勇者召喚の儀
五歳になった。
勉強が始まったが、全てが過去に一度経験しているのでサボった。これ以上ないほど前世で知識は身につけている。
俺が蔵書庫で魔導書を読むのに耽っていると、俺が蔵書庫でエロ本を読むのに耽っていると思われていた。これも全部クソ親父の集めた発禁本のせいだ。
メイド達が俺の部屋を掃除するのを拒む。どうやらイカ臭い噂をされて押し付け合っているらしい。五歳でイカ臭いわけがないのに……。
まあ、気を取り直して魔法の勉強をしていこう。
俺は灰燼の魔法使いの戦略級魔法に破れた。それならば、戦略級防御陣を描けばいい。俺は個人の能力には限界があると思っていたが、灰燼の魔法使いは一人で戦略級の攻撃魔法を放った。
俺にだって出来るかもしれない。
「次の本取ってくれるか? ミケ」
「分かりましたにゃー」
ミケは背丈こそ小さいが、成人した猫の半獣人だ。人の一般的な成人の半分くらいの大きさである。
ミケは俺の部屋も率先して掃除してくれている。唯一の理解者だ。
「なんでスピラル様は五歳でこんなに難しい本が読めるにゃ?」
「天才だからかな」
「それは他人に言われることにゃ」
俺は読み終わった本をミケに渡し、ミケから新しい本を受け取った。
「ん?」
本を開くと、そこには『灰燼の魔法使いについて』という章があった。
『素性は謎だが名をエルピュシオン。人間ではなく、エルフらしいと憶測されている。三千年を生きる彼は、一人で数か国を滅ぼし、勇者召喚を終わらせた』と書かれていた。『魔導を極め、大気のマナを操り、戦略級魔法を自在に扱う者。眉唾だ』と締め括られている。
俺は前世でもこの本を読んだ。当然俺も眉唾だと信じていた。
戦国時代、各国は力を求め勇者召喚の儀を行い続けていた。しかしそれは一人の力で行ったものではなく、百人からなる魔法使い集団が一週間かけて行使したものである。戦略級魔法もこれに相当する。
百人規模の魔法が一人で行使出来るわけがない。また、大気のマナを操るのも不可能だ。大気のマナを操ることが出来れば、魔力の永久機関が出来上がる。
しかし、一人であれほどの魔力を得ることは難しい。いくら長命のエルフといえど、不可能に近いだろう。それを練り上げることは生まれた頃から厳しい訓練を積んでも可能かどうか。
俺は行き詰っていた。今生でも灰燼の魔法使いはやってくるだろう。なぜなら、十一年後に南の王国と戦争となり、この国エクレール帝国は勇者召喚を行うからだ。
俺は蔵書庫にある書物を読み漁った。
しかし、そこに答えがあるわけがなく徒労に終わった。
俺は賢者の石があると聞けば東へ向かい、エリクサーがあると聞けば西へと向かった。
答えは出なかったが、まだ十一年ある。俺は長命のエルフに直接会いに行く為、世界樹を目指した。
彼らは人間に対して、忌避的な反応を示す。それは、過去に人間達がエルフを愛玩奴隷にして来た歴史がある為である。
彼らは皆美しく、若い時期が非常に長い為奴隷とされるのも彼らからしたら一瞬のことだが、深く傷つけられた者達が多い。よって排他的な性質を持っている。
俺は、遥か雲を突き抜けて伸びる世界樹を馬車で目指した。周囲からは道楽皇子がエルフを奴隷にする為にエルフの里に向かったと揶揄されている。
正直なぜ灰燼の魔法使いが勇者召喚を妨害するのか謎だ。よって俺は出来れば灰燼の魔法使いと話をしたいと思っている。
世界樹の麓に着く。
世界樹の根元を取り巻くように茂った森。森では馬車が使えない為、一人飛んでやって来た。御者は驚いていたが、俺は気にしない。森の中には、イチゴ摘みをしている二人のエルフの子ども達がいた。
俺は視線を感じた。
そのエルフの子ども達を狙う、五つの影。奴隷商に雇われた盗賊達だろう。俺は盗賊達がエルフの子ども達を襲う前に、地面に下りてエルフの子ども達と接触した。
「こんにちは」
金髪色白のエルフの子ども達が俺に警戒する。
「あー。何もしないから、そんなに警戒しないで欲しい」
淡い金の瞳が揺れている。俺はエルフの子ども達に安心してもらえるように、丁寧に話す。
「俺の名前はスピラルという。エルフの人達と仲良くなるためにやって来たんだ」
「私達は……人間と話すなと言われている。森で人間と出会ったら、すぐに逃げるようにって」
「そうか、それは仕方ない」
俺は土の弾丸の魔法を使って、俺達を取り囲んでいた盗賊達の頭に風穴を開けた。
木の上で俺達を観察していた盗賊が一人落ちてくる。
「「きゃッ!」」
「人間の大人だ!」
世界樹の方から、三人の大人のエルフ達が走って来る。
「こら!子ども達だけで森に出るなと言っただろう」
「だって……病気のお母さんに甘いイチゴを食べてもらいたくて……」
「そこに倒れているのは人間の盗賊じゃないか。倒したのは貴様か?」
「他に右に二人、左に二人倒れています」
大人のエルフ二人が確認する。
「確かに、盗賊が四人倒れているみたいです」
「貴様、本当に子どもか?」
「俺の名前はスピラル。人間の五歳児です」
「そうか。歳は怪しいが、盗賊から子どもたちを守ってくれたことには、お礼を言っておこう」
「いえ、構いません。俺もエルフの方に用事があってやって来ましたから」
「用事とはなんだ?」
「灰燼の魔法使いについてお尋ねしたいのです」
「灰燼の魔法使い様について?」
「はい。エルフの方々なら古の知識を持っているだろうと思って」
俺はエルフの里へと案内された。




