魔法の師
「フライという魔法で森の上を飛び、エルフの里へ行ったと御者に聞きましたわ!」
英雄譚を聞いた子どものようなはしゃぎ方をする皇后陛下。
「どこでそんな大魔法を覚えたのです?」
俺は冷静に皇后陛下の目を見つめた。瞳の奥は笑っていない。
「蔵書庫にある魔法書を読みました」
「字はどこで覚えたのです?」
俺の行動を探ろうとしてくる皇后陛下。
「はい、乳母のブリーズに教わりました」
「あら、そうなのですね。でも、字を覚えただけで魔法を使えるようになるとは、まさに天才ですわね。それじゃあ、魔法の暴発のコントロールは誰に教えてもらいましたの?」
「それは……試行錯誤しながら独学で覚えました」
「それは危険ですわ。魔力のコントロールの師くらい付けた方が良いですわね。フォール様などいかがかしら?」
「フォール様ですか?」
「ええ。あの方なら大魔法使いと言えますし、師匠として良いはずですわ」
フォールとは、前世で俺が師事した師匠である。確かに大魔法使いと呼べる方なのだが、それ以上に暴走を恐れて魔法を一つ教わるにも半年かかるような師匠であった。まあ、そのおかげで俺が暴走に巻き込まれず生きていられたのだが。
「是非、よろしくお願いします」
「はい、もちろん。紹介して差し上げますわ」
皇后陛下は皇太子を大事にすれば、優しい方だ。前世ではあまり関わりがなかったが、今世では仲良くしようと思っていた。皇后陛下の伝手で師を選べば仲良くなれるだろうか。
「ですが、フォール様はお忙しい方なので、週一になりますが……」
「はい、それで構いません」
「フフフ、わかりました。それでは、お願いしておきますね」
皇后陛下は清々しい笑顔を見せ、俺の願いを承諾してくれた。
「ありがとうございます」
俺も皇后陛下にはさわやかな笑顔を見せてお礼をしておいた。側室の方々が何名か頬を赤らめて俺を見ているのが何か怖かった。ショタコンか?
「もう良いですよ。お忙しいのでしょう」
俺は母上に手を振ってから踵を返す。母上も微笑んで手を振ってくれた。
※※※
「それで、なんでまた蔵書庫に来るのかにゃ?」
「財政再建はしないといけないからね。側室達への野放図な袖の下は減らしてもらわないと」
「計画を立てるにゃ」
「そうだね。まず後宮から財政再建だ」
俺は後宮の嗜好品の増加額を指摘し、せめて十年前の水準に戻すように役人達と話をした。
しかし、役人達は笑うだけで取り合ってくれない。五歳児相手に聞く耳すら持たないことは理解していた。していたが、役人達はいくら後宮に金額を取ってこられるかを競ってすらいる。
「じゃあ、白金貨一枚(一億円)の支出を防ぐだけで、金貨十枚(十万円)のボーナスをやると言うのはどうだ?」
「「「「「本当ですか!!?」」」」」
「ああ、本当だ」
役人達が握手を求めてくる。
「「「「「頑張ります!」」」」」
この日からたった一ヶ月で白金貨百枚(百億円)の支出が抑えられた。
※※※
皇后陛下が役人を呼ぶ。
「アナタ達。誰の許可を得て嗜好品代白金貨百枚の支出を抑えたのですか?」
皇后陛下は怒りで声と身体がフルフルと震えている。
地に膝をついた役人がおどおどしながら返事をする。
「スピラル皇子が嗜好品の支出を抑えろとおっしゃられました」
「なんですって? スピラルが?」
別の役人が一見冷静な顔で答える。
「スピラル様が、白金貨一枚につき、金貨十枚のボーナスをつけるからとおっしゃられて……」
顎に手を当てなにやら考え始める皇后陛下。
「そう……スピラルが……」
皇后陛下は手招きし、侍女を呼ぶ。
「スピラルを呼んで来なさい」
侍女は背筋を伸ばし、片足を斜め後ろの内側に引き、足をクロスさせ、両膝を軽く曲げて体を低くする。綺麗なカーテシーをして見せた。
「かしこまりました」
侍女はスピラルが篭っている蔵書庫へと向かった。
※※※
蔵書庫の扉が叩かれる。そして、開かれた。外から皇后陛下の侍女がやって来る。
その時、俺は帳簿を捲っていた。俺は皇后陛下の侍女がやって来たのにも気づかず、帳簿に集中していた。
(こんな子どもが、なんて集中力なのかしら? スピラル様の侍女達が言うように発禁本を読み耽っているわけでも絵本を読んでいるわけでもない。帳簿を隅から隅まで読んで、後宮の嗜好品を見つけて減額まで辿り着いた理由が分かるわね)
「スピラル様」
俺は気づかず無視をしているようになってしまった。
「スピラル様!」
俺は猫のようにビクッと跳ねた。
横を向くと、床に膝をついて座っている皇后陛下の侍女がいた。俺はまず謝った。
「気づかずにすみませんでした……」
ニコニコ笑って返事をする侍女。
「いいえ。よいのです」
俺の侍女であるミケが俺に説教する。
「皇后陛下の侍女様がお越しだとずっと言ってたですにゃ」
「うん、ミケにもごめん」
俺はミケにも謝る。ミケは皇后陛下の侍女が来たことをずっと知らせてくれていたようだ。
俺は皇后陛下の侍女に何か用かと尋ねた。
「何の御用でしたか?」
「皇后陛下が殿下をお呼びです」
何やら一波乱ありそうだ。




