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第93話:漆黒のドームに溢れる芳香の霧(と、一口で脳のニューロンを融解して隷属化させる経口アロマ神経毒)

「……アリス、聞こえる? 私たちのQOL(生活の質)メーターが、この完成したイングリッシュガーデン(第91話)と至高の枯山水(第92話)を前にして、これらと完全に調和(マリアージュ)する『極上のハーブアロマディナー』を激しく要求しているわ……」

「聞こえるわエレン。というか、共有されている私の大脳皮質も、もぎたてのフレッシュバジルやローズマリーをふんだんに使った『香ばしいイタリアンハーブピザ』と『特製骨付きハーブチキン』をテラスで貪り食えと、かつてない食欲のパルスを送信し続けているわ。庭園DIYの仕上げは、バイトメンバー全員を巻き込んだ『お披露目収穫祭テラスパーティー』よ!」


シルバーストーンQOL巨大観光特区のリビング。

完璧に除湿されたドライ空間(第65話)でハチミツレモネードを飲んでいた銀髪の双子は、脳内の専用回線(テレパシー)をかつてない「ハーブ・ピザ熱」で同期させていた。


前世は三十代の理科教師、成瀬健一。

ただハーブをちぎってピザに乗せるだけでは、理系オタクDIYヤーの名が廃る。

目指すは、有機化学と界面化学を極限までハックし、ハーブの香気成分を1ミリグラムも熱分解させずに生地と肉に閉じ込める「過熱水蒸気・アロマドームベイク」の完成である。


「いい、エレン? バジルやローズマリーに含まれる香気成分の主役はね、揮発性のモノテルペノイド――『シネオール( C₁₀H₁₈O )』や『リナロール( C₁₀H₁₈O )』よ! これらは加熱しすぎると熱分解して不快な焦げ臭に相転移(そうてんい)してしまうわ。だから、アリスの分子スキャンで、ハーブの香気成分が最も活性化している『奇跡の瞬間』を特定して収穫するのよ!」

アリス(理論・設計・分子計算担当)が脳内の黒板にテルペノイドの化学構造式を書き殴り、共有視界に投影する。


「さらに、ピザ窯(第2話仕様)の熱対流よ。界面化学に基づき、精油(エッセンシャルオイル)を生地や肉の油分(脂質)に効率よく溶け込ませる親和性計算を行うわ。エレン、第85話仕様のチタン製ドームカバーをピザ窯にセットし、内部を過熱水蒸気で満たして、摂氏160℃の一定温度(メイラード反応の最適温度)で一気にドームベイク(蒸し焼き)して!」

「最高よアリス! 設計図ロックしたわ。メイラード反応、アミノ酸と還元糖の熱縮合反応ね。私の『魔力サーモスタット・微小熱対流モード』で、ノズルの蒸気圧と熱量を1秒の狂いもなく完全制御してあげる!」


エレン(実技・精密加工・物理演算担当)の指先から、バチバチと頼もしい魔力放電が散る。

一人が「有機・界面化学シミュレーター(ソフト)」、一人が「チタンドーム過熱蒸気制御(ハード)」。

双子の超絶同調(デュアル・コア)により、庭のテラスに設置されたピザ窯は、怪しげなチタンのドームカバーから「シューーーーーッ!!」と不気味な高圧蒸気を吐き出す、異次元のアロマベイクマシーンへと変貌を遂げた。


◇


数時間後、極上庭園のテラス席。

月明かりの下、ハチミツの甘い香りと、ローズマリーやバジルの強烈に香ばしい「極上のハーブアロマ(※いい香り)」が立ち込めていた。


「さあ、第一陣焼き上がったわよ! 『シルバーストーン・アロマドームピザ』と『ハーブチキン』よ!」

エレンが、チタン製の巨大なコテ(第85話仕様)を「ボウッ!」と派手に魔力の火柱を上げて振るい、アツアツのピザをテーブルに次々と並べていく。


「「「双子様、万歳!!!」」」


サウナハット(第51話仕様)を被ったアルドや、すっかりコタツ(第65話仕様)とビールの虜になったイゾルデ(元聖騎士)、そして150名の元騎士のバイトメンバーたちが、

「ハフッ、ハフハフ……! な、何だこの香ばしさは……!」

「お口の中にハーブの森が広がっているわ……! 脳みそがとろけそうよ……!」

と、完全にうっとりとして涎を流し、恍惚とした表情でピザを頬張り、ビールを煽っていた。


◇


その頃。

極上庭園の生垣、美しくライトアップされた薔薇(第91話仕様)の影。

王都の重臣から「アストレア公爵領を洗脳した双子の最高機密を探れ」と命じられて潜入していた、新入りの王都最高査察使(エリート官僚)。

彼は、目の前のテラスで繰り広げられている「光景」を望遠鏡で覗き込み、恐怖で全身の毛穴を開かせて絶叫した。


「お、おい……嘘だろ……。奴ら、ついに……」


査察使の視界には、

ハーブの強烈な、嗅ぐだけで頭がクラクラする不気味な「謎のアロマの霧(※ただのピザのいい香りです)」がモウモウと立ち込めるテラス。

そこで、ビキニジャージを着た小さな悪魔(エレン)が、巨大なコテ(※ただのピザ用コテです)から不気味に火柱を上げて、黒いチタンのドーム(※ただのカバーです)から「シュウウウウッ」と不気味な煙を吐き出させながら、

謎の「黄色い円盤(※ピザです)」を次々とテーブルに放り投げている光景。


さらに恐ろしいのは、

その円盤を口にした、王都の精鋭だったはずのイゾルデやアルド、そして150名の元騎士たちが、

全員目をトロンとさせ、うっとりとヨダレを流しながら、

「双子様万歳! 双子様万歳!」と、

完全に自我を失ったかのように狂信的な歓声を上げている光景だった。


「ま、間違いない……!」

査察使は、恐怖で顔面を土気色にし、その場に崩れ落ちた。


「あれは……一嗅ぎで人間の大脳ニューロンを融解させ、その芳香の奴隷(オートマトン)にして従順な操り人形に変える、新型の経口アロマ神経毒――『アロマ・ブレイン・バスター』の洗脳儀式だ……!!!!! 捕らえられた騎士たちが、すでにあの毒ピザの虜にされて操られている! あの甘く香ばしい匂い……一嗅ぎしただけで、私の、私の胃袋の理性が……崩壊していくぅぅぅ!!」


ただの「もぎたてバジルの美味しいハーブピザ」なのだが、王都のエリート査察使にとっては、一口で人間の脳をハッキングして奴隷にする、最悪の経口化学兵器にしか見えなかった。

あまりの恐怖、そして何より「お腹の底から湧き上がる暴力的なまでに美味しそうな匂い」に脳の満腹中枢をダイレクトにハッキングされ、

査察使はヨダレをダラダラと垂らしながら、命からがら、すぐ近くにあった別棟の「コタツプレハブ(除湿ドライモード・第65話仕様)」へと吸い込まれるように逃げ込んだ。


「ひ、ひぃぃぃ! 助けてくれ! 脳が……脳の理性が、あの匂いで溶かされるぅぅぅ!!」

ガラッ! とドアを開けてコタツに飛び込む査察使。


だが、そこは世界で最も快適な「サラサラ乾燥コタツ(第65話仕様)」の内部だった。

足を踏み入れた瞬間、極限の緊張から一転、全身を包み込むのはコタツの魔のぬくもり。


「あら、野良の査察使さんが、私のコタツに迷い込んできたわね」

コタツの中から、アリスがアツアツのピザをフォークで突き刺し、にやりと笑った。


「あーーーんして、査察使さん。これ、シネオールとリナロールの親和性が完璧だから、すっごく美味しいよ!」

「ひ、ひぃっ!? 経口アロマ神経毒の直撃……くっ、私は王都の栄誉に誓って、絶対に屈し……ハフ、ジュワッ……」


エレンに強引に口の中にピザを突っ込まれた。その瞬間。


――ジュワァァァァァァァッ!!!


「極楽(QOL)じゃあぁぁぁぁぁぁぁぁん!!! Resigned(完全敗北)ですぅぅぅぅぅっっっ!!!」


査察使の口から、およそ王都の最高査察使とは思えない、魂の底からとろけた奇怪な絶叫が漏れ出た。


「な、何これぇぇぇ! 歯を当てた瞬間、チタン製ドームで過熱蒸気ベイクされた生地が『サクッ、もちもちっ』と完璧な食感で弾け、中から最高にフレッシュなバジルとローズマリーの香気成分が、アミノ酸の旨味と共に口内で大爆縮(メイラード反応)を起こすわ! そして、この冷たいビール(第6話仕様)を流し込むと……、冷熱とアロマのマリアージュで、私の大脳新皮質が完全に融解(ハック)されるぅぅぅ!!」


あまりの美味しさと、除湿コタツのサラサラとした快適さに、

査察使は涙とよだれをダラダラと流し、コタツの布団をギュッと抱きしめた。


「もう……王都の任務なんて、どうでもいいわ……。私、このままこのコタツの『お掃除ロボ(第36話仕様)メンテナンス班』の仲間になります……。から揚げと、このアロマピザを毎日食べさせてくださいぃぃぃ……」


査察使は、白目を剥いて幸せそうな笑顔を浮かべ、コタツの上にへなへなと崩れ落ち、完全降伏(昇天)した。

こうして、王都から送り込まれた最新の査察使も、ピザ一枚で無事にお掃除ロボバイトメンバーへと追加雇用されたのだった。


◇


深夜。

パレードのような収穫祭も終わり、

完璧に除湿されたコタツの中で、ハチミツレモネードを啜りながら、ぬくぬくと暖まる双子。


「ぷはぁー! やっぱり、お庭で収穫したてのハーブをハックした後の、冷たいレモネードは脳髄のQOLを極限突破させるわね、アリス」

「ええ、エレン。モノテルペノイドの熱変性コントロールと、過熱水蒸気ドームベイクの数理モデルの完全勝利よ。これで私たちの極上庭園QOLは、年中無休で『バラとアロマの帝国』として維持されるわね。科学の完全勝利よ」


「「ふふふふ……」」


お互いのツルツルキューティクル(第40話)の髪を揺らしながら、大はしゃぎでハイタッチを交わす小さな双子。


窓の外では、月明かりの下、新しく目隠しをしてバイトメンバーに加わった査察使が、

「このアロマピザ、実にお口のQOLが高い……」

と、幸せそうな笑顔で、木製のお掃除ロボ(第36話)と並んでテラスの片付けをしていた。

新章を迎えたシルバーストーン特区には、目に見えない「極限の有機化学・界面化学技術」と、隣領の貴族や王都の役人たちを「一嗅ぎで脳をハックされて双子の奴隷にされる、恐るべき経口アロマ神経毒の噂」が、優しく、そして最高にお気楽に広がり続けるのだった。

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