財政再建
俺は皇后陛下の自室の扉の前で、膝をつき待機していた。そこへ、皇后陛下の侍女が扉を開く。
「お呼びですか?」
「ええ、よく来てくれました。さあ、中へ」
俺は深くお辞儀すると、廊下から部屋の中へと入った。皇后陛下が迎えてくれる。
「お菓子と紅茶を用意しましたわ。お食べなさい」
俺は席に着き、クッキーに手を伸ばす。俺は口の中で、紅茶でクッキーを溶かしながら食べる。
対面に皇后陛下が座る。
「さて、さっそく話を始めさせてもらうわ」
俺は紅茶を置き、皇后陛下を見つめた。
「あら、そんなに見つめられると、穴が空いてしまうわね」
「嗜好品のことですよね」
俺は皇后陛下が切り出す前に話を始めた。皇后陛下が一口紅茶を飲む。
「分かっているのですね。では、話は早いですわ」
「嗜好品の額は元には戻せません」
皇后陛下が一瞬眉根を寄せた。
「なぜです?」
「グルートンの洪水の為に国の財政がひっ迫しています」
「それは、宝飾品を売って解決したでしょう」
「他の地域で災害が起こった場合、今の財政状況では国が破綻してしまいます」
自然と歯を食いしばる皇后陛下。
「どうにかならないのですか?」
「二~三年我慢すれば財政は回復しますから」
「二~三年は我慢しろと?」
「そうですね。出来れば三年、嗜好品は控えてください」
「三年ですか。何とかなりませんか? 後宮の側室達が黙ってません」
「ならば二年、今回の額を維持してください」
「駄目です。側室達が不満を感じれば、今までスパイを排除してくれていた側室達がお金を積まれて裏切りかねません」
「後宮の結束はそんなに脆いのですか?」
「後宮に結束なんてものはありませんわ。妊娠した順番に命を狙われる。子どもが生まれたら子の命が狙われる。まさに伏魔殿なのですよ。そうなれば、陛下の危機が増しますわ。あなたも命を狙われたことがあるのでしょう」
「まあ、そうですね。では、今年一年だけこれで我慢してください。後は俺がどうにかします」
「どうにかなるのですか?」
「どうにかしてみせます」
皇后陛下は扇子を開き、口元を隠した。
「自信があるのですね」
「はい。ですから、今年一年は我慢してください」
「分かりました。一年は何とか乗り切ってみせましょう」
皇后陛下は笑んだ口元を隠す。
(この先スピラルが財政を立て直す為に嗜好品を削るようになったとしても、他の財政を削ってお金を持ってきたとしても、政治的にはスピラルが責任を取らされるだけで話は済みますわね)
「是非、お願いしますわね」
※※※
蔵書庫へと戻る、スピラル。
待っていた侍女ミケが迎える。
「おかえりなさいですにゃ」
「今からミスリル鉱探しだ。ミケ、お前も来るか? 里帰り出来るぞ」
両手を振り上げて小躍りするミケ。
「ほんとですかにゃ!」
「ああ、本当だ」
「行きますにゃ」
「じゃあ、今から向かおうか」
「今すぐですかにゃ?」
「ああ、問題あるか?」
「お土産を買っていきたいですにゃ」
「そうか。5年ぶりの帰省になるんだったな」
「はいですにゃ。殿下が生まれた頃にお城に来ましたにゃ」
「ミケは今年で十五歳になるんだったな。じゃあ、今年で成人か」
「ですにゃ」
「一緒に街まで行こうか」
「はいですにゃ」
※※※
目立たないように家紋の無い馬車に乗り大通りを真っ直ぐ南へ行くと、十字路になった噴水公園が見えてきた。
噴水公園を中心にぐるっと屋台や露店が並んでいる。
「おいミケ。金は出すから、もっと高い店でもいいんだぞ」
「駄目ですにゃ。お土産というものは自分で稼いだお金で心を込めて買うのが大事ですにゃ」
「確かにな。お前が正しい」
俺とミケは馬車を降りる。
屋台や露店には装飾品から焼き串まで様々な物が並んでいた。
「装飾品より、みんな食糧が喜びますにゃ」
「なら、生ハムの原木なんてどうだ」
「それ買いますにゃ。十本貰いますにゃ」
「豚の燻製肉は?」
「それも十本くださいにゃ。買いますにゃ」
「チーズはどうだ?」
「買いますにゃ。十個お願いしますにゃ」
店主に馬車に積んで貰う。馬車も一杯になったのでこれぐらいでいいだろう。
俺は緋色のペンダントを露店で買ってミケにプレゼントした。
「いつも世話になってるからな。これからもよろしく頼む」
ミケは涙を流して喜んでいた。
「これからもスピラル様の御守り頑張るにゃ」
「ああ、そうだな」
子どもであることを否定しない俺。まあ、五歳児には違いない。これからも面倒をかけるのだから、たまには子どもらしく振る舞ってみるか。可愛げが無いからな。
「子どもっぽいのはスピラル様っぽくないにゃ」
俺の額に青筋が浮かぶ。俺は努めて大人ぶろうと思う。
「ああ、そうだな。ミケ、ブリーズと母上と皇后陛下に似合う装飾品を選んでくれるか?」
「任せるにゃ」
俺とミケは露店の装飾品屋を覗く。
目に青い石の嵌まった黒猫が背伸びをしているイヤリングを母へ、首輪として琥珀色の石の嵌まった座った犬のペンダントを皇后陛下へ、星の緑色の石が嵌まったテントウ虫が描かれたブレスレットを乳母のブリーズに選んだ。
「思った以上に子どもらしい可愛いデザインのアクセサリーを選んでくれたな」
「恥ずかしいですかにゃ」
「いや、センスが良い。助かるよ」
「そうですかにゃ。それなら良かったですにゃ」
「それじゃあ、城へ帰るか」
「はい、ですにゃ」
俺とミケは暗くなる前に城へと帰って行った。




