第90話:滑走する漆黒の巨大彗星と流動する黄金の糸(と、標的を一瞬でなぎ倒し喉を物理的に縫合して窒息死させる質量強襲・暗黒経口兵器)
「……アリス、聞こえる? 私の大臀筋と大腿四頭筋が、このウォーターパーク(第89話)で涼んだ後の心地よい気だるさの中で、さらなるQOL(生活の質)の知的エンターテインメントと、爽快な『ピンをブッ倒す音』を求めて激しくテレパシーのステップを刻んでいるわ……!」
「聞こえるわエレン。というか、共有されている私の胃袋も、適度に身体を動かした後に、あの喉越し最高で冷え冷えな『流しそうめん&冷やし中華』を、流れるプールのごとく秒速で口内に流し込みたいと暴動を起こしているわ。夏の終わりのレクリエーションを科学の力でハックして、特区の全領民を巻き込んだ『第一回QOLボウリング&そうめんフェス』を開催するわよ!」
シルバーストーンQOL巨大観光特区の夕暮れ。
地熱温泉冷却送風コタツ(第49話仕様)でキンキンに冷えたハチミツレモネード(第26話)を飲んでいた銀髪の双子は、脳内の専用回線をかつてない「レジャー熱」で同期させていた。
前世は三十代の理科教師、成瀬健一。
ただ遊ぶだけじゃ、大人の趣味人として面白くない。物理法則を完璧にコントロールして、究極の「ストライク」と、摩擦抵抗「ゼロ」の「流しそうめん」をDIYするのが今回の目的だ。
「いい、エレン。ボウリングのボールがピンの手前で美しくフック(曲がる)してポケットに吸い込まれるのはね、球体の『慣性モーメントI』と、レーンとの摩擦による『角運動量L』の移行プロセスによるものよ。中空構造と、高密度の魔石を偏心して配置することで、理想的な非対称コア(非対称の慣性モーメント)を設計するわ!」
アリス(理論・設計・分子計算担当)が脳内の黒板に剛体の回転力学の公式を書き殴る。
I = 2/5 mR²
L = I ω
(エレン、直径21.8cmの水晶球の中に、重心をあえて左側に1.5cmずらした高密度魔石のコアを仕込むのよ! これにより、レーンのオイル(第26話のスライム潤滑)が切れた瞬間に、ボールが自動的に左へと15度の角度で急激にフックし、ピンを物理的に粉砕するわ!)
「最高ねアリス! 物理法則で100%ストライキ(ストライク)よ! だったら、私の『超精密魔力クラフト・3次元削り出しモード(120,000 rpm)』で、真球度誤差 0.0001mm以下の『シルバーストーン・コズミック・ボール』を削り出してあげる!」
エレン(実技・精密加工・物理演算担当)の指先から、バチバチと精密な魔力放電が散る。
アリスが共有視界に投影したAR(拡張現実)の3D設計図に沿って、エレンは魔の森の巨大水晶(第45話仕様)の塊をナノ精度で削り、内部に偏心魔石コアを封入した、美しく妖しく輝く超重量の「魔導ボウリングボール」を成形していった。
さらに、アリスは同時開催する「流しそうめんスライダー」の流体力学設計をエレンの脳内へ転送。
「竹の樋の内壁に、スライムジェル(第26話)の『親水性・撥水性交互マルチコーティング』を極薄で施しなさい! 水との摩擦抵抗(管路損失)を物理的に『ゼロ』にすることで、そうめんが時速50kmという、およそ世界初の弾丸スピードで全長100mのスライダーを滑走する『ハイドロ・そうめん・ランチャー』を敷設するのよ!」
「任せなさい、アリス! 100メートルの竹のジョイント部分、私の指先超高速カッターで摩擦抵抗が全くない平滑なジョイントに分子溶着してあげるわ!」
一人が「剛体回転力学&管路摩擦シミュレーター(ソフト)」、一人が「ナノ精度放電カッター&超高速スライムスプレー(ハード)」。
双子の超絶同調により、特区の広場には、滑らかに磨き上げられたウッド製の「ボウリングレーン(全自動ギヤ式ピンリセッター完備)」と、広場を蛇のようにうねうねと這い回る「全長100mの竹製巨大スライダースライダー」が爆誕した。
◇
イベント本番。
広場には、黒い目隠し(第70話仕様)を頭に巻いてWEB同期回線にアクセスした、アルド率いる元騎士のバイトメンバー150名が、竹のスライダーの脇に等間隔に並んでいた。
「よし、エレン。第一回QOLフェス、起動よ! ボウリングボール、スロー! そうめんスライダー、水源バルブ全開!」
「スイッチ、オォォォン!!!」
ゴババババババババババッ!!!
キィィィィィィィィィン!!!!!
「「――きゃっはー! 凄いスピードよ!!」」
エレンが右腕のジャイロを全開にして水晶ボールをレーンに解き放つ。
ボールは、極小水晶ベアリングの「キィィィィン……」という超高音の風切り音を響かせ、レーンの上を不気味にうねりながら(※偏心コアのフック効果です)爆走し、
ピンの直前でググッと急激に曲がり、
「パガァァァァァン!!!」
という凄まじい衝撃音と共に、頑丈なチタン製のピンを文字通り粉々に吹き飛ばした。
さらに隣では、
「ハイドロ・そうめんスライダー」のバルブが全開になり、
スライム撥水コーティングの効果によって、管路の摩擦が物理的にほぼ「ゼロ」になった。
次の瞬間、スタート地点から放たれた「真っ白な細糸の束」が、
「ドゴォォォ!」という凄まじい流速音と共に、
時速50kmという、普通の人間なら箸で捉えることなど不可能な超高速の「白い光の矢」となって、スライダーの中を滑走し始めた。
だが、スライダーの脇に立つ、黒い目隠しをした元騎士のバイト150名(※デバッガー)たちは、
脳内のWEB同期パルス(第70話仕様)から送られてくるそうめんの通過座標に完全同調し、
一切の言葉を発さず、
「シュシュシュシュシュッ!!!」
と、人間離れした超高速の手つきで、ハチミツ醤油つゆの入ったコップへと、滑走するそうめんを箸で一瞬にして「ピッキング(捕獲)」していった。
◇
その頃。
広場の隅、雪の溶けた庭の物陰。
前回の「ウォータースライダー(第89話)」の恐怖から這々の体で生還し、王都の威信をかけて双子の「大量殺戮兵器のテスト」を監視し続けていた、王都の精鋭査察使(エリート隠密)たちは、望遠鏡を覗いたまま、凍りついたようにへたり込んでいた。
「お、おい……嘘だろ……。あ、あいつら……ついに、大地の質量と、人間の呼吸を奪う、二重の終末兵器を……!」
査察使の頭領が、顔面を土気色に染めてガタガタと歯の根を鳴らした。
彼らの視界には、
「キィィィィィィィィン!!!」という、脳髄を物理的に直接破壊する超高音を響かせながら、
大地の引力(軌道)を完全に無視して曲がりくねり、標的を一瞬で粉々に粉砕して消滅させる、光り輝く超重量の水晶弾(※ただのボウリングボールです)。
そして、その横で、
「ドゴォォォ!」という地鳴りのような音と共に、
時速50kmという恐るべき射出速度で、不気味にうねる巨大な真鍮管から、
世界を埋め尽くさんばかりに連射されていく、極細の白い「謎の暗黒糸の束(※そうめんです)」。
極めつけは、そのスライダーの脇に並んだ、
黒い目隠しをされ(※洗脳状態)、一切の自我を失ったかのように無言で、
「シュシュシュシュッ!!!」
と、その死の暗黒糸を人間離れした超高速でハサミ(※箸です)で刈り取っている、150名の元騎士たち(※バイトです)の姿だった。
「ひ、ひぃぃぃっっっ!!!???」
隠密は、恐怖で全身の毛穴を開かせ、泥水の中にひれ伏した。
「ま、間違いありません……! あれは、標的の兵士を一瞬で押し潰して粉砕する、絶対軌道質量兵器『デス・ストライカー』! そして、あの高架から連射される極細の白い糸……! あれは浴びた者の口腔内や喉を一瞬にして極細の白い糸で完璧に縫合し、呼吸を完全に遮断して数秒で窒息死させる、最悪の経口窒息化学兵器『ホワイト・サイレント・ストリーム』の、同時実戦配備テストだ……!!!!!」
ただの「お腹が空いた領民みんなで楽しむボウリングと流しそうめん」なのだが、王都のエリート査察使たちにとっては、防衛線を一瞬で粉砕し、兵士の口を糸で縫合して全滅させる「終末の大量破壊兵器のデモンストレーション」にしか見えなかった。
あの白い糸の一束が、自分の口に一瞬でも飛び込んできたら最後、魂ごと白い糸で縛り上げられ、双子のお掃除ロボット(第36話)にされるに違いない。
「お、お赦しください、双子の魔王様……! 我々の喉を……我々の口を、どうか縫合しないでくださいぃぃぃ!!!」
査察使30名と、その背後で完全にコタツと一体化していた監察官イゾルデは、戦う意志を1ミリも残さず、
全員が持っていた黒い目隠しを両目にガチガチに巻き付け、
視界を完全に遮断した状態で、
ただの冷たいそうめんをお椀に取っている双子に向かって、涙を流しながら地面に頭を何度も何度も擦り付け、ひれ伏し、這いつくばって命乞いをするのだった。
◇
その夜。
「流れる温水スパプール」の真ん中に浮かべられたコタツボートの上。
キンキンに冷えたラムネ(第59話仕様)を片手に、のんきにぷかぷかと浮かぶ双子。
「ぷはぁー! やっぱり、時速50キロのそうめんをハフハフと啜った後の、この温水プールと冷たいラムネは、脳髄のQOLを極限突破させるわね、アリス」
「ええ、エレン。流体力学とスライムジェルの摩擦ゼロハックは、理論値を遥かに超える『喉越しエントロピー』をもたらしてくれたわ。科学の完全勝利ね」
コタツボートの横では、サウナハット(第51話仕様)を被ったアルドと、
「はぅ……この、時速50キロで洗脳縫合された暗黒糸(※そうめんです)……。冷たいおつゆに生姜を溶かして啜ると……、お口の中で喉越しが良すぎて、アストレア家の誇りが完全に消滅していくわ……。お掃除ロボのメンテナンス、明日も全力でやるから、そうめんおかわり頂戴……」
と、すっかり洗脳(※ただの楽しさ)に屈したイゾルデが、ぷかぷかと浮き輪で浮かびながら、のんきに流しそうめんを貪っていた。
窓の外では、月明かりの下、ガシャガシャと木製のお掃除ロボ(第36話)が、静かにプールサイドに散らかったポップコーンの食べこぼしを綺麗に掃き清めていた。
新章を迎えたシルバーストーン特区には、目に見えない「極限の流体力学・ベアリング技術」と、隣領の貴族たちを国家崩壊レベルの絶望に陥れる「逆らったら口を極細の糸で縫合されて窒息死させられる、恐るべき流しそうめんの噂」が、優しく、そして最高にお気楽に広がり続けるのだった。




