商談
俺はミケとアルシュ商会大旦那シェルシェール・アルシュ、そしてスラムの顔役ノマッドと俺の家で商談をまとめていた。
「ミスリルの延べ棒一キログラムで白金貨一枚というところでしょうか」
ゴクリと唾を飲み込むノマッド。
「この七割を猫獣人の方々に渡して、残りの三割から一人金貨百枚を移住者に渡すことになります」
「国に入るお金は一キログラム金貨二千九百枚というところでしょうか」
「アルシュ商会にはいくら入りますか?」
「一日で取れるミスリルは三十キロほど。私達はミスリルの延べ棒一キログラムから白金貨一枚と金貨千枚を稼いでみせましょう」
「なるほど。金貨千枚を寄越せということですか」
「ハハハ。これは手厳しいですな」
腕組んで考える俺。
「いいでしょう。それでいきましょう」
「はい。是非よろしくお願いします」
俺達が商談を終え、外へと出ると皇室の紋様が入った馬車がやって来た。馬車の周りを騎士団が囲んでいる。
俺は深く溜息を吐いた。
馬車から皇后陛下が降りてくる。
馬車の前で地に膝をつける俺。
片手を小さく上げ、言葉無く「よい」と伝える皇后陛下。
「立ちなさい、スピラル」
「はい」
立ち上がり土を払う俺。
「陛下。とりあえず俺の家にお越しください」
「行きましょう。アルシュ、あなたも来なさい」
「はい。陛下」
俺は皇后陛下を巨木で積み重ねて出来たログハウスの自宅に招く。
俺は皇后陛下に椅子を勧める。テーブルを挟み、俺が対面で座る。アルシュは俺の隣に座らせた。ファスが陛下の斜め後ろに立って控える。
ミケが慌ててお茶を出してくる。
「ミケ、ありがとう」
「はい、ですにゃ」
皇后陛下が口を開く。
「なんでも、ミスリルが見つかったとか」
「はい」
「なぜミスリルの件を伝えなかったのです?」
「それは……ミスリルが猫獣人達の物だからです」
「ですが、帝国内で見つかったミスリルでしょう」
「陛下。ミスリルが帝国内で見つかった物であっても、猫獣人達の自治区で見つかった物なのです。第一の所有権は自治区を治める猫獣人達にあります」
「それでも、売り上げの七割を猫獣人に与えるのは多過ぎるのではありませんか」
「陛下。元々の売り上げは本来10:0ですよ。そこから三割も得ているのですから、充分ではありませんか」
「アルシュ、アナタの意見が聞きたいですわね」
「皇后陛下、スピラル様のおっしゃる通りです。ここの洞窟のミスリルは、猫獣人の村の方々には既知の物でした。それを敢えて譲ってくれたのです。取り分は妥当な物かと」
皇后陛下は眉根を寄せる。
「むう……ですが、納得いきません。なぜです? 嗜好品の予算を削っておいて、なぜ得られる物を得ようとしないのです?」
「それなのですが、嗜好品の予算を補う金額は得られるようになりました。なので、期待しておいて下さい」
「増やせるのですか?」
「はい、白金貨二百枚をプラスして三百枚を年間予算にするのはどうですか?」
驚愕する皇后陛下。
「三百枚も? ミスリルの元の金額はいくらなのです?」
「一キログラムで白金貨一枚ほどです」
「はい?」
「一キログラムの延べ棒で白金貨一枚です」
「それは……一キログラムで猫獣人の村に金貨七千枚も入るのですか?」
「そうなりますね」
身体をプルプルと震わせる皇后陛下。
「それはおかしいですわ!」
俺はすかさず返答する。
「なぜです? ミスリル鉱石はいずれ尽きます。それをお金に変えて保管しておく権利が猫獣人にはあるはずです」
「それはそうですが……猫獣人の村にこれだけお金が有るのも危なくはないのですか」
「それは一部をアルシュさんの銀行に預けるから大丈夫です。それに、その為に外壁を分厚くして要塞化しましたから」
「襲ってくれと言っているようにも見えますが」
「それは……やり過ぎましたかね?」
「スピラル、アナタの仕業でしたか」
「はい、水魔法のウォーターカッターで石を切り出して積み上げました」
唖然とする皇后陛下。
「スピラル、アナタは何者ですか?」
「アンビール帝国の第一皇子でただの魔法使いです」
プッと吹き出す皇后陛下。
「ウフフフフフッ」
「何か変なことでも言いましたか?」
「フフ、フフフッ!いいえ。アナタはやはり大魔法使いですわね!」
「ただ石を切り出して、横に並べただけですが?」
口を両手で覆い、必死に笑いを抑え込む皇后陛下。
「石を水で切ることなんて、どこの高名な魔法使いでも出来ませんのよ」
「洞窟の中、露が一滴一滴垂れて石に穴を穿つ景色を見て作り出した魔法ですよ」
「他にも魔法があるのでしょう。是非披露して頂きたいですわ」
「それじゃあ、まずは城壁の石を運ぶ際に作った魔法『フロート』」
俺は『フロート』と呟くと、手を四角の石に当てた。安山岩と呼ばれる石だ。
石は俺の手から離れると、要塞のてっぺんに積み上がる。
「まあ、あんなに重い石を浮かべることが出来るのですか」
「『フロート』には重さは関係ありません。小さな砂粒から大きな山まで浮かせることが出来ます」
「山までですか? それはさすがに言い過ぎでは?」
「そうですね。試したことはないので、あくまでも仮定の話しですが」
皇后陛下は息を飲んだ。




