灰燼の魔法使い
帝国上空。
青い瞳と赤い燃えるような髪がプスプスと焦げた満身創痍の俺と、黒のとんがり帽子を深く被り顔を隠した無傷の魔法使いが空を飛んでいた。
地上には繁栄した帝都が広がっている。
俺と無傷の魔法使いは、お互いに魔法をぶつけ合っていた。
「リュミエール!」「……ソンブル」
俺が光の攻撃魔法を放つと、奴は闇の攻撃魔法で応戦してくる。
帝国随一の魔法を放つ俺が、終始押されている。
帝国の第一皇子たる俺が、余所者に負けるわけにはいかない。
俺の勝利を信じて送り出してくれた父上達の期待に答えなければ。
俺が眼下にある城を見ると、城の裏から父上が逃げ出していた。
父上―ッ!
もういい……俺がこいつを倒してから戻って来ても居場所は無いんだからね。
皇帝の座は譲ってもらうんだから。
その時、ブゥーン!と音が鳴って魔法陣が展開される。それは帝都全体を覆うように拡大した。
「「「なんだなんだ」」」と帝都が騒がしくなる。
魔法陣が神々しく光り輝く。
逃げ惑う人々。
敬虔な人々は膝をつき、手を重ね祈る。
「……ユルティム」
無傷の魔法使いが呟く。彼の通り名は灰燼の魔法使いだ。
灰燼の魔法使いが放ったその魔法は、巨大な炎となり一瞬で家屋や人々を焼いた。
その一発で三百万都市が滅んだ。
地上には炭となった人体だけが残った。
16歳の誕生日、俺は灰燼の魔法使いに国を滅ぼされた。
あーあ、滅んじゃったこの国。
「戦略級魔法を一人で使えるなんて……お前は一体何者なんだ?」
「……エクスプロージョン」
俺はその言葉と共に、意識を失った。
※※※
天蓋付きのベッド、そこにはよく見知った乳母の顔があった。
俺は誰かに監視されている気がしたが、この乳母の視線だったのだろうか。
俺が髪を引っ張ったり、頬をつねったりしていると、乳母がやって来て抱きかかえ、鏡の前に連れて行ってくれた。
「坊ちゃま、お父様似の燃えるような真っ赤な髪と、お母様似の泉のようなその青い瞳が素敵ですわね」
乳母の名前はブリーズ。名前の通り、涼やかな人だ。
懐かしい……が、この国は確かに灰燼の魔法使いによって滅ぼされたはずである。
16年前にタイムリープしたということだろうか。
前世では16年間魔法の練習ばかりしていた。
この国の誰よりも魔法の使い方を広く深く追求し、この国の誰よりも優秀な魔法使いになった自信がある。しかし、そんな俺が灰燼の魔法使いにあっさりと負けてしまった。
俺はもう一度勉強し直す意欲が湧かなかった。どうせ朝起きて夜寝るまで努力しても16歳という歳で殺されてしまうのだ。これは夢かも知れないし。
俺はせっかく出来た残りの人生、楽しんで生きようと誓った。
あ、でも魔法は使いたいから赤ん坊の頃から魔法の鍛錬は欠かさないようにする。
俺は赤ん坊であるうちからマナを練り続けた。
※※※
三歳になった。
相変わらず誰かの視線を感じる。
身内でのお披露目式となり、父と母と親族一同がお披露目式に呼ばれた。
クソ親父の側室である母とはよく顔を合わせていたが、クソ親父と会うのは生まれた直後と今回で二回目になるらしい。母は肩で切り揃えられた黒髪の青い瞳をした清楚な女性である。
俺は今生で二度目の人生だ。
息子が前世で死中に活を求めている間に逃げ出したクソ親父なんぞ討ち滅ぼして、国民のことを一番に考える皇帝を据えてやる!
クソ親父が目の前にやって来る。
「お父様に挨拶なさい」
「初めまして、父上」
クソ親父と会うのは二度目らしいが、俺にとっては初も同然なので初めましてと名乗った。
クソ親父が眉根を寄せる。
「此奴に会うのはこれでニ度目のはずだぞ」
「すみません陛下。スピラル、謝りなさい!」
「母上、俺はこのおじさんに会うのは初めてです」
「むう、ちゃんと躾けておけ」
「はい!申し訳ありません!」
「フフフ」
皇后陛下が淑やかに笑う。
「なんだ、リベルテ?」
「陛下、幼子にそんなにムキにならないでくださいませ」
「幼子とはいえ、第一皇子だ。躾けは早いうちからせねばなるまい」
「第一皇子とはいえまだ三つですわ」
「……むう、其方がそういうのであれば仕方あるまい」
「陛下、私から殿下に挨拶をしても構いませんか?」
「構わぬ」
「殿下、私はリーブル・アンビール。お父上の弟です。これからよろしくお願いしますね」
赤毛に銀色の瞳をした凛々しい青年だ。俺の叔父さんらしい。完璧なリーブルのお辞儀に、俺は精一杯の丁寧なお辞儀を返した。
「リーブル様、スピラルです。今後ともよろしくお願いします」
「フフフ」
今度は皇后陛下が楽しそうに笑った。白金の腰まで伸びた長い髪の琥珀色の瞳をした女性。
「スピラルはやれば出来るじゃありませんの」
顔を真っ赤にして怒る皇帝。
「フンッ!可愛くない奴だ!もうよいわ!此奴を連れて帰れ!」
「何をおっしゃるのですか? 陛下、今日の主役はスピネルですよ」
「むうッ!余が帰るわ!続きは貴様らでやっておけ!」
皇后陛下が宥める。
「まあまあ。大人げないですよ、陛下」
「しかしだなぁ……」
「スピネル、もう一回陛下に挨拶してごらんなさい」
こっちも大人げなかったなと思い直し、俺は挨拶をやり直した。
「お久しぶりです、父上」
俺はクソ親父に向かって丁寧にお辞儀をする。
「よい。余が大人げなかった。久しぶりじゃな」
俺はクソ親父の弱点は皇后陛下であることを察した。前世であまり関わらなかった皇后陛下だが、今世では仲良くしようと思う。




