第84話:敏腕ペアの超高速ピクニック(と、いかなる軍隊も一瞬で更地にする電磁誘導突撃戦車・アポロン)
「……アリス、聞こえる? 私たちのQOL(生活の質)メーターが、この常夏ドライコタツ(第65話仕様)の極上の引力によって、ふにゃふにゃの液体に融解しきっているわ」
「聞こえるわエレン。というか、共有されている私の大脳新皮質も、ハンスたちの超高速チャリ便(第16話)とWEB在庫管理(第70話)が完璧に全自動化されたおかげで、完全に『週刊シルバーストーン』のファンアート閲覧にメモリの9割を割いているわ。……だが、そんな私たちの怠惰の楽園に、本日もまた『可愛らしいおねだり』という名の物理的侵入者が接近しているわよ!」
シルバーストーンQOL巨大観光特区のリビング。
冷たいハチミツレモネード(第26話)をストローで啜っていた銀髪の双子の前に、サウナハット(第51話仕様)を小粋に被った男爵(現・特区プロデューサー)エドワードと、エレガントなドレスを纏ったCEO夫人レイラが、手を取り合ってもじもじと立っていた。
「あのね、アリス、エレン。……今日は、お父さんとお母さんが出会った思い出の場所、公爵領の高台へ『思い出のピクニック』に行こうと思っているんだ」
エドワードが頬を少し赤らめながら、手に持ったピクニックバスケット(※中身は焼き立てのクロワッサンとおでん)を揺らす。
「そう。せっかく合併してリニア『シルバー・ブレット(第68話仕様)』が敷設されたのだから、途中まで特別車両を貸し切って、最後はあの急斜面の山道を登ろうと思ってね。……でも、山道は岩だらけだし、お母さんのエレガントなドレスが汚れてしまうだろう? 何か『一瞬で山頂までスササッと登れる、お洒落で快適な乗り物』をDIYしてくれないかい?」
「あらエドワード、あの子たちにそんな我が儘を言ってはダメよ」と言いつつ、レイラも「でも、山頂での淹れたて樹海コーヒー(第78話仕様)を、涼しい顔で飲めたら素敵ねえ」と、すっかり双子のお気軽QOLに甘やかされたおねだり顔を向けていた。
アリスとエレンはコタツから小首を傾げてハモる。
「「めんどくさいけど……両親のイチャイチャQOLのためなら、仕方ないわね!」」
元教師の知識と、多趣味な双子の「超絶分業DIY」が、思い出のピクニックのために再起動された。
1.「二人乗り超軽量リニア・ゴーカート」の電磁気学
アリス(理論・設計・数理担当)は、前世のリニアモーターカーの駆動原理と、公爵領に敷設された電磁レールの仕様を脳内でマリアージュ。
「エレン、重い客車を動かすんじゃないわ。今回必要なのは、重量を極限まで削り落とし、大地の磁気ポテンシャルを最小限の出力で滑走する『二人乗り超軽量リニア・ゴーカート(シルバー・ロードスター)』よ! リニア誘導モーターの同期速度Vsの数式はこうよ!」
Vs = 2τf
「極ピッチτを正確に0.15m、周波数fを500Hzに同期させることで、時速108km/h(秒速30m)以上の滑らかな等速巡航を可能にするわ。さらに、チタン製フレームの底面に、スライム境界潤滑(第26話仕様)を施した水晶ベアリング(第48話仕様)の『磁気浮上補助スライダー』を設置しなさい!」
「設計図ロックしたわ、アリス! だったら、私の『超精密魔力クラフト・一体成形(120,000 rpm)』で、魔の森のチタンプレート(第28話)を流線型(エアロ形状)の超軽量ボディへと叩き出して、お揃いの特製シートを設置してあげる!」
エレン(実技・精密加工・物理演算担当)の指先から、バチバチと精密な魔力放電が散る。
アリスが脳内CADで算出した「磁気浮上ポテンシャル」の3Dシミュレーションの通りに、チタンプレートが一瞬で滑らかな銀色の「超小型ゴーカート」へと成形され、その底部に電磁誘導コイルと水晶スライダーが完璧に組み込まれていった。
一人が「電磁気学・磁気回路シミュレーター(ソフト)」、一人が「ナノ精度放電カッター&超高速コイル巻き(ハード)」。
双子の超絶連携により、わずか数時間で、エンジン音も排気ガスも一切なく、地表を数ミリ浮上して等速でスライドする、未来的な銀色の金属塊『シルバー・ロードスター』が完成した。
◇
数時間後。アストレア公爵領の険しい山岳地帯。
そこは、ゴツゴツとした巨大な岩肌が露出し、普通の馬車どころか訓練された兵士ですら息を切らして登る急斜面。
その傾斜30度を超える急坂の前に、銀色のゴーカートに腰掛けたエドワードとレイラがいた。
「レイラ、シートベルトを締めて。行くよ……思い出の山頂へ!」
エドワードがサウナハットを被り直し、真鍮の起動レバー(※ただの電磁クラッチです)を力強く倒す。
「ええ、エドワード。今日の風は、とっても気持ちが良いわね」
レイラは助手席で優雅に紅茶(第78話コーヒーに並ぶ極上ティー)のカップを片手に、微笑んでいた。
キィィィィィィィィン……!!!!!
レバーが引かれた瞬間、底部の水晶ベアリングが超高速回転を始め、進行波磁界が地面の鉄分(または埋設された簡易レール)と干渉して、凄まじいローレンツ力(推進力)が発生した。
次の瞬間。
スササササササササササッ!!!
『シルバー・ロードスター』は、エンジン音も、排気音も一切なく、
時速150キロという恐るべき超高速で、
垂直に近い山の斜面を、重力をバグらせたかのように「等速無音で、横にスライド」しながら垂直に登り始めた。
背後では、車体が通り過ぎた際の「衝撃波(空圧)」によって、周囲の山林の葉がパラパラと激しく散り、砂煙が白い龍のように舞い上がっている。
「本当に快適ねえ、エドワード。一揺れもしないから、紅茶が一口もこぼれないわ」
「当然だよ、レイラ。あの子たちの技術は、世界一なんだから」
サウナハットを被った父が涼しい顔でハンドルを握り、
その横で、お母様(CEO)がエレガントに紅茶を嗜みながら、
時速150キロで垂直の崖を無音爆走していく。
それは、双子にとってはただの「両親へのお気軽なピクニックお遣い機」だったが、周囲の光景は完全に絶望のビジョンであった。
◇
その頃。
山岳地帯の岩陰。
「シルバーストーン特区の権利を奪い取るための最後の奇襲」をかけるべく、山道で待ち伏せし、大岩を崖上から落として馬車を粉砕しようと息巻いていた、他領の武装強盗団50名。
そして、彼らを案内しつつ、「これが本当に最後の任務だ」と、すっかり胃を壊しきってコタツを恋しがっていた王都の精鋭隠密。
彼らは、崖の下から響く「キィィィン……」という不気味な高周波の音を耳にして、全員が持っていた大岩を足の上に落として絶叫していた。
「お、おい……嘘だろ……。奴ら、ついに……大地の地殻まで兵器化しおった……!」
隠密が恐怖で顔面を土気色にし、サウナハットを握りしめながら叫んだ。
彼らの視界には、
登山道すら存在しない、ゴツゴツとした岩山。そこを、
一切のエンジン音もなく、ただ「キィィィィン……」という不気味な金属音(※ただの水晶ベアリングの音です)だけを響かせ、
時速150キロという自重を完全に無視した超高速で、垂直に、無音でスライドして登ってくる銀色の金属の塊。
その背後では、通り過ぎたことによる衝撃波で、山林がバラバラと薙ぎ払われている。
「あ、あれは……! 大地の地殻を磁力でハックし、山岳砦ごと一瞬で粉砕・蹂躙しながら進軍する、新型電磁誘導突撃戦車――『アポロン・エクスプレス』だ……!!!!! あのサウナハットを被った不敵に笑う敏腕プロデューサー(父)と、その横で優雅に紅茶(※洗脳毒液)をすするCEO夫人(母)は、世界を紙切れのように蹂躙する破壊の神に違いない……!!!」
ただの「お揃いのリニアゴーカートで思い出の地へ向かう仲良し夫婦」なのだが、武装強盗たちにとっては、一歩近づいた瞬間に岩盤ごと自分たちを粉砕・蹂躙して塵にする「移動式の殲滅要塞」にしか見えなかった。
あの銀色の突撃塊が、今まさに自分たちの方(※ただの山頂へのショートカットコースです)を向いて等速スライドしてくる。
「お、お赦しください、地殻を破壊する魔王夫婦様……! 我々を……どうか山ごと粉砕しないでくださいぃぃぃ!!!」
武装強盗50名と、胃が崩壊したスパイは、戦う意志を1ミリも残さず、
全員が持っていた斧や大岩を投げ捨て、
あまりの「地殻ハック突撃戦車」への恐怖に、涙を流しながら地面に頭を擦り付け、全力でひれ伏し、土下座を繰り返すのだった。
◇
数分後。山頂の美しい高台。
「あら、エドワード。あそこにいる方々(強盗たち)、黒い目隠しをしたまま『お赦しください!』って、全力で土下座をされているわよ?」
レイラが優雅に紅茶のカップを置きながら、小首を傾げる。
「おや、本当だねえ。きっとあの子たちのファン(※ただの恐怖の信者です)なんだろう。よし、思い出のコーヒーを淹れる前に、ハンスたちへの追加バイト用にお掃除ロボの登録手続きをしてあげよう」
「「ふふふふ……」」
お揃いのサウナハットを揺らしながら、のんきにピクニックシートを広げる仲良し夫婦。
その頃、実家(※コタツの中)では。
「コタツ(冷却送風モード)最高ね、アリス」
「ええ、エレン。やっぱり朝のハチミツレモネードは脳髄に染み渡るわ」
ぬくぬくのコタツの中で、のんきに新作漫画を貪り読む双子。
新章を迎えたシルバーストーン特区には、目に見えない「極限の電磁気学・力学技術」と、他領の強盗たちを一瞬で恐怖のどん底に叩き落として完全降伏させる「恐るべき電磁誘導突撃戦車の噂」が、優しく、そして最高にお気楽に広がり続けるのだった。




