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猫の精霊

 俺の部屋。ミケがまだ眠る俺をゆすって起こす。


「スピラル様、目を覚ましますにゃ」


「ああ、おはようミケ。もうそんな時間か?」


「今日はミスリル鉱を探しに行く日にゃ」


「ああ、そうだったな。五時か」


「今日も遅くまで魔力の練習をしていたですにゃ?」


 俺は寝間着から着替える。今日はあまり目立った格好はしないように、町民の服を買って来た。


 昨日屋台へと行った紋章無しの馬車で往復六日の旅をする。


「今日は町民の格好ですにゃ?」


「昨日は騒ぎになったからな」


 そう。昨日は皇子の格好で町に出てしまった為に騒ぎになった。


 ミケの買いたいものは買えたが、その後は俺に商品を勧めてくる連中から串焼きや装飾品を買った。まあ、普段お世話になってる人達にお土産が買えたので良かったのだが。乳母のブリーズは泣いて喜んでくれた。


 馬車はミケの家族に一杯のお土産を積んで、走り出した。


 御者は前回エルフの里へと向かった時と同じアルクだ。当たり前だが護衛はいない。自分で解決出来るからな。


 俺は家紋の無い馬車で帝都から出る。まっすぐ北へと行けば、ミケの生まれ故郷が見えてくるはずである。


 ガタガタと馬車が揺れる。

 外には真っ白な世界が広がっている。俺はサラマンダーの精霊を宿したブランケットを御者に渡した。


「おお、これは暖かい。ありがとうございます」


「うん。頼むよ」


「はッ」


 雪の中を馬車は進む。


「寒くないか? ミケ」


「はいですにゃ。スピラル様がくれた暖かいブランケットのおかげで快適ですにゃ」


「うん。それならいいんだ」


 俺とミケは荷物に囲まれながら、相対して椅子に座っている。


 しんしんと雪が降っている。


「ミケの故郷はどんなところなんだ?」


「はい。猫獣人が数千年前から住んでいる神の土地ですにゃ」


「神の土地?」


「はい、ですにゃ。神様が猫獣人に与えてくれた選ばれた土地ですにゃ。そこは雪も積もらず水が湧き、土地からは暖かい蒸気の出る約束された土地ですにゃ」


「暖かい蒸気か。温泉でも出るのか?」


「良くわかりましたにゃ。蒸気が出るところを少し掘ったら温泉が湧きますにゃ」


「湯煙か。毒ガスは出ないのか?」


「毒ガスの話は聞いたことがないですにゃ」


「そうか」


 三日目の昼になる。


 整備された道を外れ、山道を馬車が走る。


「雪が消えてきましたにゃ。もうすぐ村に着きますにゃ」


「湯煙が見えてきましたにゃ」


「先に行ってますにゃ」


 ミケは我慢出来ず、馬車の扉を開けると走って村の中へと駆けて行った。


 馬車は少し遅れて村へと入る。


 ミケはどうやら門番に怪しくない馬車だと伝えてくれていたようだ。


 門番が村の中へと誘導してくれる。


 心なしか、門番の動きが緊張しているように感じる。


「ミケ様の主様とお聞きしました。どうぞ、お入りください」


 村に入ったところで俺も馬車を降りる。御者のアルクが馬車を厩舎に運んでいく。


 俺はもう一人の門番に連れられてミケの住む屋敷へと連れていかれた。


 ミケのおじいさんが村長をしているらしい。門番が教えてくれた。


 中に入ると、床に正座し俺を迎えてくれる村長とその家族、そしてミケがいた。


「今日は世話になる」


「はッ!」


「良い、畏まるな。普通にしていろ」


「はッ!ありがとうございます」


 村長やその家族は普通の生活に戻っていく。


 ミケは俺に村を案内すると言い、片手に芋や卵、鶏肉やカボチャの入ったせいろを片手に持ち、もう片方の手で俺の手を引いて外へと出る。ミケは温泉の源泉から湧き出る、約百度の高温の蒸気を出す、石で作られた蒸し釜にそれを入れて置く。


「地獄蒸し釜といいますにゃ」


 俺が「これは何だ?」と言う前に、ミケが教えてくれた。


「蒸気は熱いから触ったらダメにゃ」


「ああ、分かった」


 俺はミケに泉へと案内される。ミケは両手に水を掬い飲む。


「ここの水は美味しいにゃ」


 透明度が高く、温度が冷たい水がこんこんと湧き出る。俺も水を掬い飲んでみた。


「……美味い」


「そうでしょにゃ」


「合わせたい方がいますにゃ」


「俺に、合わせたい人?」


「人ではないですにゃ」


 泉の真ん中に透けた猫が現れ、それはニ~三分ほどでくっきりと猫の姿になった。


「猫の精霊様ですにゃ」


「猫の精霊様か」


 俺は地面に膝をつき、猫の精霊に頭を下げた。


「貴方様の猫の村にお世話になっております」


「顔を上げなさい、人の子よ」


 俺は猫の精霊様の一言で顔を上げた。


「今回は何の用事ですか?」


「はい。この里の奥にあるミスリル鉱床の採掘をさせて頂きたく参りました」


「この里の奥にミスリルの鉱石があるのをどこで知ったのです?」


「城にある古い文献から知りました」


 本当は前世で知ったのだけれど。


「そうですか。ミスリルの採掘は許可します。ですが、村人に危害を加えたり、猫人が村に住めなくなるのは困ります」


「重々承知しております」


「それであれば良いのです」


「私は猫の精霊として、村人と人との絆を深めることを願います」


「はい!ありがとうございます」


 精霊様が俺の頭に手を置く。


「良き隣人には愛を。悪しき隣人には制裁を」



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