第参話 呪い
「聖属性の呪い……ですか?」
「そんなの聞いた事ないっすよ。呪いって闇属性じゃないんすか?」
「私の知る限りでは、そうですね」
「そもそも魔王って闇属性じゃないっすか。強力な聖属性の呪いなんて持ってたら、死んじゃいますって」
「……いや、ありえなくは無いかもしれん」
「そうなんですか?花宮ちゃん」
「…………巻物は禍々しい気配を放っていたが、儂が幼子になった時は、急に強く光ったんじゃよ」
魔王が逃げるように飛んで行ったのも、あの光が強力な聖属性の光だったからと考えれば、合点がいく。
「禍々しい気配は……もしかしたら、聖属性の巻物を闇属性の魔力でコーティングして、無理やり運んでいたのかもしれません」
「でも、そこまでするメリットがあるんすかね?」
「さあな。そこは魔王の目的が絡んでいるんだろうが……」
ガベル殿はそう言うと、深く考え込んでしまった。二人も考え始めたが、納得のいく答えは出せないようで、しばらく悩んでいた。
「花宮様。もう魔方陣から出て大丈夫ですよ」
「そうか」
「お気を付けて」
神父さんは儂の手を引いて、丁寧に魔法陣から出してくれた。
「若くなったからか、足腰は良くなったんじゃよ。心配はいらん」
「そうなのですか。ですが、なんだか丁寧に扱わないといけないような気がしたんですよ」
「そうか?」
「ええ。守護の祈りまでかけてしまいました」
「なんだか凄そうなものを頂いてしまった……」
神父さんは儂の頭にポンと手を置いて、優しく撫でた。
「ちょっ!?な、何をする!?」
「今の花宮様は、不思議な魅力をお持ちですね」
「ちょっと神父さん!花宮ちゃんを独り占めなんてずるいですよ!」
「ああ、すみません勇者様」
「だから、ち、ちゃんはやめt」
勇者殿は、儂をひょいと軽く持ち上げてしまった。勇者殿の力でも簡単に持ち上がるほど、儂は軽いのか。通りで、森であんなに吹き飛ばされた訳じゃ……
「ちょ、ちょっとぉ!?降ろしてくれんか!?」
「軽いです……本当、無くなっちゃいそうなくらいに」
勇者殿はそのまま儂を抱きしめて、ゆっくりと座ってしまった。
「柔らかくていい匂い……」
「んむぅ!」
(脱出しようにも、暴れる訳にはいかんし……出られん!)
ガベル殿とアリエル殿に助けを求めて視線を送ると、二人は顔を見合せて、やれやれと呆れ顔をした。
「……勇者様。いつまでそこに座ってるつもりっすか?大聖堂も、暇じゃあないんすよ?多分っすけど」
「爺さんが可愛いっつうのは百歩譲って理解出来るが……」
「もう出るっすよ。花宮さんは抱いてていいっすから」
「いや良くないが!?」
「いいの!?やったー!」
「……」
そのまま勇者殿に人形のように抱えられて、大聖堂を後にした。神父さんは深々と頭を下げて、儂達を見送ってくれた。
ガベル殿が儂と勇者殿の隣に。アリアル殿が、その更に隣に並び、三人が横並びで歩き始めた。
「そういえば、アリアル。そのネックレス、新しいやつか?」
「流石、目ざといっすね!貰い物なんすよ、これ。なんか黒いダイヤが使われてるらしくって、高級感ありまくりなんすよ!」
「へえ。誰からの?」
「へへ、秘密っす!」
「……二人とも。儂は、どうすればいいんじゃ?」
「そのまま抱えられててくださいっす」
「諦めるんだな」
「そんな……!」
「ふふふ。花宮ちゃんは、誰にも渡しませんよ?」
「別にいらねえよ」
「ガベルさん、本当にいらないんですか?」
「いらねえよ!」
はあ……まあ、前が見える状態で抱えられているし、一応は大丈夫かもしれない。
じゃが流石に勇者が幼女を抱えてニヤニヤしているのは目立つのか、周りからの視線を釘付けにしている。
(全く、勇者殿は目立ちすぎ―――)
……いや、違う。この視線は、勇者殿に向けられているものではない。
(全員が、儂を見ておる……!?)
「そこの可愛いお嬢さん、ちょっといいかな?」
中年の、少し太った男が話しかけてきた。儂を見つめながらそっと手を出して、儂の手を握った。
(!?!?!?)
中年の男は、ニヤリと気持ちの悪い笑みを浮かべた。全身が粟立ち、本能が恐怖を訴えた。
「何ですか?今、取り込み中なんですけど?」
「……勇者様!?も、申し訳ありません!!!」
その男はそう叫ぶや否や、駆け出して一目散に逃げていってしまった。まさか、あの状況で、勇者殿に気が付いていなかった……のか!?
「ガベル殿」
「どうした?」
「儂は可愛すぎるのかもしれん」
「き、急にどうした!?」
「それが―――」
魔王の狙いなのかもしれない。
そう口にしようとしたが、その言葉が出ることは無かった。
「―――!?」
胸部に、激しい痛みが走った。視界には、禍々しく黒光りした槍の先端が、血の色と共に映っていた。
(槍を抜かれれば、失血死―――)
そう思った瞬間、勢いよく槍が引き抜かれ、鳩尾から鮮血が吹き出した。
「―――!!!」
そのまま儂を抱えていた勇者殿ごと……儂は勇者殿に押しつぶされるようにして倒れてしまった。
魔王は、儂を幼女にして、可愛くして、勇者殿の隙を作ろうとしていたのか!
(いや……まだじゃ!)
何とか顔を横に向けて、二人の様子を見ようとする。儂が魔王に槍で刺されたということは、少し距離が空いていたガベル殿とアリアル殿は無事なはずじゃ!
儂は張り裂けそうな胸の痛みをなんとか堪えて、ガベル殿を見た。
「―――!!!」
ガベル殿は、背後から短刀で心臓を突き刺されていた。
(な……何故……何故なんじゃ……!)
「よくやった。アリアル」




