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初恋は隣の席から  作者: 水無月菜乃花
ゴエモン編

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第10話:隣の相棒

挿絵(By みてみん)

体育館にボールの音が響く。今日は部活の日。

俺は時間通りにそこにいた。


でも、心ここにあらず。体は動いているのに、頭の中はずっと――“あの件”でいっぱいだった。


女子と外出なんて、今まで一度も経験がない。

なのに、今回は二人と一緒に行くことになっている。


……いや、待てよ。逆に“一対一”よりは難易度が低いのか?


二人なら会話も分散するし、沈黙も怖くない。

でも、俺がその真ん中に立つってことだよな。

女子二人に挟まれて歩く自分を想像しただけで、嫌な汗が出てくる。


もうテンパりすぎて、何が正解かもわからない。

昨日なんて、焦りすぎて姉ちゃんに「一緒に来て!」と頼み込んでしまった。


「はぁ? あんた何言ってんの? 私、演奏する側なんだけど」


ポテチを吹き出しながら爆笑された。

あれは今年一番の屈辱だったかもしれない。


……無理だ。このままじゃ、俺のメンタルが持たない。


だから、もう一人。気を遣わずに済む相手を誘うことにした。


……問題は、誰を誘うか、だ。


「ゴエモン、あぶない!」


声が飛んだ瞬間、ボールが俺の脇腹に当たった。


「……いって」


反射的に手で押さえながら振り返ると、佐伯がニヤニヤしながら近づいてくる。


「何ぼーっとしてんの。今の、避けれたでしょ」


「いや、ちょっと考え事してて……」


「考え事? ゴエモンが? めずらし」


「うるさいな……」


佐伯はボールを拾って、俺の隣に腰を下ろした。


「てかさ、こないだの試合、ちょっと活躍してたじゃん」


「え?」


「いや、マジで。二年から始めた割には、なんか動き良くなかった?」


「……なんだよそれ、褒めてんのか。急にどうした」


「どうもしないけど、まあ“思ったよりやるじゃん”って感じ?」


「おい、今までどう思ってたんだよ」


「……部活の空気担当?」


「それはそれで失礼だろ」


俺は思わず笑ってしまった。


佐伯は、こういう“どうでもいい話”をするのがうまい。

何も考えずに聞いていられるし、気を遣わなくていい。


……佐伯、誘うか?


気楽だし、俺のこともよく知っている。

女子二人に挟まれるよりは、佐伯がいてくれた方が絶対に楽だ。


でも――山口と酒井さんは、佐伯のことを知らないはずだ。


女子二人と出かけるだけでも十分ハードなのに、そこに佐伯まで加えたら空気はどうなる?


……たぶん、佐伯の方が気まずくなる。


知らない者同士が並ぶのは、案外しんどいものだ。

俺が楽になるからって、他の誰かが気まずくなるんじゃ意味がない。


だから今回は、誘わない。


「また先輩にタメ口か〜」


背後から、軽く笑うような声が飛んできた。


振り返ると、高橋がボールを片手に立っていた。

冗談っぽく言っただけなのに、佐伯は一瞬で背筋を伸ばす。


「す、すみません……!」


声のトーンまで変わって、さっきまでのノリが消える。


俺は苦笑いしながら、佐伯の肩をぽんと叩いた。


「いいって。そんなの気にすんなよ」


高橋はボールを指でくるくる回しながら、ニヤリと笑う。


「いやいや、俺は別に怒ってないけどさ。ゴエモンが甘すぎるんだよな」


「俺は、やりやすい方がいいだけだから」


「……らしいな、それ」


高橋はそう言って、俺の隣に腰を下ろした。

ふと佐伯が戻っていったコートの方を見て、ぽつりとつぶやく。


「一年、楽しそうにやってんな。二年と一緒に練習できるの、けっこう嬉しいんだろうな」


「まあ、そりゃそうだろ。試合出られる可能性もあるしな」


「上手けりゃ、ワンチャンでレギュラーもあるかもな。あいつら、けっこう燃えてる感じするし」


「……だろうね」


高橋は少し間を置いて、俺の方をちらっと見た。


「でもさ、あいつら、お前が言い出したって知らないんだろ?」


「……まあ、言ってないし」


「顧問が『二年と練習するか?』って聞いてきたときさ、お前が『それなら一年も一緒に』って言っただろ。

あれで、今まで当たり前だった流れ、ちょっと変わったんだよ」


「いや、別に深く考えたわけじゃないよ。俺が一年と一緒の方が慣れてるし、やりやすいと思っただけ」


「それでも、結果的にみんな助かってる。そういうの、ちゃんと伝えた方がよくね?」


「……いちいち言うなよ。大袈裟だし」


高橋はニヤリと笑って、ボールを軽く投げた。


「ま、らしいな。ゴエモンって、そういうとこあるよな」


俺は苦笑いしながら、ボールを拾いに行く。


(……そういや高橋、こないだ酒井さんのこと可愛いって言ってたな)


その言葉がふと思い浮かんで、つい口が滑った。


「高橋って、酒井さんと知り合い?」


高橋が即座に反応した。


「酒井? 去年同じクラスだったけど……どうした、なんかあったの!?」


食いつきが早すぎて、俺は一瞬たじろぐ。


「いや、別に……」


「いやいやいや、なんかあるだろ。急に名前出すってことは」


「……今度、コンサート一緒に行くことになって」


言った瞬間、高橋の目が見開いた。


「は!? マジで!? それ、どういう流れ!? どこで!? いつ!?」


「山口と話してて、酒井さんも行きたいって言ってて……気づいたら三人で行くことになってた」


「お前、女子二人とコンサート!? それ、なんのご褒美だよ!」


「いや、別にそういうんじゃ……」


「いやいやいや、それズルいって! 俺も行きたい! チケットある?」


「……ある。姉ちゃんがくれたので余ってるの、一枚だけ」


「じゃあ俺がその一枚、もらうわ。行く! 絶対行く!」


高橋はボールを脇に抱えながら、満面の笑みで言った。


「持つべきものは親友だな」


俺はため息をつきながら、心の中で思った。


――口は滑ったけど……まあ、悪くないかも。


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