第26話(最終話):隣の未来
「……あのキャンプ、高橋とも班が離れちゃって、最初の説明会の時から“つまんないな”って拗ねてたんだ」
ゴエモンが少し照れたように笑いながら言った。 私はその言葉に頷いて、思い出を重ねる。
「私も、タケルくんに連れられて行ったから、他に友達なんていなくて……結局別の班になっちゃって、心細かった」
二人の記憶が重なっていく。
「でも、あの時隣に座ってくれた女の子のおかげで、とても楽しかった」
ゴエモンがそう言うと、胸の奥がじんわり熱くなる。 私は思わず笑みをこぼした。
「ふふっ」
「犬に吠えられた時は怖かったけど、その子を守らなきゃって思ったら自然に体が動いて……隣にいた」
ゴエモンの声は少し震えていた。 その記憶は、私の中でも鮮やかに残っている。
「でも結局怖くて泣いちゃった。助けてくれたのは姉ちゃんだったし、本当カッコ悪いよな」
私は首を横に振って、静かに言った。
「そんなことない。カッコよかったよ」
ゴエモンは少し目を見開いてから、照れくさそうに笑った。
「……あの時もそう言ってくれたよね。“石川五右衛門みたいだ”って。俺、それが嬉しくて、それ以来みんなに“ゴエモンって呼んで”って言いまくってた」
私はその言葉に、胸が温かくなるのを感じながら答えた。
「じゃあ、私が名付け親ってことだね。嬉しい」
ゴエモンは少し息を整えてから、ふっと表情を曇らせた。
「でも――その子はキャンプ以降、どこにもいなかったんだ」
「同じ小学校にもいなかったし、町内の行事にも出てこなかった。名前も聞いてなかったから、探すこともできなかった」
私は少しだけ目を伏せてから、顔を上げた。
「ゴエモン、北小でしょ?私南小だったから」
「え?」
「キャンプは、北小の校区の親戚の家に遊びに来てた時に、“せっかくだから一緒に行こう”って連れてってもらったの」
ゴエモンは思わず息を呑んだ。
「じゃあ……あの時だけ?」
私はふっと笑ってうなずいた。
「うん。あの夏休みだけ。でも、すごく楽しかったから、ずっと覚えてた」
その笑顔には、懐かしさと嬉しさが混ざっていた。
私は少しだけ空を見上げて言った。
「小学3年の時に、町民体育館で“ゴエモン”って呼ばれてる子を見かけたの。ミニバスの練習してて、すぐにわかった。あの時の子だって」
「犬に吠えられて泣いてたけど、隣で踏ん張ってた、あの子だって」
「……あの時から、ずっと好きだったから」
ゴエモンは少し息を呑んでから言った。
「……じゃあ、俺たちの初恋は、あのキャンプの隣の席から始まってたんだな」
私はふっと笑った。
その笑顔を見て、ゴエモンが言った。
「これからも、ずっと隣にいてほしい。俺、隣に山口がいると、ちょっと強くなれる気がするんだ」
その言葉に、胸が熱くなる。 私はどこか照れくさくて、でも確かに嬉しくて――静かに答えた。
「……うん。隣、空けといてね」
午後の光が、静かに揺れていた。 昔の記憶と、これからの時間が、ゆっくりと重なっていく。




