おっかない部
――部活動体験三日目、オカルト&占い研究部
龍一は辺りを注意しながら部室棟まで行くと、《オカルト&占い研究部》の部室の前に何の障害もなく到達した。
昨日、一昨日のことを思い出しながら軽く深呼吸し、
『新入生勧誘期間中は活動を停止しています』
と張り紙してあるドアをノックした。
『はぁ~い。どうぞ~』
一般女生徒の返事が返ってきた為、龍一は安心してゆっくりとドアを開けた。
部室の中は生徒会室とは違い、三人掛けのオフィス机が”コ”の字型に配置されており、壁には魔方陣や生命の樹のポスター。本棚にはオカルト雑誌、《レムネア》やコンビニで売っている心霊体験の雑誌等が鎮座していた。
ショーケースらしき棚には水晶玉や風水盤、藁人形、御札、しめ縄や数珠、外国の民芸品店で売っているような極彩色の仮面や人形が所狭しと置かれていた。
そんなある種、異様な光景に生徒会室とはまた別の緊張が龍一の身と心を満たしていった。
その部屋の一番奥の机の真ん中には巫女装束の女生徒が座っており、机に両肘をつきながら、組んだ両の手の甲にあごを乗せ、ノックの返事とは別の声色で龍一へと話しかけた。
「クックック……。ようこそ、我がオカルト&占い研究部、通称、《おっかない部》へ……って、まさか自分からドアをノックして我等の巣穴へ飛び込んでくるとはな。さすが庵堂龍造の後継者というべきか……クックック」
その横には制服の上から紫のローブを羽織り、つばの広い中折れ帽子をかぶった魔法使いのコスプレをしている女生徒が眠そうな顔で立っていた。
(あれ? あの人って部活占いの……てか、ここでもひい爺の、《後継者》か……)
巫女装束の後ろにいる女生徒が、勧誘場所で占いをしていた女生徒だと龍一は理解し、巫女装束の女生徒にむかって、龍一は若干うんざりした様子で口を開いた。
「いえ、そんなの関係ありません。ただ……一日目はドアを開けたら先輩男子が裸で抱き合ってたり、魔炎というので新品の学生服を燃やされたり、等価変換の実演とかいって、再び先輩男子の全裸を見せられました」
軽く息継ぎをしてから、龍一はまだ足りないとばかりに抑揚のない声で、龍一は息継ぎもせず一気にまくし立てた。
「……二日目は授業が終わると生徒会の人に拉致られて、校舎校庭引き回しの刑にされました。その後、ひい爺ちゃんの後継者でないとわかると、なぜか残念な眼で見られました。挙げ句の果てに……、目の前にいる、おっかない部と呼ばれる方達のとばっちりのせいで、今度は電気椅子の刑になりましたけど……」
「君はたった二日で、そんな非道い目にあってきたのか!」
「最後に至っては、あなたたちのせいですよ。なんで僕はこんな目にあわなければいけないんでしょうか?」
龍一は苦笑混じりの声で溜まっていた鬱憤を吐き出した。
「最後に関しては私たちの部と生徒会との、いわばじゃれ合いみたいなモノだ。すまなかったな。とりあえずそこに座ってくれ。来てくれたことに改めて歓迎する」
巫女装束の女生徒は、龍一の目の前の机に準備された、折りたたみ椅子を勧めた。
「こちらだけ君の名や素性を知っているのも礼に反するからな。とりあえず自己紹介だ。私はオカルト&占い研究部、部長の鳥居 鹿島珠美だ」
「……鳥居鹿島……先輩?」
初めて聞く名字に龍一は小首をかしげる。
「ああ、名字が鳥居で名が鹿島珠美だ。鳥居と呼んでくれればいい。鳥居の種類に鹿島鳥居ってのがあってだな、そこから名付けられたんだ。鳥居の種類はほかにも《神明鳥居》とか《明神鳥居》とか。海の上からそびえ立つ鳥居で有名な厳島神社のは《両部鳥居》だな。魔術もいいが、日本人としてこういうことを知っておくのも損はない」
「そのお姿に鳥居ってことは、鳥居先輩のおうちは神社とか……?」
「……うちはお社を構えるような家ではない。お社から依頼があって、そうだな……漫画によくあるお祓いみたいなことを生業としているんだ。昔でいう狐憑とかな」
鳥居は鼻から少し息を吐き、紅袴をつまむとヒラヒラと揺らした。
「……ねぇ珠美ちゃん。あたし、もう座ってもい~い?」
魔女のコスプレの女生徒が、か細い声で鳥居に尋ねた。
鳥居がうなずくと、女生徒は冷蔵庫から二リットルのペットに入ったお茶を三つの紙コップに注ぎ、うち二つを龍一と鳥居の机の上に置いた。
「あ、ありがとうございます」
コスプレ女生徒は無言でペットボトルを冷蔵庫に入れると、個包装のせんべいを載せた小皿を龍一と鳥居の紙コップの隣に置いた。
「ちなみに……マジュツ部と生徒会は何を君に出したんだ?」
鳥居は、龍一の前に置かれた紙コップとせんべいを見ながら尋ねた
「何って……? お茶とかのことですか? そういえば特に何も……」
「全く……。あいつらは本当に気が利かんな!」
占い女生徒は龍一の右の机にある椅子に腰を掛け、龍一に話しかけた。
「龍一君……だよね? 早く来てくれてよかった。もし君が来なかったらね、下校時間まで珠美ちゃんの後ろでずっと立っている羽目になっていたんだよ。”ラスボスとその部下”っていう”こんせぷと”でね」
占いの時に聞いた、消えゆくような儚い声。龍一が小さい声と思っていても、その耳は一字一句はっきりと龍一の体の中へと染みいっていった。
「はは……それは何というか、お疲れ様でした」
龍一は苦笑しながら返事を返す。男子女子、二人の生徒のごく普通の会話だが、鳥居は目を見開き、隣に座る占い女生徒と龍一を交互にみつめていた。
「あの……?」
龍一の声に鳥居は気を取り直し、再び龍一へと向き合う。
「ああ、すまない。こっちは占い部部長、金剛 珠洲だ」
「え? 部長が……二人?」
「ああ、去年までの校則で、部活を新設するのに最低二人の部員が必要だったんだ。まだ新設校で生徒が少ない為、掛け持ちもオッケーでね。マジュツ部はあの馬鹿二人で造ったんだが、あたし達はお互いの部を掛け持ちしているってことなんだ。表向きはあたしがこの部室の部長だ。たしか今年からは新入生が入ったから、部を創設する時は必要部員が三人になったって聞いたな」
”うん”と横に座る金剛も相づちを打つ。いつの間にか机の上に小さい座布団と水晶玉を置き、金剛は両手の平で水晶玉をなでていた。
「以上で簡単な自己紹介は終わりだ。聞きたいことがあったらなんでも聞いてくれ」




