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初恋は隣の席から  作者: 水無月菜乃花
山口編

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第11話:隣の合図

コンサート当日。


私はひよりちゃんと二人で、待ち合わせ場所のマックに向かっていた。


「なんで高橋くんが来るのよ。聞いてないんだけど」


ひよりちゃんがちょっとだけ不満そうに言う。

でも、歩く足は止まらない。むしろ、いつもよりちょっとだけ軽い気がした。


「そんなこと言って、嬉しいくせに。今日なんかおしゃれしてない?」


「してないし。マミこそ、髪型いつもと違うじゃん。ワンピースも新しいやつでしょ?」


「……うん、まあ、ちょっとだけ気合い入れたかも」


「なによ、それ」


ひよりちゃんが笑う。

私も笑う。

でも、心の中ではちょっとだけ真面目に思っていた。


――今日は、ひよりちゃんと高橋くんのために動くって決めてる。

二人が自然に話せるように、空気を整える。それが私の役目。


だからなのか、初めてゴエモンとお出かけするのに、不思議と緊張はしていなかった。

目的がはっきりしているから、心が落ち着いている。


いい日になる。

そんな予感がして、私は少しだけ歩幅を広げた。


※※※


マックの前に着いた瞬間、二人の男子が目に入った。


「え、高橋くん……なんか今日、気合い入りすぎじゃない?」


ひよりちゃんがすかさず声をかける。

ジャケットに革靴、髪もセット済み。完全に“デート仕様”だ。


……いやいや、演奏会ってそんな感じだったっけ?


高橋くんは得意げに笑った。


「そりゃそうでしょ。酒井さんに会うんだから」


「え〜、そういうタイプだったんだ」


その瞬間、空気が変わった。

ひよりちゃんが照れて笑い、高橋くんはまっすぐその笑顔を見ている。


……え、なにこの空気。

もう好きって言ってるようなもんじゃん。

ひよりちゃんも、ちゃんと受け取ってるし。


今日いけるでしょ、これ。

付き合ってない方が不自然なくらい。

私、やることなくない?


……と思った瞬間、急に意識が切り替わった。


あれ、今日ってゴエモンと一緒に出かける日じゃん。

初めてじゃん、それ。


そう思って隣を見ると、ゴエモンは――まさかの制服姿だった。


「ゴエモン、制服なんだ〜」


思わず声が出た。

夏休みなのに制服?と一瞬びっくりしたけれど、見慣れた姿だったからか、なんだかほっとした。


“いつもの感じ”で隣にいてくれるのが、ちょっと嬉しい。


ゴエモンは少し照れながら答えた。


「演奏会って、制服が常識って姉ちゃんに言われて……みんなそうかと思って」


ひよりちゃんが肩をすくめて言う。


「そんなことないよ? 私服で来る人の方が多いと思うけど」


ゴエモンの動きが一瞬止まった。


「……俺、完全に信じてたんだけどな」


……花束の時もそうだったけれど、ああいうところ、本当に素直だなって思う。


私はふっと笑って言った。


「でも、似合ってるよ」


それは、間違いなく本心だった。

制服姿のゴエモンは、素直にカッコよかった。


すぐ隣では、高橋くんとひよりちゃんが笑いながら言葉を交わしていて、なんだか楽しそうだった。


その様子を見て、胸の奥がふわっとあたたかくなる。


……うん、もう大丈夫そう。

橋渡し役は、必要なかったみたい。


だったら、私も普通に楽しもう。

せっかく来たんだし。


「じゃあ、マック行こっか」


私が言うと、ひよりちゃんが「行こ行こ〜!」と笑って立ち上がった。

そのまま店の方へ歩き出す。


並びながら、ふとひよりちゃんに声をかけた。


「……いい感じじゃん」


「え、何が?」


「高橋くんのこと。あれ絶対、ひよりちゃんのこと好きでしょ」


ひよりちゃんが一瞬止まり、「そんなこと……」と小さく言ってから、ちらっとこっちを見た。


「やっぱりそう思う?」


その声は、ちょっとだけ期待混じりで、でも素直にはなれない感じ。

私は笑ってうなずいた。


「そんなことより、そっちこそゴエモンとうまくやりなさいよ」


「え、私?」


「だってさ、さっき制服姿見たとき、ちょっと顔に出てたよ。カッコいいって思ったでしょ?」


「……思っただけで、言ってないし」


「でも、顔には書いてあった」


「……うるさいな」


笑いながら注文を済ませて、男子二人に「席取っとくねー」と声をかける。

店内の奥へ向かう途中、ふと振り返ると、彼らは並んでメニューを見ながら何か話していた。


ひよりちゃんと並んでテーブルに向かう。

席の横に立った瞬間、ひよりちゃんが何気なく隣に座ろうとした。


私はそれを見て、さっと向かいの席に座る。


「え? そっち座るの?」


「隣は高橋くんの方がいいでしょ。来たらちゃんと誘ってよね」


「何よそれ〜。じゃあマミは、ゴエモンが来たら誘えるの?」


「さ……誘えるわよ」


言いながら、ストローの袋を破る手が少しだけぎこちなくなる。


ひよりちゃんはニヤニヤしているけれど、何も言わずに向かいに座った。

私は何気ないふりでトレーを置き、隣の席を空けておく。


注文カウンターの方で、ゴエモンがトレーを受け取るのが見えた。

彼がこちらに向かって歩き出す。一瞬、心臓が跳ねた。


……ほんとに来た。


ゴエモンが少しだけ立ち止まって、視線を泳がせる。

私の隣か、ひよりちゃんの隣か。


その一瞬、空気が張りつめる。


私は、できるだけ自然なふりをして、隣の席をポンポンと軽く叩きながら言った。

挿絵(By みてみん)

「ゴエモン、こっちおいでよー」


いつも通りを装ったつもりだったけれど、心臓はずっと跳ねていた。


彼はうなずいて、静かに隣に座った。

その瞬間、少しだけ肩の力が抜ける。


高橋くんが少し遅れて席に来て、ひよりちゃんの隣が空いているのを見る。

ゴエモンと目が合って、ニヤリと笑い、そこに座った。


「グッジョブ、ゴエモン」


ひよりちゃんが笑いながら言う。


「なにその反応、男子ってほんとわかりやすいよね」


……いや、そっちもだいぶわかりやすいけどね。


私はストローをくるくる回しながら、そのやりとりを聞いて、ちょっとだけ口元が緩んだ。


その後の会話は、本当に他愛もないことばかりだった。


でも、なんだろう。

全部がちょっとだけ特別に聞こえた。


好きな人と隣に座って、親友とその好きな人が向かいにいて。


それだけで、なんだかもう、幸せだった。


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