第88話:コンビナート大パニック!自動餃子包みマシーンの叛逆(と、一口で騎士の魂を黄金にコーティングして窒息死させる暗黒経口高熱殺餃子)
「……アリス、聞こえる? 私の、前世は餃子のタレにはラー油とお酢をたっぷり入れる派だった側の遺伝子が、特区内の全飲食店(第24話)から届いた『極上羽根付き餃子(第57話)』のバックオーダー3万個という無慈悲な数字を前にして、深刻な『皮包み腱鞘炎』の恐怖に大腿四頭筋を激しく震わせているわ……!」
「聞こえるわエレン! 領民や王都からの観光客、そして今や私たちのリビングのコタツで完全に溶けているイゾルデ(第82話)までが、毎日狂ったように餃子を貪り食うせいで、台所の生産キャパシティが完全にボトルネック(飽和状態)になっているわね。だらだら時間を愛する理科教師のプライドにかけて、手作業での皮包みなどという原始的な労働は即刻廃止よ! バイトの元騎士たちを餃子ラインに総動員し、からくり自動化によって1時間で3万個を量産する『餃子コンビナート』を爆誕させるわよ!」
シルバーストーンQOL巨大観光特区の朝。
常夏ドライ空間コタツ(第65話)でハチミツコーラ(第42話)を飲んでいた銀髪の双子は、脳内の専用回線をかつてない「餃子自動化熱」で同期させていた。
前世は三十代の理科教師、成瀬健一。
どれだけ餃子が美味しくとも、自分たちの「だらだらライフ」が奪われるのなら、それはQOLの敗北。ないなら、すべてを自動化するマシーンをDIYすればいいだけである。
「いい、エレン。自動で餃子を美しく包むにはね、機構学における『円筒カムによる多自由度リンク機構』。そして、包んだ瞬間に具材の水分が染み出して皮がベチャベチャに破れるのを防ぐ、界面化学の『水分バリア・エマルション』のハックが必要よ!」
アリス(理論・設計・分子計算担当)が脳内の黒板に、油水分離の安定化とゲルの包摂特性の化学式を書き殴る。
「具材の豚ひき肉と野菜の水分を、第26話のスライムジェル(親水性ゲル膜)の極薄エマルションでコーティングするの。これで熱が加わる瞬間まで、水分は完璧にゲルの結界の中に閉じ込められ、皮への浸透を100%ブロックするわ! エレン、この設計図に沿って、流れてくる皮に具を載せて『パタン、パタン』と等幅で美しいヒダを作りながら包み込む『全自動餃子包みドラム』を物質化して!」
「最高よアリス! 設計図ロックしたわ。ドラムの噛み合わせクリアランス、正確に 0.05mmで固定ね! 私の『超精密魔力クラフト・3次元ドラム切削モード(120,000 rpm)』で、真鍮の塊から一瞬で切り出してあげる!」
エレン(実技・精密加工・物理演算担当)の指先から、バチバチと精密な魔力放電火花が散る。
アリスが共有視界に投影した「円筒カム&クランク同期ギヤ」の3次元設計等高線に沿って、エレンは髪の毛1本以下の精度で真鍮のドラムを削り出し、ギアボックスと組み合わせた。
一人が「流動・カム構造シミュレーター(ソフト)」、一人が「ナノ精度放電カッター&ギヤ組み立て(ハード)」。
双子の超絶連携により、コンビナートの一角に、鈍く光る真鍮の巨大な円筒ドラムと、不気味に蠢くアームを備えた『全自動からくり餃子包みマシーン・ギガシェフ』が爆誕した。
さらに、アリスは生産ラインの「品質管理」をハックするため、
以前の「世界通信網(第70話)」で導入したWEB同期回線を応用。
「アルド、そこの元騎士のバイトメンバー150名を集めなさい。全員に『黒い目隠し(第70話仕様)』を装着させ、WEBの指示パルスと同期させて、コンベアから流れてくる餃子を無言で超高速検品させるのよ!」
「了解でさぁ、アリス様! バイトの皆、目隠しをして、脳内のWEB回線にアクセスするだべ!」
◇
数時間後。
シルバーストーン特区のコンビナート工場。
ゴババババババババッ!!!
ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン!
工場の煙突からモウモウと噴き出す、チタンピザ窯の余熱を利用した高圧の蒸気(※ただの蒸し焼き用のスチームです)。
そして、ドラムが等速回転し、真鍮のクランクアームが「ガシャン! ガシャン!」と不気味な規則正しい金属連打音を響かせている。
ドラムの隙間からは、真っ白な多層粘土のような球体(※ただのもちもちの羽根付き餃子です)が、コンベアの上へと秒速10個の恐るべき速度で吐き出され、
それを、黒い目隠しをした元騎士のバイト150名が、一切の言葉を発さず、
「シュシュシュシュッ!!!」
と、WEBの明暗パルス(第70話)に完全に同期した、人間離れした超高速の手つきで検品し、箱へと詰め込んでいく不気味な光景。
◇
その頃。
工場の薄暗い窓の外、雪の積もったダクトの陰。
王都の重臣から「シルバーストーン領に潜む、国家を脅かす謎の大量兵器工場を暴け」との特命を受け、決死の覚悟で潜入していた王都の最新査察使(エリート隠密)。
彼は、そのダクトの窓から覗く、この世の終わりとしか思えない「不気味な大自動化ライン」に、恐怖でその場に失禁し、泥水の中にひれ伏していた。
「お、おい……嘘だろ……。あ、あいつら……ついに、人間をゾンビに変えて、死の兵器の量産を始めおった……!」
しんと静まり返った薄暗い工場の中。
そこに鳴り響く、「ガシャン! ガシャン!」という、まるですべての物理的抵抗を粉砕する処刑マシーンのような不気味な打撃音。
そして、その機械から秒速で吐き出されていく、不気味に白く輝く多層粘土の塊。
それを、黒い目隠しをされた150名の元騎士(※バイトです)たちが、完全に自我を失ったかのように無言で、狂ったように超高速で手際よく仕分けている。
さらに恐ろしいのは、換気口からモウモウと噴き出す、
焦がしたゴマ油と、にんにく醤油、そしてジューシーな肉の、
一口嗅いだだけで大脳新皮質の満腹中枢をダイレクトに破壊し、胃袋の支配権を強制的に双子に譲渡させる、あまりにも暴力的で香ばしい匂いだった。
「ぐ、ふっ……!? お、美味しい……いや、なんだこの匂いは……! 匂いを嗅ぐだけで、口の中に唾液が洪水のように溢れ出し……脳の神経伝達物質がバグを起こして、あの白い粘土を口の中に流し込みたいという狂暴な衝動(物欲)に支配される……!!!」
査察使は、自分の頭を抱えて、泥水の上を芋虫のように転がり回った。
「ま、間違いありません……!!! あれは、一口啜るだけで内臓を熱的に破壊し、その魂を黄金の硬化結界(もちもちの皮)の中に一瞬で完璧に閉じ込めて窒息死させ、一生双子の操り人形へと改造する、暗黒経口高熱殺兵器――『餃子・ボム』の大量生産コンビナートだ……!!!!!」
ただの「美味しい羽根付き餃子の全自動包みマシーンと高速ピッキングライン」なのだが、王都のエリート査察使にとっては、大陸中の全騎士を一日で胃袋から餌付けして洗脳奴隷にする「終末の経口化学兵器」にしか見えなかった。
あの不気味に美味そうな香ばしい匂いに五感を完全にハッキングされた査察使は、
「くそっ、私の魂が……餃子に……屈して……」と涙を流し、口からよだれをダラダラと地面に垂らしながら、そのまま恐怖と空腹のあまり白目を剥いてガクッと卒倒、雪原の上へと真っ逆さまに気絶して沈んでいくのだった。
◇
その夜。
コタツ(ドライ除湿モード)のまわりに集まる、シルバーストーン家の一同。
中央には、アリスが計算したデンプンのアルファ化(第57話)によって結晶化した、美しく透き通る「網目の羽根」をまとった、焼き立てアツアツの餃子が何百個とうず高く積まれていた。
「やっぱり、自動包みドラムのコアンダ吸着精度を上げたおかげで、皮の密着度(QOL)が段違いね、アリス!」
「ええ、エレン。スライムジェル(親水ゲル膜)の水分エマルション効果も完璧よ。噛み締めた瞬間に、皮を破らずに中から濃厚な肉汁が『ジュワァッ!』と爆縮を起こすわ!」
「「いっただっきまーす!!」」
パクッ、パリッ……ジュワァァァァァッ!!!
「「「ーーーーーっっっっっっっふ、ふおおおおおおおおお!!!!」」」
コタツに入って、
焼き立ての羽根付き餃子をハフハフと頬張り、キンキンに冷えた黒エール(第10話仕様)を喉に流し込む双子と両親、そしてイゾルデとアルド。
パリッとした羽根の食感の後に、もちもちの皮からあふれ出た濃厚な豚肉とキャベツの旨味(※水分バリアの効果です)が口の中で極上のマリアージュを起こし、全員が白目を剥いてコタツの上にべったりと突っ伏していた。
「最高だべぇぇぇ! 1時間で3万個、これで特区の餃子バックオーダーは完全にクリアだべ!」
サウナハットを被ったアルドが、餃子を3個一気に口に放り込んでビールを煽る。
「わ、わたくしも、この黄金の皮の結界(もちもちの皮)の虜ですわ……。お掃除ロボのメンテナンス班として、明日からも全力で働くから、おかわり頂戴!」
イゾルデも完全にプライドを溶かして、スウェットのまま餃子を貪り食っていた。
窓の外では、月明かりの下、ガシャガシャと木製のお掃除ロボ(第36話)が、静かに庭のダクトから排出されたわずかなスチームの結露水を綺麗に掃き清めていた。
新章を迎えたシルバーストーン特区には、目に見えない「極限の機構学・界面化学技術」と、隣領の騎士たちを国家崩壊レベルの絶望に陥れる「一口食べるだけで魂を皮に閉じ込めて奴隷にする、恐るべき自動餃子兵器の噂」が、優しく、そして最高にお気楽に広がり続けるのだった。




