第92話:白砂に引かれた不干の魔線(と、重力を狂わせて侵入者を圧殺する古代の防衛結界ジオ・ストーン・ヘンジ)
「……アリス、聞こえる? 私たちのQOL(生活の質)メーターが、おでん(第72話)やラーメン(第57話)といった極上の『和食』を胃袋に流し込んだ結果、大脳新皮質の奥深くから『精神の静寂』を激しく要求するソウルの雄叫びを検知しているわ……」
「聞こえるわエレン。というか、共有されている私の右脳も、お風呂(第5話)に入り、ビール(第6話)を飲み、コタツ(第30話)でだらだらする極上の時間に、決定的な『和のビジュアル』が不足していることに悶絶しているわ。イングリッシュガーデン(第91話)は最高だけど、私たちが本当に眺めながらビールを煽るべきなのは……そう、あの白砂と奇岩が織りなす、至高の『枯山水庭園』よ!」
シルバーストーンQOL巨大観光特区のリビング。
完璧に除湿されたドライ空間(第65話)でハチミツレモネードを飲んでいた銀髪の双子は、脳内の専用回線をかつてない「禅の精神」で同期させていた。
前世は三十代の理科教師、成瀬健一。
ただ砂を敷いて石を置くだけでは、理系DIY愛好家の名が廃る。
目指すは、風が吹こうが豪雨が降ろうが絶対に一ミリも崩れない「永久不滅の砂紋」と、重力モーメントを完璧に計算して配置された「至高の奇岩」のハックである。
「いい、エレン? 枯山水の白砂に描く水の流れの模様(砂紋)はね、風雨によって簡単に平らになってしまうのが最大の欠点よ。だから、界面化学と高分子化学を応用して、砂紋の表面に『スライムジェル(第26話仕様)』の極薄親水性皮膜をスプレーし、砂粒同士を分子間力で優しく固定する『高分子スライム砂紋コーティング』を施すのよ!」
アリス(理論・設計・分子計算担当)が脳内の黒板に界面張力とポリマーの架橋結合の公式を書き殴る。
「さらに、庭園の要となる『奇岩(庭石)』よ。隣領との境界にある『巨獣の爪痕断崖(第66話)』から、美しい応力割れ(地質学ハック)を持つ数トンの巨石を、物理法則に従って等速で運搬するわ。仕事の原理 W = F・s を応用するのよ!」
W = F・s
(ここで必要な仕事Wは一定だから、滑車(第45話アセンダー仕様)の多段ギヤで引っ張る力Fを数分の一に減らし、その分だけロープを引く距離sを増やすの。エレン、愛車のチタン製クローラーバギー(第76話仕様)にジャイロスタビライザー(第52話)を連結して、巨石の重力モーメントをリアルタイムで相殺しながら、等速で滑らかに輸送して!)
「最高ねアリス! 物理法則で数トンの巨石を綿毛のように運ぶのね! 私の『超精密魔力クラフト・3次元物理演算モード(120,000 rpm)』、出力最大でいくよ!」
エレン(実技・精密加工・物理演算担当)の指先から、バチバチと精密な魔力放電が散る。
アリスが共有視界に投影した「巨石の重心および重力モーメントのスキャン図」に沿って、エレンはバギーの足回りにアクティブサスペンション(第66話仕様)を同調させ、巨石を傷一つつけずに牽引するための高強度クモの糸ロープを編み上げていった。
一人が「結晶地質学&重力力学モーメントシミュレーター(ソフト)」、一人が「ナノ精度放電カッター&等速重量輸送」。
双子の超絶同調により、わずか数日のうちに、屋敷の南側に、一糸乱れぬ白砂が敷き詰められ、その中に不気味なほど完璧な重心バランスで巨石が配置された、異様極まりない「至高の枯山水庭園」が爆誕した。
◇
「よし、エレン。仕上げの砂紋コーティングよ。高分子スプレー、均一放射!」
「スイッチ、オォォォン!!!」
シューーーーーーーーーッ!!!!!
エレンが、特製スプレーノズル(第76話仕様)から、アリスが調合した極薄のスライム溶液を白砂の上に向けて均一に噴射していく。
白砂の上に竹製の熊手(からくり自動変速仕様)で描かれた、一糸乱れぬ完璧な「水の波紋の幾何学模様」。
その表面にスライムジェルの極薄皮膜が定着した瞬間、砂粒同士が物理的にロックされ、
風が吹いても、嵐が来ても、
「パシッ……」
と、一粒の砂すらも動かない、永久に固定された「不干の魔線(砂紋)」が完成した。
そして、その砂の海の中心には、
重力モーメントの計算によって、まるで自重を忘れたかのように絶妙な傾きで自立し、
見る角度によって全く異なる「和の深淵」を放つ巨石が等間隔にそびえ立っている。
コタツ(除湿ドライモード)の窓を開け、のんきにその光景を眺めながらビール(第6話)を飲む双子。
「最高ね、エレン。この一糸乱れぬ静寂。白砂と巨石のコントラストが、大脳新皮質のノイズを完璧にデトックスしてくれるわ」
「本当にね、アリス。この枯山水を眺めながら飲む冷たいビール、喉越しが良すぎて、私の大臀筋が『ととのった!』って叫んでるよ!」
◇
その頃。
アストレア公爵領のコタツ一体化(第69話仕様)に怯え、特区の「自動化コンビナート(第88話仕様)」を奇襲・調査すべく、深夜の庭に潜入していた、隣領の残党の騎士たち。
そして、すっかりサウナハット(第51話仕様)を被って「お掃除お庭番」として同行していた監察官イゾルデ。
彼らは、一歩庭に踏み込んだその瞬間、目の前に広がった「光景」に、全員がその場に失禁し、泥水の中にひれ伏した。
「ひ、ひぃぃぃっっっ!!!???」
残党のリーダーが、恐怖で全身の毛穴を開かせて絶絶叫した。
彼らの目の前、静まり返った深夜の庭。
そこには、雨風が吹き荒れている(※ただの夏の夜風です)にもかかわらず、
一粒の砂すらも動かず、一糸乱れぬ完璧な幾何学模様を描き続ける不気味な「白砂の海」。
そして、その中に、等間隔で不気味に、まるで重力を無視した傾きで自立している、数トンの巨石たち。
巨石の周囲からは、力学モーメントの限界駆動(※ただの絶妙な重心計算です)によって、大気の気圧がバグっているような、恐ろしい「圧」が放たれている。
「ま、間違いない……!!!」
イゾルデは恐怖のあまり顔面を土気色にし、サウナハットを頭からすっぽり被った状態で、その場に崩れ落ちた。
「あれは……一歩足を踏み入れた瞬間に足元の気圧と重力をバグらせて地底に引きずり込み、配置された巨石から大地のエネルギーを放出して侵入者を一瞬で圧殺する、古代の防衛結界――『ジオ・ストーン・ヘンジ』だ……!!!!! あの砂の模様……見つめているだけで、脳の神経伝達が完全にハッキングされて、勝手に土下座(※ただの美しい枯山水に感動しているだけです)してしまう……!」
ただの「前世のわびさびを再現した、雨風でも崩れない美しい枯山水庭園」なのだが、隣領の残党たちにとっては、一歩近づいた瞬間に重力波でペシャンコに押し潰される、最悪の防衛システムにしか見えなかった。
その時、枯山水の巨石の影から、ガシャガシャと木製のお掃除ロボ(第36話)が、静かに庭に落ちたわずかな落ち葉を、砂紋を1ミリも傷つけることなく綺麗に掃き清めながら通り過ぎていった。
「ひ、ひぃぃぃぃっっっ!!! 掃除のゴーレムまで、重力を無視してあの結界の上を走っている……! 我々が踏み込んだら最後、あの巨石の重力波で魂ごと消し炭にされるぞォォォ!!!」
残党たち20名とイゾルデは、戦う意志を1ミリも残さず、
美しすぎる幾何学模様(砂紋)の前に、全身の力を奪われ(※ただの感動です)、
泥の上に何度も何度も頭を擦り付け、ひれ伏し、全力の「土下座」をキメるのだった。
◇
深夜。
「プシュー」とスプリンクラーの散水サイクルが自動停止し、
お肌ツルツル(第76話)の姿で、リビングのコタツ(除湿ドライモード)に潜り込む双子。
「ぷはぁー、やっぱり白砂と巨石を完璧にハックした後の、この暖かいコタツで飲む冷たいラムネ(第59話仕様)は、五臓六腑のQOLを極限突破させるわね、アリス」
「ええ、エレン。高分子スライムコーティングと重力モーメントの数理モデルの完全勝利よ。これで私たちの枯山水QOLは、年中無休で完璧な『静寂の帝国』として維持されるわね。科学の完全勝利よ」
「「ふふふふ……」」
窓の外では、月明かりの下、ガシャガシャと走る木製のお掃除ロボ(第36話)が、静かに庭に落ちたわずかな水たまりを綺麗に掃き清めていた。
領内には、目に見えない「極限の地質学・力学技術」と、隣領の貴族や王都の役人たちを「一歩でも足を踏み入れたら重力で圧殺される、恐るべき古代の防衛結界の噂」が、優しく、そして最高にお気楽に広がり続けるのだった。




