狙われた玉
蘭が力強く宣言する。
「姉さん、次のレイダーは僕にいかせて!」
「待って蘭! あたしが行くよ。見ただろ龍堂学園の化物ぶりを。もううちらの合格は確定なんだ。ここであんたが潰されたら、地区予選のポイントゲッターがいなくなるんだよ」
「僕の超スピードアタックで、サプライヤーの”安藤”君を潰す! そうすればもう魔力補給がなくなるから、どのみち龍堂学園は地区予選では烏合の衆になる。姉さんお願い!」
「わかったわ……。その代わり、危なかったらわざと倒れたりコート外に逃げなさい」
観念した衣舞は蘭に優しい眼差しを向ける。
「ありがとう! 姉さん!」
「え? 蘭君がここで!」
意外なレイダーに龍一の眼が見開いた。
「あいつのあの眼……龍一! 気をつけろ! お前を潰しに来るぞ! 下がれ!」
「は、はい!」
目黒の叫びに慌ててデッドエンドラインに下がっても、蘭の眼は、アタックサークルを取り囲む龍堂学園四天王には眼もくれず、常に龍一をロックオンしていた。
(サポーターをしているから”玉を潰す”事は出来ないけど、何らかのダメージ、いやトラウマを与えることが出来れば、マギディどころか試合に出ることすら恐怖になる)
蘭は両手に魔力をたぎらせながら、サークル内でクラウチングスタートの構えを取るが……
「え……? 何これ? 甲斐……さん?」
蘭と龍一の間に、まるで道を造るように四天王が交互に立ち並び、蘭を見下ろしていた。
甲斐が「いらっしゃい坊や。お姉さんが遊んであげるわよぉ……」
鳥居が「龍堂学園一の美女である、私の体を弄んだことを一生後悔させてやるよ」
金剛が「……ハーレム反対……ハーレム反対」
稲津が「その格好を見ると『脳筋糞馬鹿野郎』を思い出すから、悪く思わないでね」
そして四人の視線は蘭から、白鳥、目黒へと移る。
「「「「そこの二人! 手ぇだしたら生きて帰れると思うなぁ!」」」」
「「イエス! マァム!」」
白鳥と目黒は、すぐさま直立不動の姿勢で敬礼する。
(ひぃっ!……い、いや落ち着け。ここを突破すれば、いや出来なければ、僕のスプリンターとしての力は高校では通用しない。自分を信じろ。力を溜めろ! いけぇ!)
蘭の体そのモノが弾丸となり、龍一に向けて発射された。
(術を唱える暇すら与えない! 龍一君、君の”玉”もらったぁ!)
蘭の腕が龍一の股間に向かって伸びる……が、
甲斐が「【メテオシールド(隕石の楯)】!」
鳥居が「【影縫い、百花繚乱】」
金剛が「【山路蘭君、一点差の高校野球、9回裏2アウトランナーなしで、内野ゴロを打った代打選手のヘッドスライディング!】」
稲津が「【ミョルニル(雷神の槌)】!」
”ズドグォォォン!”
壮大な爆発と地響きと衝撃波が龍堂学園のコートを覆い尽くす。
龍一が見たのはあと一歩で自分の股間に手が届いていた蘭の潰れた姿だった。
『試合終了! 須恵吉大付属0、龍堂学園23』
『ありがとうございました!』
ギルドのヒーラーに治療を受け、洗浄されたコートに降り立った双方のメンバーは挨拶のあと、固い握手を交わした。
龍堂学園の女性陣と龍一の晴れやかな顔、対照的にこの世の深淵を垣間見た白鳥と目黒は、ゾンビのようにやつれていた。
それを見た須恵吉大付属のメンバーは魔力の炎よりも顔を蒼白くさせ、着替えもそこそこに、まるで逃げるようにギルドを飛び出していった。
「んん~! 両校合格してよかったわ!」
ギルドから駅までの帰り道、甲斐は胸を揺らしながら天に向かって伸びをし、稲津が声を落として話しかける。
「残念でしたね会長、せっかくお近づきになれた記念に、ギルドの喫茶室でお茶でもしようと思っていたのに……」
「今日の試合の反省で、すぐにミーティングするって。私達も見習わなくっちゃね」
そんなやりとりを、龍一は笑顔で眺める。
(一時はどうなるかと思ったけど、こうしてみんなが笑顔でマギカ・バディが出来てよかった。次は夏の地区予選だけど、”今すぐにでも試合をしたいな”)
かつて龍造がカバディの大会で語ったことを、龍一はその身で実感した。
そして、後ろから両腕を前に垂らして、ゾンビのように体を引きずって歩く白鳥と目黒を心配する。
「お二人とも大丈夫ですか? ヒーラーの方から【治癒】を受けなかったんですか?」
「さすがに疲れまでは【治癒】ではどうしようもないからな。前半、女子が戦闘不能な中、こいつらはよくやってくれたよ」
「羽斗君、目黒君……お疲れ様」
鳥居と金剛がねぎらいの言葉をかけるが、二人の耳には全く届いていない、いや、女子の声をまったく聞きたくないかのように、鼓膜を封印していた。




