グルートンの洪水
最近盗賊が増えている。
グルートンと呼ばれる大都市で洪水が起こったからだ。
グルートンとは帝都から最も近い穀倉地帯であり、帝国の台所と呼ばれている。
最悪なのがクソ親父の対応だ。
「来年にはまた麦が作られるのであろう」
と、餓えた民を放置した。
餓えた民は一揆を起こし、食べられない民は盗賊へと堕ちた。
「食糧をなんとかしなければならないな」
俺はこの一件が原因で国が割れ、勇者召喚がされることを知っている。
俺は城の宝物庫から歴史に関する物を除き、宝石等を売り払い、隣国であるブレリー共和国から麦を買った。それをそのままグルートンへと送る。
俺はクソ親父に呼ばれた。
謁見の間。
俺は膝をつき、胸に手を当てる。
「貴様、なぜ宝物庫から貴金属を売り払った?」
「グルートンへ食糧を送る為です陛下」
「なぜ生産地に食糧を送らねばならぬのだ。税は免除したはずではないか」
「生産地であるグルートンが被災したので、当然一年分の食糧が必要になります。帝都の貯蓄庫には帝都の民以外の食糧は貯蓄しておりません。グルートンでは食べる物がありません」
「なんじゃと?」
「それは本当か? エグリーズ宰相」
「事実でございます陛下」
「なぜそれを余に教えなかった?」
「書類で伝えていたはずです。陛下」
「なんじゃと?」
「書類を持って来なさい」
「はい。今すぐ」
宰相が部下に書類を持ってくるように伝える。
部下がやって来る。
「書類をお持ちしました」
「うむ」
「陛下、お読みください」
「うむ。判は押しておるではないか」
「下までお読みください陛下」
『財政が足りない故にグルートンの食糧が買えません。どうか、宝物庫から財政立て直しの為の貴金属の払い下げをお願いします』
書類を持った手が震えだす皇帝。
「こちらはお読みになりましたか?」
「むう、読んでおらぬ。じゃが、判を押したのじゃから払い下げれば良かったのではないか?」
「今陛下はスピラル殿下をなぜお叱りになっているのですか?」
「むう」
「陛下はスピラル殿下を褒めるべきです」
その言葉を聞いた皇帝は渋面を作る。
「スピラル……良くやった」
「はッ!ありがとうございます」
「スピラル殿下は良い統治者になりますぞ」
「ああ、じゃが、スピラルは皇太子ではないぞ」
皇后陛下が宰相を睨みつける。
「そうでしたね。口が過ぎました」
「スピラル。よい。下がれ」
「はッ」
俺は謁見の間を出た。
俺は部屋へと戻る。
部屋へと戻るとミケが、この間助けたアルシュ商会の大旦那から手紙を受け取っていた。俺は商隊を助けた後、大旦那から鳩を預かっていた。宝物の払い下げやグルートンへの救援物資の購入、受け渡しまでをアルシュ商会に頼んでいたのである。
『グルートンへの救援物資は全て運び終わりました。これで、盗賊達も少しは減るでしょう』と書かれていた。
俺は鳩の足に返事を書いた紙を巻いて送った。
『ありがとう。助かった』と。
俺は十一年後の死を覚悟しながらも、灰燼の魔法使いとの出会いを避ける方法を必死で模索していた。
戦争を避ければ、勇者召喚も無くなる。勇者召喚が無くなれば、灰燼の魔法使いとの出会いも無くなる。安易だが、そう思っている。
「ミケ、俺は生きるぞ」
「何言ってますにゃ。当たり前ですにゃ」
※※※
皇后陛下の部屋。
ベッドに座り男児を抱く皇后陛下。その隣に座る皇帝陛下。
「陛下、陛下も抱いてあげてください」
「うむ、可愛い皇太子じゃな。お主は今いくつになる?」
「みっちゅになりましゅ。へいか」
「そうか。もう三つか。子どもが大きくなるのは早いのう」
「本当に。子どもが大きくなるのは早いですわね」
「早いと言えば陛下。スピラルも五歳にして既に政治に絡んでおりますわね」
「むう……あやつはいけ好かん。子どもらしくない。わしは子どもらしい子どもが
好きじゃ」
「フフ」
皇后陛下が口元に手を当て笑う。
「何がおかしい?」
「陛下はスピラルにライバル心を抱いているのですね」
顔を真っ赤にする皇帝陛下。
「ライバル心など抱いておらぬ!ただ彼奴がいけ好かないだけじゃ!」
お腹を抱えて笑う皇后陛下。
「フフフ、まあいいですわ。そう言うことにしておきましょう」
頬を膨らす皇帝陛下。
「ブラン。お前は子どもらしくあってくれよ」
皇太子は皇帝陛下の目を真っ直ぐに見て答える。
「あい」
「そうじゃ、それで良いのじゃ」
皇后陛下が苦言を呈す。
「陛下、甘やかしてばかりではいけません。ブランが国民から尊敬されて、家臣の信を得て誰からの妨害も受けないような人物にしなければなりませんよ」
「大丈夫じゃ。スピラルの奴は第一皇子じゃが、発禁本ばかり見ている無能と呼ばれておる。こんなにも可愛いブランの相手にはなるまい」
溜息をつく皇后陛下。
「はあ。無能が五歳で政治に関わるものですか。グルートンの惨状をどこから聞いたのか分かりませんが、あのアルシュ商会となんらかのきっかけで繋がっているのは確かですし、そのアルシュ商会にグルートンからやって来た被災者が集まるスラムへの炊き出しをさせているのもスピラルなのですよ」
「むう、おかげでわしは恥を掻かされたのじゃ」
「まあ、どちらにしてもスピラルの評判が良くなるのは良いことではありません。スピラルが政治に介入しないように、貴方がしっかりせねばなりません」
「分かっておる。奴にこれ以上政治に介入させるつもりはないわ」
一抹の不安が残る皇后陛下だった。




