別視点 リベルテ皇后
わたくしがお茶を楽しんでいると、侍女がスピラルの話を持ってきた。
「スピラルがスラムの住人達をどこかに連れて行ってるですって?」
「アルシュ商会と協力して帝都の外へと連れ出しています」
わたくしは顎に手を当てて思索に耽るが、答えが出ない。
魔導士フォールにスピラルの家庭教師をお願いしたものの、スピラルは城におらず魔導士フォールは怒って帰って行った。なんでも従者の猫獣人ミケの村へと行っていたとか。
「あの子は一体何をしようとしているの?」
わたくしはスピラルの動きが気になった為、間者をスラムの住人に紛れ込ませた。
※※※
「ミスリル鉱山ですって!」
間者が探ってきた詳細はこうだ。
スピラルがミケの里帰りに付いて行った。
ミケの祖父である村長と仲良くなった。
洞窟に案内された。
ミスリル鉱石を発見した。
ミスリル鉱石を掘る人材が必要になった。
スラムの人々に鉱石を掘らせることにした。
スラムの住人が住む村は整備済み。
アルシュ商会がドワーフの従業員にトロッコを作らせ、製鉄の技術をスラムの住人に教える。
アルシュ商会に売買をさせ、元から住む猫獣人には7割の利益を。帝国には3割の利益を。鉱山の開拓村の住人になったスラムの民には、帝国の3割から月の収入一人当たり金貨100枚を渡すこととなったらしい。
話しを聞いていたわたくしは眉間に皺を寄せるのを抑えられなかった。
「これでは嗜好品を白金貨200枚から100枚にした理由がわからないですわね」
「ひいッ」
わたくしの渋面を見て間者が悲鳴を上げた。
「あら、どうしたのかしら?」
「す、すみません!なんでもありません!」
「これは、スピラルに問い質さねばなりませんわね」
「そ……それが、スピラル様は開拓村の事実上の統治者として滞在することに……」
「なんですって!?」
わたくしは怒りのあまりハンカチを噛みちぎろうとする。
「お、落ち着いてください皇后陛下……」
「私は落ち着いていますわ!」
「は、はい……」
「わたくしが直接スピラルの元に行ってきますわ」
「それは危険です!陛下」
「いいえ、わたくしにはスピラルと話をする義務がありますわ」
怒りが落ち着いてきたので、私は冷静に侍女に指示を出した。侍女の名前はファスと言う。
「ファス、馬車と騎士団と官僚を一名準備させなさい。今からスピラルの元へ行きますわ」
カーテシーをするファス。すぐに動き出す。
※※※
皇室の紋章が刻まれた馬車に乗って、わたくし達はとりあえず猫獣人の村に向かった。
猫獣人の村は思いの外栄えていた。
綺麗に四角に切られた石材を積み重ねて防壁が作られている。門番が帝国の旗を掲げていた騎士達を見て、すぐに跳ね橋を下ろす。
跳ね橋が下ろされてすぐに帝国騎士団が村へと入って行く。続いてわたくしが乗った馬車も村へと入って行った。
村の家々はログハウスという建築物で、どれも立派な造りをしていた。一本一本の丸太が大きいのも影響しているのだろう。荘厳な光景だった。
門を抜けると、老いた猫獣人がわたくしを迎える。
馬車の前で膝をつける老いた猫獣人。まずはファスが降り、わたくしは馬車から降りるとファスに耳打ちする。ファスが誰何する。
「あなたは何者ですか?」
「私は村長のサイベリアンです。アナタは高貴な御方とお見受けしますが」
わたくしは扇子を広げると口元を覆う。代わりに隣に控えたファスが答える。
「この方はアンビールのリベルテ皇后陛下です」
村長は驚いて頭を地につける。
「皇后陛下とは露知らず、失礼致しました」
わたくしはファスに伝言をする。ファスが答える。
「頭を上げなさい。とりあえず休めるところはないかと、おっしゃられております」
「是非我が家へお越しください。精一杯のおもてなしを致します」
わたくしは馬車の中へと戻ると、ファスに案内するようにと伝言した。
しばらく進むと、村の中央に着く。そこには一段と大きなログハウスがあった。
ファスが降り、わたくしが続く。わたくしの周りを騎士が囲み、官僚一名と一緒に村長宅へと入って行った。
リビングらしい大きな部屋へと案内される。ここは村の有力者が話し合う場所も兼ねているとか。大きな円卓を挟んで椅子がずらりと並んでいる。
わたくしが案内された椅子に座ると、対面に村長が座る。官僚が私の隣に座ると、ファスは後ろに控えた。家人がお茶を運んで来る。
わたくしは出されたお茶を一口飲む。
「さて、話を聞かせて頂けるかしら?」
わたくしは威圧を放って言葉を発する。ビクッとする村長。
わたくしは村長がスピラルと話したことや、調印書を見せてもらった。
「これは……確かにスピラルの名前が入っておりますね」
「はい。これを持って調印式を行いました」
「しかし、まだ五歳児の調印は無効になると思いませんでしたの?」
「殿下はしっかりしておられますし、許可は得てくると言って頂きましたので」
官僚が答える。
「陛下。お言葉ですが、これは正式に認められております」
「なぜです?」
「殿下が調印書を持ってこられて、官僚達が陛下に印を求めた際、陛下の手によって確かに裁可されました」
わたくしは深く溜息を吐く。
「あの無能陛下……」
「ですから、この調印は無効にはなりません」
「はあ、分かりました。それならやはり直接スピラルと話しをしてこようと思います」
わたくし達は洞窟側の新しい村にあるスピラルの家に向かうことにした。




