マギカ・バディでも起こりうることである――。

 

 倉の咆吼に、稲津は眼鏡を持ち上げながら返事をする。

「《神の眼》は『反則』と宣告してはおりません。この試合は私たち虫ケラがゾウにいどむようなモノ。例え蟷螂(とうろう)おのであろうと使える戦術は使わせていただきます」

「なにぃ!」


 そして稲津は大凶魔學院メンバーを見渡しながら、含みのある言葉を投げかける。

「それに……私のような”素人の術”をああも易々と喰らうなんて、いかにディフェンダーである甲斐さんに甘えていたのか、”素人の私”でも分析できますね」

 吐き捨てるようにそう言うと、稲津は全速力で自コートに向かって走っていった。


「やったぜ真理!」

「すばらしい! 見事な《ヤリ逃げ》、さらに《捨て台詞(ゼリフ)》ですね!」

「はぁ~ドキドキモノよ~。《神の眼》から警告が来るかと思ってたわ~」

 目黒と白鳥が稲津を笑顔で出迎え、互いにハイタッチする龍堂学園メンバー。


 そんな中、甲斐は一人、背中に感じる大凶魔学園からの”圧”を感じていた。

「みんな! 奇策、お遊びはここまでよ。これから大凶魔の”本気”が来るわ!」

 甲斐の深刻な顔。

 そして大凶魔學院コートから暴風のように襲ってくる”圧”にもかかわらず

「へっへっ! んじゃ! 俺もそろそろ本気を出そうかね!」

 目黒はお気楽極楽な言葉を発しながら、己の手のひらに拳をたたきつけた。


 よく言えば怖いモノ知らず。悪く言えば”脳みそ筋肉”、”無鉄砲”、”猪突猛進(ちょとつもうしん)”、”頭空っぽ”、そして”誰がなんと言おうと百パーセント馬鹿”等、後者の方が圧倒的に当てはまる目黒であったが、こんな何も考えていない台詞(セリフ)がなぜか皆を安心させ、今は絶体絶命な状況でないことを認識させていた。


 逆に考えれば、目黒が泣き言を言うようなら、それはこの世の終わりを意味することである。

 そして、メンバーの誰もがそんな思考のベクトルに向かないよう、あえて無理矢理、頭の中で思考の軌道を修正していた。


”パシッ!”

 夜長が両手を頬に叩きつける。

「夜長様!」

 動揺するメンバーに夜長は厳しい眼を向ける。


「これまでの不覚は確たる方針を決めなかった私の責! 改めてめいを下します!」

 夜長は軽く息を吸うと、カミソリのような鋭い覇気を放つ。


『雑魚にはかまわず、甲斐を潰しなさい!』


『『『『『御意!』』』』』


(……くっ! レイダーの時にあの秘書コスプレに何らかのダメージを与えていれば……だがもう迷いはせぬ! 龍堂学園のメンバーは全員俺が潰す!)

 倉は歯を食いしばり、その悔しさを闘気へと変換していた。

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