生徒会
「他の部活に横取りをされない為の処置です。これで庵堂龍一は生徒会の”物”だと、皆に知らしめることが出来ました」
「全くもぅ……あ、ごめんなさいね。痛かったでしょう。さあ、手を出して」
椅子に座った龍一の前に甲斐が片膝を立てて座り、白く細い指で擦り傷のある龍一の両手首を触れるか触れないかの距離で包み込んだ。
(あ、なんか、いいにおい)
カチューシャを付けた甲斐の髪から漂う香りは、龍一の眼を甲斐の体に釘付けにさせた。
龍一の眼は甲斐の整った顔立ち、そして制服の上からでも膨らみがわかる二つの胸。
さらに龍一の眼は二つの白い太ももと、その根本を隠すスカートへと移動していった。
「ん、別に見てもいいわよ。生徒会会長として、始業式の時みたいに壇上で挨拶するから、みんなに見られることには慣れているし。なにより健康な男の子だしね。これ以上は見せることは出来ないけど、お詫びもかねて……それじゃあ【治癒】」
甲斐が呟くと、甲斐の両手の平から、淡い蒼の光が龍一の両手首に向けて放たれた。
光に包まれた龍一の手首からは痛みも傷も薄れ、やがて完全に消えていった。
「ふぅ、もうこれでだいじょうぶよ」
「ウオッホン!」
治癒が終わってもなお、甲斐の女性の部分を見つめている龍一に対して、稲津はわざとらしい咳払いをした。
龍一はあわてて顔を上げ、生徒会室をあちこち見渡すと、
(あ、ひい爺の写真!)
生徒会室の壁には、紋付き袴を着て、にこやかに笑っている龍造の写真が龍一の眼に入った。
甲斐も顔を上げ、龍一の視線の先へと眼をやる。
「ああ、龍造先生のお写真ね」
「でも、あの写真、少し若い時の写真ですね。でもどこかで見たような……」
「あの写真はね、龍一君、貴方が生まれた時の龍造先生のお姿よ」
”え?”と、思わず龍一の眼が見開く。
「本当はこの写真の全体像はね、生まれたばかりの龍一君を抱いている写真なのよ。
『ワシが一番男前に写っている写真だから、これを使え』っておっしゃってたわ」
体の奥からこみ上げてくるモノを感じながら、龍一は顔を戻し甲斐に尋ねた。
「そういえば、さっきの【治癒】も、ひょっとして魔術なんですか?」
「私のはせいぜい嗜み程度ね。龍造先生や龍一君ほどには……。え? ちょっと待って。ひょっとして【治癒】の魔術を見たの初めてなの?」
「はい。そうですが……」
龍一は昨日のマジュツ部の出来事を話した。
「あの……やっぱり僕は……その《後継者》とか《男子》なんですか?」
呆然とする甲斐と稲津に向かって、龍一は何か申し訳ない気持ちで尋ねるも、すぐに返事は返ってこなかった。
「会長、マジュツ部での話を聞くに、龍一君にはとりあえず魔因子が存在していますし、力の片鱗も現れています。後継者のことについてはとりあえず置いておいて、当初の私たちの目的を……」
「あ、そ、そうね。ごめんね龍一君。後継者のことは私たちでもよくわからないから、今すぐ答えることが出来ないの。と、とりあえず今日呼んだのはね、龍造先生から生前、君のことを気にかけるようにと言われていたから……ど、どんな子なのかなぁって」
始業式の時の、落ち着きのある挨拶からは想像できない程、甲斐は狼狽していた。
「あの、お二人もひょっとして魔術が使えるんですか?」
魔術への質問に変えたため、甲斐はやっと落ち着きを取り戻し、龍一の問いに答えた。
「ええ、あたしはさっき見せた治癒系と、あと防御系。正確に言うと【対魔防壁】や【対物防壁】って言うんだけど……。ん~、漫画や特撮ヒーローって言うの? それに出てくる”バリア”みたいなモノが使えると思ってくれればいいわ」
「防壁って事は、例えば魔炎とかを防ぐことが出来るんですか?」
「そうね。実際はもっと”強力な魔術”を防ぐ”役割”なんだけど……」
「強力? 役割? それって……」
龍一が疑問を口に出そうとした瞬間、稲津の声が遮った。
「私はその名の通り、【カミナリ】、俗に言う電撃、雷撃ですね。それを飛ばして”攻撃”をします」
「攻……撃?」
物騒な言葉を発した稲津に、龍一は疑問の視線を向けると、
「はい、例えば……こういう風にです!」
稲津は制服の胸ポケットに指を突っ込み、ペンライトを取り出すと、それを生徒会室のドアに向けた。
稲津の体が幾本もの細い光の糸に包まれた次の瞬間! ペンライトの先から、光の糸が束ねられた【カミナリ】がドアに向けて放たれた。
天空に漂う入道雲から一瞬のうちに落とされる雷ではなく、SF映画の光線みたいに、稲津の【カミナリ】は数秒間、ドアに向けて放射された。
ところが、束になった光の糸の一本が、それを見た龍一を避雷針だと錯覚したのか、引き寄せられるように進路変更し、龍一の体にまとわりついた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
子供の頃、龍造の家にあったマッサージチェアで遊んだ時のように、龍一の体と舌は光を帯びたまま小刻みに振動し、やがて煙を吹き始めた。
「チッ! 逃げられましたか。この部屋に張り巡らせた会長の【対魔防壁】を突破してくるなんて、おそらくは《おっかない部》の連中でしょう。私たちの話を盗み聞き、いや龍一君との面談を妨害しに来たのかしら?」
爪を噛みながら悔しがる稲津に向かって、再び甲斐が叱責する。
「ま、真理ちゃん! 【カミナリ】を放つならもう少し距離を取って! ほら、龍一君が感電しちゃたじゃないの!」
「ほぅ、さすが龍造先生の、庵堂家の一族ですね。私の【カミナリ】を喰らっても……」
「そういう事じゃないから!」
再び甲斐から【治癒】を受けるも、龍一の眼はうつろになり、もはや甲斐の女性の部分を眺める気すら起きなかった。
とりあえず携帯電話が無事なのを確認すると、龍一は甲斐に向かって再び質問をする。
「あのぉ、昨日、マジュツ部の人たちに入部して欲しいと勧誘されましたけど、もしかして今日、僕を呼んだのも生徒会に?」
「え? あ、いや、そういうわけでは……でも、……いや、やっぱり……」
再び甲斐は狼狽するが、稲津の冷たい声が、甲斐に決断を迫る。
「会長、もういさぎよく、ぶっちゃけた方がよろしいんじゃありませんか?」
「……そうね、ごめんなさい龍一君。私たち生徒会もマジュツ部と一緒。あなたがもし龍造先生の後継者なら生徒会へ協力を……、出来れば役員になって欲しかったの」
「役員? 僕が?」
「でも、もう気にしないで。後継者じゃなくたって、龍一君をどうこうするわけじゃないし……。むしろこのまま普通に高校生活を楽しんでくれればいいわ。もし何かあれば、私たち生徒会が手助けするから安心してね」
甲斐はその《眼》に若干残念さをにじませて、龍一に向かって淡く微笑んだ。




