第89話:水面をのたうち回る青き大蛇(と、人間を高速射出して敵陣を粉砕する大破砕カタパルト)
「……エレン、聞こえる? 私たちのQOL(生活の質)メーターが、このうだるような真夏の猛暑のせいで、レッドゾーンを通り越してプラズマ発光を起こしているわ……」
「聞こえるわアリス。というか、共有されている私の大腿四頭筋も、このジメジメした湿気と熱気のコンボのせいで、筋トレ後の乳酸が完全にホールド(凝固)して、ただの温かいプロテインバーになり下がっているわよ。温泉(第30話)は最高だけど、夏にお湯に浸かるだけじゃ『ととのい(第51話)』の向こう側には行けない! 涼しく、そして激しく脳髄を揺さぶる極上のウォーターアクティビティを要求するわ!」
シルバーストーンQOL巨大観光特区のリビング。
デシカント除湿(第65話)が効いたドライ空間に置かれたコタツ(冷却送風モード・第49話)の中に、ぐったりと下半身を突っ込んでいた銀髪の双子は、脳内の専用回線をかつてない「水遊び熱」で同期させていた。
「いい、エレン。夏の暑さを物理的に駆逐する究極のハック、それは『巨大ウォーターパーク』よ! アストレア公爵領の圧倒的な高低差(第66話)と、地熱温泉(第30話)の熱源をハックして温水にし、特区の山頂からこの屋敷の庭まで一気に滑り降りる『超巨大温水ウォータースライダー&常夏流れるスパプール』を開設するわよ!」
「最高ねアリス! 大自然の地形をそのまま巨大な滑り台にするのね! 私の指先、今から超精密トラス配管成形機と同調したわ!」
双子の瞳に、のんきにして邪悪な「全力の遊びへの執念」が灯り、台所の地下工房へと滑り込んだ。
1.「3D螺旋ループ・空中スライダー」の流体力学
アリス(理論・設計・数理担当)は、前世の理科教師としての知識から、流体の挙動を記述する「ナビエ・ストークス方程式」を脳内の黒板に書き殴り、共有視界に3次元の圧力分布モデルをAR投影した。
ρ( ∂u/∂t + u・∇u) = -∇p + μ∇²u + f
「スライダー内を流れる温水の流速uをコントロールし、遠心力による脱線を防ぐためには、曲線部の曲率と傾斜角をミリラジアン単位で最適化する必要があるわ。さらに、滑る人間とスライダー内壁との摩擦抵抗を物理的に『ゼロ』にするため、高分子透明チューブの内壁に『スライムジェル(第26話)』の親水性皮膜をコーティングするのよ!」
「任せなさいアリス! アイアンウッドのトラス構造(第36話)と、アイアンスパイダーの魔導カーボン(第28話)ね。私の『超精密魔力クラフト・3D流路切削モード(120,000 rpm)』で、継ぎ目のない完全滑走チューブを削り出してあげる!」
エレン(実技・精密加工・物理演算担当)の指先から、バチバチと精密な魔力火花が放たれる。
アリスが投影した青いガイドラインに沿って、エレンは髪の毛一本以下の精度で、山頂から屋敷の庭までうねうねと伸びる全長2キロの半透明高分子チューブを物質化していった。
さらに、アリスはプール内に極上のサーフィン用の波を作り出す「自動起波装置」の設計図を脳内に展開。
「ハイドロフォイル技術(第44話)を応用した、からくりギヤ駆動の『スリット式水中翼起波プレート』よ。流動水車の動力をインペラ(羽根車)で増幅させ、波の周期を完璧にコントロールするの。これでプールの中に、いつでもハワイアンな極上の波を発生させるわ!」
「オッケー! どんな荒波でも私の体幹ジャイロ(第52話)で乗りこなしてあげるわ!」
一人が「3次元流体&造波抵抗シミュレーター(ソフト)」、一人が「ナノ精度放電カッター&高出力インペラ組み上げ(ハード)」。
二人の神がかり的な調和により、わずか数日のうちに、山頂から屋敷の庭に向けて空中を不気味に蛇行して伸びる巨大な半透明のパイプラインと、庭に爆誕した「流れる温水スパプール」が完成した。
◇
2.時速80キロの「ハイドロ質量射出」
イベント当日。
お揃いのビキニ風スイムジャージ(母様デザイン・第25話の極薄スライム防水加工製)を身にまとった銀髪の双子は、アストレア山頂のスタートゲートに立っていた。
「アリス、水流バルブ全開、スライム潤滑コーティング、アクティブよ!」
「スライダー・シーケンス、起動! 目標、我が家の庭のスパプール! ローンチよ、エレン!」
「っっっっっりゃあああああああ!!」
バシャァン! と温水が流れるチューブに、二人が頭から飛び込んだ。
次の瞬間、物理法則をハックした「滑走」が始まった。
ドゴォォォォォォォッ!!!!!
「「――きゃっはー! 摩擦が本当に『ゼロ』よ!! 脳が揺れるぅぅぅ!!」」
スライムジェルの超滑水効果により、衣服や肌の摩擦抵抗は完全に消失。
ベルヌーイの定理に基づき、重力加速度 g = 9.8m/s² によって加速された双子の身体は、
時速80キロを超える弾丸スピードに達し、空中をのたうち回る半透明のチューブの中を、もの凄い勢いで「青い稲妻」のように滑り降りていった。
スライダーが3D螺旋ループを通過するたび、遠心力によって「ジュワァァァッ!」と美しい水しぶきがチューブ内で弾け、
双子は「あはははは! QOL最高!」と、大はしゃぎで高笑いしながら、地上に向けて突撃していった。
◇
3.王都騎士団長とイゾルデの、最悪の大破砕大誤解
その頃。
シルバーストーン特区の境界線、山林の岩陰。
「没落したはずのシルバーストーン領が、アストレア公爵領をも実質的に乗っ取った(※おでんとプリンでQOL降伏しただけです、第71・73話)」という大パニックの報告を受け、
王都から緊急派遣された、国家最高防衛権を持つ「王都騎士団長」と、
未だにスウェットのまま、半分コタツの住人となりかけている特務監察官イゾルデは、望遠鏡を覗き込んだまま、凍りついたようにへたり込んでいた。
「お、おい……イゾルデ。あ、あいつら、今度は空中に……一体どんな邪悪な大蛇を召喚したのだ……!?」
騎士団長が、重い大剣をカランと地面に落とし、ガタガタと歯を鳴らした。
彼らの視界に入ってきたのは、
山頂からうねうねと空中を蛇行し、何重ものトラス構造で屋敷の庭へと伸びる、巨大な半透明の「大蛇の如き配管」。
その配管の中を、「ドゴォォォ!」という、大気そのものを物理的に圧殺しているかのような凄まじい水流の轟音が鳴り響いている。
そして――。
その半透明の配管の中を、
時速80キロオーバーという、およそ生物の限界を超えた超高速の弾丸スピードで、
不気味な青い光(※ただのウォーターパレード用魔石LEDです)を撒き散らしながら、一瞬で射出されていく銀髪の双子の姿。
次の瞬間、チューブの末端(射出口)から、
「パガァァァァァン!!!」という凄まじい衝撃波とともに、
弾丸がプールに叩きつけられ、天高く向かって全高10メートルを超える「巨大な扇状の爆縮水柱」が、激しく噴き上がった。
だが、射出された少女は、五体満足、どころか、
「きゃっはー! もう1回! 次は時速100キロに挑戦よ!」
と、邪悪な(※ただの楽しい)笑顔を浮かべて高笑いしている。
「ひ、ひぃぃぃっっっ!!!???」
イゾルデは、あまりの「ハイドロ質量兵器」の光景に、恐怖でその場に失禁し、ドロドロの泥水の中に這いつくばった。
「ま、間違いありません、騎士団長……!!! あれは、いかなる巨大な魔物や城壁をも一瞬で押し流して圧殺し、かつ、中に詰め込んだ自らの生体改造兵士(第37話仕様)を弾丸として超高速で敵陣へ強襲・射出して粉砕する、新型のハイドロ質量突撃射出兵器――『カスケード・ボルテックス・大破砕カタパルト』です……!!!!!」
騎士団長も、顔面を土気色に染め、失禁したまま、泥の上を芋虫のように転がり回った。
「な、なんだと……!? あの射出されたバケモノ(エレン)、落下の衝撃を完全に『ゼロ』にし(※水に飛び込んだだけです)、無傷で笑っていやがる……! あの人間大砲を我が王都の防壁に撃ち込まれたら最後、王都の堅牢な城門は一瞬で塵にされるぞォォォ!!!」
ただの「暑さをハックする快適ウォータースライダー」なのだが、王都の精鋭たちにとっては、
兵士を時速80キロで無反動射出し、城壁を一瞬で大破砕する「絶対の質量兵器」にしか見えなかった。
あのカタパルトが王都に向けられた瞬間、国家は一日で消滅するに違いない。
「お、お赦しください、双子の魔王様……! 王都の城門を……どうか、どうか粉砕しないでくださいぃぃぃ!!!」
騎士団長50名と、限界を突破したイゾルデは、戦う意志を1ミクロンも残さず、
全員が持っていた黒い目隠し(第70話仕様)を両目に巻き付け、
視界を完全に遮断した状態で、
ただのプール遊びをしている双子に向かって、泥まみれになりながら号泣・全力土下座をキメるのだった。
◇
その夜。
「流れる温水スパプール」の真ん中に、プカプカと浮かべられた「温泉用コタツボート」。
その上で、冷たいハチミツコーラ(第42話)を片手に、のんきにぷかぷかと浮かぶ双子。
「ぷはぁー! やっぱり、時速80キロで滑り降りた後の、この温水プールと冷たいコーラは、脳髄のQOLを極限突破させるわね、アリス」
「ええ、エレン。流体力学とスライムジェルの境界摩擦ハックは、理論値を遥かに超える『快適なスプラッシュ』をもたらしてくれたわ。科学の完全勝利ね」
コタツボートの横では、サウナハット(第51話仕様)を被ったアルドと、すっかり洗脳(※ただの楽しさ)に屈したイゾルデが、
「いやー、このスライダーの遠心力、筋肉のデトックスに最高ですね、イゾルデ様」
「ええ、アルド……。わたくし、もう王都の監察官なんてどうでもよくなりましたわ……。明日からも全力でデバッガーをやるから、おでん(第71話)おかわり頂戴……」
と、ぷかぷかと浮き輪で浮かびながら、のんきに温泉おでんを貪っていた。
窓の外では、月明かりの下、ガシャガシャと木製のお掃除ロボ(第36話)が、静かにプールサイドの食べこぼしを綺麗に掃き清めていた。
新章を迎えたシルバーストーン特区には、目に見えない「極限の流体力学・摩擦ハック技術」と、隣領の貴族たちを「逆らったら人間を弾丸として射出されて要塞ごと大破砕される、恐るべきハイドロ・カタパルトの噂」が、優しく、そして最高にお気楽に広がり続けるのだった。




